見出し画像

いつから変なおじさん?

学校から家に帰るためのバスロータリーには変な人が多い。前回に引き続き、これは私が高校生の頃の話である。
当時受験生であった私は、英単語帳を読みながら登下校を行っていた。
ある日の学校の帰り道、まだバスが来るまでしばらく時間があったため、バス停のベンチに腰掛け、いつものように単語帳を開いていた。
しばらくすると、1人の男性(おじさん)が私の隣に座った。近くのスーパーの惣菜コーナーに売っている、卵で包まれた焼きそばの入った容器を手に持っていた。
おじさんは、私の顔と単語帳との間に自分の頭をねじ込むほどの勢いで、単語帳を覗き込んできた。
「これ英語?」
当初の私はこの人をただの"知らない人とのお喋り大好きおじさん"だと判断し、「そうですよ〜」と好意的に話を進めた。最初こそ普通に会話していたものの、次第におじさんの様子がおかしくなってくる。
「俺のこと好き?」
そこで私は気がついた。この人、"知らない人とのお喋り大好きおじさん"じゃない。変なおじさんだ!
バス停には5,6人の大人が並んでいた。その人たちに見られているという恥ずかしさから、私はあえてクールに振る舞ってしまい「あ、普通です」などと答えた。
おじさんは突如数字の羅列を口にし出し、電話をかけろというようなことを何度も言って来た。私が断ると、自分の被っていた帽子を地面に叩きつけていた。
おじさんの座る位置もどんどん近づいてきており、肩が触れていた。
今の私だったら少しでも不快に感じたらすぐにでも違う場所へ移動するが、当時の私はあと少しでバスが来るであろうことや、ここで席を立ってもどうせすぐ目の前のバス停には並ばなくてはならないことなどを考え、耐えるという選択肢を取ってしまった。恐怖で動けなかっただけかもしれないが。
バス停に並んでいる内の1人であるサラリーマンと目が合った。その人に向かって(どうにかして助けてー!)と目で訴えた。依然として目は合っていたが、声はかけてくれなかった。というか、その場にいた誰も助けてくれなかった。おじさんとのエピソードより、サラリーマンに向かって念を送り続けたことの方がより深く印象に残っている。
パッとおじさんの顔を見ると、ニタっと笑った口から覗く所々抜けた歯に、ベッタリと付着した青のりが見えた。焼きそば、食べたんだ。
プシューとバスの到着音が聞こえるや否や、私はすぐさま立ち上がってバスに乗り込んだ。バスの座席に座ってもまだ心臓がバクバク言っているのがわかった。時間にしたら10分ほどかもしれないが、すごく長い時間に感じた。
それ以降、ベンチには座らないようにしているが、そのおじさんとは度々バス停で遭遇した。私は覚えられてしまったようで、バス停に立って並んでいても、私がリュックにつけていた動物モチーフのキーケースを見て「熊のねーちゃん!」とベンチの方から呼んでいるのが聞こえた。私は無視を決め込んだ。おじさんがバス停にいる"ハズレ"の日がすごく嫌だった。ちなみに、キーケースのモチーフとなっている動物は犬である。

街中で小さい男の子を見るたびに思う。
変なおじさんは、いつから変なおじさんになるの?小さい頃はみんなこんなに可愛いのに。
保育園、小学校、中学校の同級生が変なおじさんになってJKに話しかけている想像がつかない。もしも人間と比べてめちゃくちゃ寿命が長い高次元の生き物がこれを読んでいたら、夏休みの自由研究などで可愛い男の子が変なおじさんになる過程をぜひ観察してみてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?