変形性膝関節症(OA)の病態と進行メカニズム
出典:『極める 変形性膝関節症の理学療法 保存的および術後理学療法の評価とそのアプローチ』
著者:斉藤秀之、加藤浩、山田英司(編集)
変形性膝関節症(OA)は、加齢や肥満、遺伝、外傷といった様々な因子が複合的に影響して発症する疾患です。膝関節にかかる負荷や安定性が失われると、膝OAが進行しやすくなります。今回は膝OAの病態について、どのようなメカニズムで進行するのかを詳しく解説します。
1. 関節軟骨と軟骨下骨の変性
膝OAの特徴は、関節軟骨が摩耗し、軟骨下骨が硬化していくことです。関節軟骨は無血管組織で栄養供給が限られているため、関節への負荷が繰り返されると軟骨の細胞外基質が破壊されやすくなります。これにより、軟骨は柔軟性を失い、亀裂や潰瘍が生じ、最終的には摩耗が進行します。また、軟骨下骨は骨鰾(こつひょう)と呼ばれる骨の増殖によって硬化し、摩擦音や痛みが発生しやすくなるのが特徴です  。
2. 炎症と滑膜の関与
膝OAで痛みが発生するのは、関節の炎症によるものが多いです。関節内での摩耗によって、関節軟骨から炎症性分子が放出され、これが滑膜に影響を与えます。滑膜が刺激されると、痛みや腫れといった炎症反応が発生し、さらに軟骨の変性が進む悪循環(ポジティブフィードバックループ)に陥ります。特に、膝蓋下脂肪体などの脂肪組織が関与することで炎症が進みやすくなることも報告されています  。
3. 関節動揺性と内反モーメント
膝OA患者では、関節の不安定性(動揺性)が進行を加速させる要因です。膝の安定が損なわれると、歩行時に膝が内側に倒れる内反モーメントが発生しやすくなります。この内反モーメントが大きくなると、膝の内側に過度な負荷がかかり、関節裂隙が狭小化する原因となります。関節動揺性が高い人は、筋力強化運動の効果も薄れやすいため、リハビリテーションで安定性を重視する必要があります  。
4. 痛みのメカニズムと多層的な病態
膝OAの痛みは、関節内部の問題だけでなく、膝周囲の組織からも生じることが多いです。例えば、膝蓋下脂肪体が線維化して動きが制限されると、膝の屈伸時に痛みを感じやすくなります。また、骨同士が直接接触することによっても痛みが生じ、これは関節軟骨の減少に伴う典型的な症状です。関節痛だけでなく、関節周囲の痛みを正確に評価し、どの組織にアプローチすべきかを見極めることが重要です 。
まとめ
膝OAは、関節の摩耗と炎症が進行する多層的な病態であり、症状の進行や痛みが多様な要因により引き起こされます。理学療法士としては、患者さん個々の病態に合わせたリハビリ計画を立て、痛みの原因となる組織や関節の動揺性を評価しながらアプローチすることが重要です。