イギリスの築500年の家でタコウインナーをごちそうになる
6月1日から5日の四泊五日、DevonというところのOkehamptonに滞在した。日本でもだいぶ報道されていたようだけど、6月2日3日が即位70周年ジュビリーがらみのBank Holidayだった。
空手友達のRが、姉Mの家に一族が集まるからということで、マンチェスターから車で5時間かかるそこへ連れていってくれた。
カバー写真にあるように、漆喰の壁と藁ぶき屋根でできた築500年のなんともメルヘンなすてきなお宅ですごした。
室内の梁はひとつひとつが味わい深く、古い暖炉も現役で使用している。
室内も外も、なんとなく傾いでいる感じがユーモラスですらあり、ともかくなごむ家だった。
漆喰の壁にしんしんと音がしみ込んでいくようで、とにかく夜はよく眠れた。
16世紀からいったい何世代、何人、何家族が暮らし、そしてどんな人たちが泣いたり笑ったりしながらここに住んできたのだろう。
古い建物を大事に使うイギリス人の所業が好きだ。
前の持ち主は農家だったそうで、周囲には農園が広がっている。
姉Mとその夫Rはもともとロンドン近郊で暮らしていたのだけど、ひとめで気に入ったここへ、昨年越してきたのだそうだ。
農家ではないのだが、仕事から帰ると野菜づくりを楽しんでいる。
私が行った時には、玉ねぎ、赤玉ねぎ、ねぎ、にんじん、その他もろもろの野菜をたくさん育てていた。
リンゴや梅の木も植えていた。いずれも背は低いのだけど、リンゴは今年にも収穫できると言っていた。
日本びいきのふたりは数本の桜で並木をつくり、花が咲くのを楽しみにしている。
一族が総勢13人も集まるので、写真のように庭にテントを設営し、何人かはそこで寝泊まりすることになった。
雄大な自然の中でみんなそれぞれくつろいで、おしゃべりしたり、食べたり飲んだり、BBQも楽しんだ。
それはそれはいろいろなことがあったのだけど、そのひとつが夕食Hot Pot(要するに鍋)の具材にまつわる一件だった。
「ほらOctopus Wiener(タコウインナー)だよ。グラナダ食べて」といってMが私に得意げに見せた。
私は言った。「これ日本のものなんだけど、どうしてこの作り方知ってるの?」
M「え?これ日本のものなの?A(妹)が教えてくれたの。A、あんたなんで日本のOctopus Wienerの作り方知ってたの?」
A「あんたの娘、G(Mの娘、23歳)に聞いたのよ」
Mと私「え?」
私「G、どこでこの作り方知ったの?」
G「日本のマンガかアニメか映画で見たの。なんだったかは忘れたけど」。
そうなのだ、日本のアニメやゲームや映画はほんとにファンが多いのだ。
まさかこういう形で、しかもイギリスで、しかも築500年の家で、タコウインナーに再会するとは思わなかった。
500年前の持ち主も、ゆくゆくはここでタコウインナーが食されることになるとは夢にも思わなかっただろう。
タコウインナーの写真で気づいたかもしれないが、Hot Potは中華風でたいへん美味だった。
RやAたちのご両親はもう他界されているのだけれど、香港から移住してきたのだった。
母親ゆずりの本格中華の達人であるAに、ではお礼に(チャイニーズ・スーパーマーケットで調達した食材で)「日本食」でもつくってさしあげようなどと思った私は間違いだった。
そもそも、そんな「お返し」などつゆほども気にしない、いい人たちだった。
「じゃあ次にグラナダがここに来るのはクリスマスだね」と、帰りしなになんども言ってくれた。
ありがとう。
カバー写真:Okehamptonの家(2022年6月2日)