「腰痛診療の最新ガイド:理学療法士が知っておきたい要点」
書籍: 『そうだったのか!腰痛診療~エキスパートの診かた・考え方・治し方~』(南江堂)
著者: 松平浩・竹下克志
はじめに
理学療法士として腰痛患者に向き合うとき、どのように診断し、どのようなアプローチで治療すべきか、悩むことも多いでしょう。腰痛は患者にとって生活の質を大きく左右する問題であり、理学療法士としてその支援をすることは非常に重要です。本記事では、松平浩・竹下克志著の『そうだったのか!腰痛診療~エキスパートの診かた・考え方・治し方~』から、理学療法士に役立つ情報をまとめました。
腰痛の実態と背景
腰痛は世界的に見ても非常に高い有病率を誇る疾患で、日本においてもその傾向は顕著です。厚生労働省の調査によると、腰痛の生涯有病率は80%を超え、成人の4人に1人が腰痛によって社会活動を制限された経験があります。また、慢性腰痛患者の約半数は他の部位にも痛みを抱えており、生活の質が低下しやすいことが分かっています 。
非特異的腰痛と特異的腰痛
腰痛は大きく「特異的腰痛」と「非特異的腰痛」に分類されます。特異的腰痛は脊椎腫瘍や椎間板ヘルニアなど、明確な器質的異常が原因とされるものです。一方、非特異的腰痛は特定の原因を特定しにくく、診断が難しいのが特徴です。プライマリケアの現場では、多くの患者がこの「非特異的腰痛」に分類され、治療方法や診断が医師やセラピストのスキルに依存する場合が多いです 。
理学療法士が知っておくべき診断と評価ポイント
松平・竹下の著作では、腰痛の診断や治療に役立つスクリーニングツールや評価方法が紹介されています。以下の点が特に重要です。
1. プライマリケア段階での評価
•Keele STarT BackスクリーニングツールやOMPSQ短縮版を用いることで、患者の予後に影響を与える恐怖回避思考(fear-avoidance)モデルへの傾倒を早期に見抜くことが可能です。
•SSS-8(身体症状スケール)を使用して、心理的ストレスが原因の身体的反応の評価も行えます 。
2. 痛みのメカニズム
腰痛の痛みは、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、中枢性感作の3つに分けて考えることが推奨されています。痛みの種類に応じた適切な治療を選択するためには、これらのメカニズムを理解することが必要です 。
3. 動作・姿勢の評価
腰痛が動作や姿勢に依存するかを確認することが重要です。例えば、特定の動作で痛みが悪化しない場合や、楽な姿勢がある場合には、メカニカルなストレスが関与している可能性が高いです 。
治療に役立つアプローチ
1. 心理社会的アプローチ
非特異的腰痛は、心理的および社会的要因が強く影響します。特に「恐怖回避思考(fear-avoidance)」が強い患者に対しては、恐怖心を和らげ、積極的に動作することを奨励する教育が重要です。これには、英国で使用されている「The Back Book」などの患者教育ツールが効果的です 。
2. 身体的リハビリテーション
エクササイズ療法が中心的なアプローチとなりますが、個別の患者に応じて姿勢矯正やストレッチ、コアエクササイズなどを組み合わせて行うことが推奨されています。また、必要に応じて薬物療法を組み合わせることで、痛みの軽減を図ります 。
腰痛管理における今後の展望
腰痛は若年期から老年期まで、一生涯にわたって影響を及ぼす可能性があります。特に、早期の教育と予防が長期的な腰痛管理において重要です。また、高齢化社会に向けて、健康寿命を延ばすためにも、運動指導や適切な体重管理が必要です。医療者と患者が協力して、腰痛に対する正しい理解と予防策を広めることが求められます 。
おわりに
理学療法士として、患者にとって最適な治療を提供するためには、腰痛の背景にある複雑な要因を理解し、適切なアプローチを選択することが必要です。松平浩・竹下克志の著書は、こうした複雑な腰痛診療のガイドとして非常に有用な情報を提供しています。ぜひ、日々の臨床に役立ててください。