うらしま太郎・第2話(浅野浩二の小説)

ある浜辺の村に、うらしま太郎、という青年がいました。
うらしま太郎、は、幼少の時、(お伽話)、の、「浦島太郎」、の、話を読んで、その話が、いたく、気に入ってしまって、何度も、読み返しました。
うらしま太郎、は、毎日、浜辺へ行っては、
「竜宮城へ連れて行ってくれる亀は、いないかなあ」
と、時の経つのも、忘れ、日が暮れるまで、海を眺めていました。
(本当に、海の中には、竜宮城があって、きれいな、乙姫さま、が、いるのだろうか?)
(竜宮城、って、どれほど素晴らしい所なんだろうなー?)
(乙姫さま、って、どれほど、奇麗なんだろう?)
と、うらしま太郎、は、海を見ながら、考えていました。
その思いは、うらしま太郎、が、成長して、若者になっても、かわることは、ありませんでした。
子供の頃に、ギリシア神話のトロイヤの話に、感動して、大人になり、考古学者になって、本当に、発掘活動をして、ギリシア神話のトロイヤの遺跡、を、発掘した、ハインリヒ・シュリーマンのように、無邪気な子供の頃、熱烈に憧れたものは、大人になっても、変わることがないのです。
それと、同じように、うらしま太郎、も、成長して、若者になっても、海の中には、竜宮城があって、きれいな乙姫さま、が、いることを信じていました。
うらしま太郎、は、毎日、仕事が終わると、浜辺に行って、その夢想に浸りながら、日が暮れるまで、海を見ていました。
(竜宮城、って、どれほど素晴らしい所なんだろうなー?)
(乙姫さま、って、どれほど、奇麗なんだろう?)
と、想像を楽しみながら。

ある日のことです。
うらしま太郎、は、仕事が終わって、いつものように、浜辺に、行きました。
すると、どうでしょう。
うらしま太郎、は、びっくりしました。
なぜなら、村の子供たちが、寄ってたかって、大きな亀を、いじめていたからです。
「やーい。やーい。ドン亀」
と、子供たちは、囃し立てて、棒で、巨大な亀を、叩いていました。
うらしま太郎、は、当然、子供たちを、注意しました。
「こらこら。君たち。そんな、可哀想なことを、するものじゃないよ」
と、うらしま太郎、は、子供たちを諌めました。
すると。
「うわー。逃げろー」
と、子供たちは、うらしま太郎、に、叱られて、蜘蛛の子を散らすように、逃げていきました。
「ああ。ありがとうございました。もう少しで、いじめ殺される所でした」
亀は、助けてもらった、お礼を言いました。
「あ、あの。お名前は?」
亀が聞きました。
「私は、うらしま太郎、と言います」
うらしま太郎、は、答えました。
「うらしま太郎さま。ぜひ、助けて下さった、お礼をしたいと思います。ぜひとも、私と一緒に、竜宮城へ、行ってもらえないでしょうか?私は、亀蔵と言って、竜宮城にいる、乙姫さまに、仕えている、乙姫さまの、家来なのです」
亀は、そう言いました。
「わかりました。有難うございます。私も、ぜひ、竜宮城に行って、乙姫さまに、会いたいです」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「それでは、私の背中に、お乗りください」
亀に、促されて、うらしま太郎、は、大きな、亀の甲羅の背中に乗りました。
亀は、海の中に、入ると、スーイ、スーイ、と、泳ぎ出しました。
亀の背中に乗って、海上を走るのは、なかなか、快適でした。
水上バイクに、乗っているような気分です。
「うらしま太郎さま。竜宮城は、海の底にあります。これから、海の中に、潜ります。しかし、ご安心ください。龍神の、神通力によって、うらしま太郎さまは、海中に入って呼吸しなくても、大丈夫です」
亀は、そう言いました。
そして、亀は、海の中に、潜水していきました。
亀の言った通り、うらしま太郎、は、海中に入って、呼吸が出来なくなっても、苦しくならず、平気でした。
うらしま太郎、は、子供の頃に、憧れて続けていた、夢が、本当に、かなって、言葉に言い表せない、最高の喜びを感じていました。
海の中では、様々な魚が、泳いでいます。
やがて、きれいな、お城が見えてきました。
「うらしま太郎さま。あれが、竜宮城です」
亀が言いました。
「乙姫さまー。ただいま、帰りました」
竜宮城に着くと、亀は、大きな声で叫びました。
すると。
「はーい」
という、声が聞こえました。
そして、竜宮城の戸が、開きました。
そして、美しい女性が顔を現しました。
「お帰り。亀蔵」
と、美しい女性は、亀に言いました。
「乙姫さま。ただいま、帰りました」
亀が、言いました。
「あら。こちらの方は誰?」
乙姫が亀に聞きました。
「乙姫さま。この方は、うらしま太郎さま、といいます。この方は、私が、浜辺で、子供たちに、いじめられている所を、救ってくださったんです」
亀は、乙姫に、そう説明しました。
「そうだったのですか。うらしま太郎、さま。それは。それは。どうも、ありがとうございました。この亀は、亀蔵と言って、私の大切な家来です。ぜひとも、お礼をしたく思います。さあ、どうぞ、お上がり下さい」
そう言って、乙姫は、うらしま太郎に、恭しく、頭を下げました。
うらしま太郎、は、乙姫を見て、驚きました。
想像以上に、あまりにも、美しかったからです。
そして、感動しました。
なぜなら、乙姫の上半身は、人間と、同じですが、下半身は、人間と違って、足が無く、魚のような、尾ひれ、になっていたからです。
つまり人魚です。
うらしま太郎、は、乙姫の体は、人間と同じ構造なのか、それとも、人魚なのか、の、どちらかは、どうしても、想像が出来ませんでした。
しかし、うらしま太郎、は、乙姫が、人魚であってくれたら、どれほど素晴らしいだろうか、と、思っていたのです。
「これは、これは、乙姫さま。お目にかかれて光栄です」
と、うらしま太郎、は、恭しく、深くお辞儀しました。
「さあ。どうぞ、お上がり下さい」
乙姫は、うらしま太郎、の、礼儀正しさ、に、喜んだのでしょう。
ニコッと、微笑んで、言いました。
「それでは、お邪魔いたします」
そう言って、うらしま太郎、は、竜宮城の中に、入りました。
竜宮城の中は、地上と同じように、海水ではなく、空気で満たされていました。
うらしま太郎、は、子供の時から、竜宮城は、空気で満たされている、と、思っていました。
いくらなんでも、海水の中で、長い月日を、乙姫と、仲睦まじく過ごす、というは、物理的に、ありえないように思われたからです。
「浦島さま。家来の、亀蔵を助けて下さってありがとうございました」
乙姫は、あらためて、うらしま太郎、に、礼を言いました。
「いえ。人間として当然のことをしたまでです」
うらしま太郎、は、謙虚に言いました。
「やっぱり、優しい方なんですね」
乙姫は、また、ニコッと、微笑みました。
「ところで、乙姫さま。つかぬ事をお聞きしたいのですが・・・」
「はい。何でしょうか?」
「乙姫さま、は、海の中を、自由に、何時間でも、泳ぎ続けることが出来るのですか?」
「ええ。出来ますわ」
「イルカのように、時々、空気を呼吸しなくてはならないんですか?」
「いいえ。呼吸しなくても、いつまでも、海の中を、泳ぐことが出来ます」
「では。今は、空気の中にいますが、時々、肌の乾燥をふせぐため、海に入らなくては、ならないのですか?」
うらしま太郎、が聞きました。
イルカの肌は乾燥に弱く、長時間水に触れていないと火傷に似た症状が発生して死んでしまうからです。
「いいえ。空気の中でも、何時間でも、生きていられますわ」
乙姫は、嬉しそうに答えました。
「では水陸両用なんですね」
うらしま太郎、が、聞きました。
「え、ええ。まあ、そうかも、しれませんわ」
乙姫は、照れくさそうな顔で答えました。
「それは、うらやましい。魚のように、水中で、自由に泳げて、しかも、陸でも、生きられるなんて・・・」
うらしま太郎、は、そう、言いました。
乙姫は、照れくさそうに、微笑みました。
「ところで、うらしま太郎、さん」
今度は、乙姫の方が、うらしま太郎、に、話しかけました。
「はい。何でしょうか?」
「私は、うらしま太郎、さんに、謝らなけばならないことがあります」
乙姫が真顔になりました。
「それは、何でしょうか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
乙姫は、おもむろに、話し出しました。
「浦島さん。実を言うと、私は、海の中で、ひとりぼっち、で、さびしかったんです。それで、時々、人間界の、浜辺へ行って、人間を見ていました。人間は、友達と、仲良くしていて、うらやましかったんです。しかし。人間って、どういう動物なのか、わからなくて、それが、こわくて、人間に、話しかけることは、出来ませんでした。もしかすると、捕獲されて、動物園に入れられて、人間の、見世物にされて、しまうんでは、ないか、とも、心配しました。実際、人間は、イルカを、捕まえて、芸を仕込んで、人間の、ショーにしています。しかし、人間は、クジラの捕獲に反対したり、絶滅危惧種を保護したりして、動物愛護の精神も持っています。それで、私は、人間とは、どういう動物なのか、知りたくて、テストしてみたんです。私は、長いスカートを履いて、下半身がバレないようにして、村の子供たちに、亀をいじめて、欲しい、と、たのんだのです。そうしたら、あなたが、亀を助けて下さいました。私は、人間、って、優しい動物なのだと確信しました」
乙姫は、自信に満ちた口調で、キッパリと言いました。
「なるほど。そうだったのですか。でも、そんなことは、謝るに価しないことですよ。お礼を言うのは私の方です。私は、子供の時に、(浦島太郎)、のお伽話、を読んで、とても、感動して、それ以来、ずっと、竜宮城、や、乙姫さま、って、本当にいるのだろうか、と、疑問を持ち続けていました。本当に、いて、会えたら、素晴らしいな、って、思っていたのです。今、まさに、こうして、あなたと会えたのは、夢、実現です」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「そう言って、もらえると、とても、嬉しいです」
乙姫は、顔を赤くして、照れくさそうに言いました。
「乙姫さま。は、想像以上に、美しくて、純粋な方だ」
うらしま太郎、は、最高に感動していました。
「では、今日は、手によりをかけて、美味しい料理を作りますので、召し上がって下さい。そして、うらしま太郎、さま、が、満足するまで、ここで、ごゆるりと、お過ごし下さい」
と、乙姫は、言いました。
「でも、あまり、長く居ると、私に、玉手箱を、渡すんでしょう。そして、私を、一気に、老人にしてしまうんでしょう?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「そんなこと、絶対に、しませんわ。人間の作った、お伽話の、(浦島太郎)、の話のラストは、意地悪ですね。私が思うんですが、おそらく、あれは、あまり長い時間、遊んでばかりいると、後悔するよ、という、教訓だろうと思います」
乙姫は、少し、怒った顔で言いました。
「そうですか。それを聞いて安心しました」
うらしま太郎、は、ほっと、胸を撫でおろしました。
その晩は、乙姫は、手によりをかけて、うらしま太郎、のために、豪勢な料理を作りました。
その料理とは。
キャビア。フォアグラ。サザエのつぼ焼き。鯛。鯖(さば)の塩焼き。カレイの煮付け。アジの塩焼き。サーモンムニエル。イワシのつみれ汁。さんまの塩焼き。サンマの蒲焼。アナゴの天ぷら。カツオのタタキ。鮭のホイル焼き。ブリの照り焼き。鯖の味噌煮。うなぎの蒲焼き。鱈のムニエル。ナステーキ。辛子明太子。鮭のちゃんちゃん焼き。ふぐ刺し。
などです。
全部、魚料理でした。
乙姫は、海の中で、暮らしているので、それも、無理はありません。
それでも、うらしま太郎、は、「美味しい。美味しい」、と言って、乙姫の作った魚料理を食べました。
「お味はいかが?」
という、乙姫の少し自慢げな質問に対し、うらしま太郎、は、
「最高の美味です」
と、答えました。
乙姫は、ニッコリ笑って、
「そうでしょう。魚には、必須脂肪酸の、EPA、や、DHA、が、たっぷり含まれていますから、中性脂肪やコレステロールを下げ、血管や血液の、働きを向上させますから、健康にも、とても、いいのですよ」
と言いました。
うらしま太郎、は、「最高の美味です」、とは、言ったものの、本心では、「温かい、ご飯や、肉、や、野菜も、欲しいものだな」、と思っていました。
しかし、乙姫を失望させたくないので、それは、言わず、「美味しい。美味しい」、と、だけ言いながら、食べました。
しかし、さすがに、ふぐ刺し、だけは、大丈夫かな、と心配しながら、食べました。
ふぐ、には、テトロドトキシンという猛毒が含まれていますから、ふぐ調理師免許を持っていないと、調理できません。
しかし、乙姫は、海や魚のことは、詳しく知っているから、大丈夫だろう、と思って食べました。
乙姫は、全裸ではなく、ピンク色の、ブラジャーを着けていました。
「乙姫さま。そのブラジャーは、どうしたのですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「ああ。これね。これは、夏、海水浴場に、近づいてみたら、海に、浮かんでいたので、持ってきたのです。人間って、こういう洒落た物を着けるのかと、思って、興味本位で、着けてみたら、結構、着け心地がいいですね」
と、ニコッと、笑って言いました。
食後。
乙姫は、鯛、や、ヒラメ、を、大勢、呼びました。
「さあ。あなた達。うらしま太郎、さま、の、おもてなし、です。踊りなさい」
乙姫は、命じました。
乙姫は、魚と話が出来るのです。
「はい。乙姫さま。わかりました」
そう言って、鯛、や、ヒラメ、は、優美な踊りを、うらしま太郎、に披露しました。
その夜は、うらしま太郎、は、乙姫と、巨大な、真珠貝の、中の、フカフカの、ベットで、手をつないで寝ました。
もちろん、乙姫とセックスすることは、出来ません。
なにせ、乙姫は、下半身が、魚なのですから。
しかし、そういう物理的な理由も、ありますが、うらしま太郎、は、ジェントルマンシップを持っていたので、というか、ストイックなので、いきなり、抱きつく、という趣のないことは、したくなかったのです。
こうして、うらしま太郎、は、竜宮城、で、乙姫と、一緒に、楽しく暮らしました。
しかし、竜宮城、には、テレビも、パソコンも、何もなく、だんだん、うらしま太郎、は、退屈になってきました。
その上、料理は、毎日、魚料理ばかりです。
乙姫は、うらしま太郎、に、陸の人間のことを、さかんに聞きたがるので、うらしま太郎、は、乙姫に、人間の生活のことを、詳しく説明してやりました。
テレビ、や、パソコン、や、車、や、新幹線、や、飛行機、があること。
スポーツ、があり、ファッション、があり、食べ物は、魚料理だけではなく、ビーフステーキ、や、甘いスイーツ、があること。
など、何でも話してやりました。
乙姫も、海の中だけの、生活に、飽きていたのでしょう。
「ステキ。私も、陸の生活をしてみたいわ」
と、言いました。
「じゃあ。陸に上がって、僕の家で、少し、暮らしてみないかい?」
うらしま太郎、が、提案しました。
「でも。私。足が無いから、陸で、生活できるかしら?それに、人に見られたら、どうしようかしら?」
乙姫が言いました。
「大丈夫だよ。ロングスカートを履いていれば、尾ひれ、は、隠せるよ。それと、移動は、車椅子を使えば、出来るよ」
うらしま太郎、が、言いました。
乙姫は、しばし、俯いて、考えていましたが、パッ、っと、顔を上げました。
「わかったわ。それじゃあ、うらしま太郎、さん、の家に、行ってみるわ」
乙姫が言いました。
「じゃあ、行こう」
うらしま太郎、が、言いました。
こうして、乙姫は、陸に上がることになりました。
乙姫は、うらしま太郎、と、手をつないで、竜宮城、を出て、深海の中を、スイスイと、陸を目指して、泳いでいきました。
そして、乙姫は、うらしま太郎、の、村の浜辺へ浮上しました。
早朝だったので、人は、いませんでした。
うらしま太郎、は、乙姫に、
「ちょっと。待ってて。家に行って、車をもってくるから。それまで、岩陰に隠れていて」
と、言って、家にもどりました。
うらしま太郎、は、急いで、家にもどると、すぐに、車に乗って、浜辺へ向かいました。
浜辺へ着くと、うらしま太郎、は、岩陰に身を潜めている、乙姫を抱きかかえて、車の助手席に乗せました。
車に乗せてしまえば、もう、安全です。
うらしま太郎、は、車を飛ばして、家に向かいました。
家に着くと、うらしま太郎、は、乙姫を、抱きかかえて、家の中に入れました。
そして、自分の部屋のベッドに寝かせました。
「お兄ちゃん。お帰り。一週間も、どこへ行っていたの?」
うらしま太郎、の、妹の京子、が、やって来て、聞きました。
「いや。ちょっとね。へへへ・・・・」
と、うらしま太郎、は、頭を掻いて、言葉を濁しました。
翌朝になりました。
うらしま太郎、は、妹に、乙姫のことを、話そうか、話すまいか、迷いました。
しかし、うらしま太郎、の、妹は、優しく、口も軽くありません。
それでも、一応、妹に聞いてみました。
「ねえ。京子。京子は、人魚って、本当にいると、思う?」
「うーん。わからないな。でも、いたら素敵だわね」
京子は、兄同様、ロマンチックな性格でした。
「じゃあ、紹介するよ」
そう言って、うらしま太郎、は、自分の部屋から、乙姫を、連れてきました。
「初めまして。乙姫と申します」
乙姫は、恭しく、京子に、挨拶しました。
「うわー。人魚だ。人魚って、本当にいたのね」
京子は、目を白黒させて、驚きました。
「この方は、乙姫といって、海の底の竜宮城、に、住んでいるんだ。人間の世界の話をしてやったら、ぜひ、見たい、と言うから、連れてきてあげたんだ」
うらしま太郎、は、妹に、そう説明しました。
「ふーん。竜宮城、や、乙姫さま、って、本当にあったのね。あれは、お伽話の、作り事だとばかり思っていたわ」
妹が言いました。
「よろしくね。乙姫さん」
「よろしく。京子さん」
こうして、二人は、すぐに、仲良しになりました。
京子は、高校3年生です。
「京子。乙姫さま、のことは、秘密だそ。世間で、騒がれるからな」
うらしま太郎、が、言いました。
「もちろん、誰にも、喋らないわ」
口の堅い京子は、キッパリと、言いました。
京子は、乙姫を、自分の部屋に連れて行って、人間世界のことを、こと細かく、教えてやりました。
乙姫は、興味津々の顔つきで、聞いていました。
その日の、夕食は、ビーフステーキでした。
うらしま太郎、と、妹と、乙姫は、三人で、夕食を食べました。
温かい、ご飯と、みそ汁、と、デザートは、アップルパイ、でした。
「美味しいわ。こんな、美味しい、料理、生まれて初めて食べたわ」
乙姫は、嬉しそうに、言いました。
数日、京子は、学校から、帰ってくると、すぐに、乙姫と、トランプをしたり、将棋をしたりして、遊びました。
季節は、7月に、入りました。
村で、七夕祭りがある、ということで、乙姫は、ぜひとも、見てみたい、と、言いました。
「じゃあ。連れて行ってあげよう」
うらしま太郎、が、言いました。
京子が、乙姫に、浴衣を着せてやりました。
裾の長い、浴衣なので、尾ひれ、は、隠れて見えません。
「乙姫さま。似合うわよ」
と、京子が言うと、乙姫は、照れくさそうに、ニコッ、と、微笑みました。
うらしま太郎、は、ワゴン車に、車椅子を乗せて、乙姫と、妹を、乗せて、三人で、七夕祭り、に、行きました。
そして、七夕祭り、の、会場に行き、駐車場に、車を止め、車から、車椅子を、降ろして、乙姫を座らせました。
そして、人で、賑わっている、七夕祭り、の、会場を、車椅子を押して、回りました。
人々は、乙姫を、下半身の不自由な、障害者と思っています。
乙姫は、人間たちが、楽しそうに、和気藹々としている、のを、見て、うらやましく思いました。
そして、三人で、屋台の、わたあめ、を、買ったり、焼きそば、を、買ったりして、食べました。
「美味しいわ。美味しいわ。人間って、こんな、美味しい物を食べているのね」
と、乙姫は、ハフハフ、言いながら、焼きソバを食べました。
「ねえ。あれをやってみない?」
と、妹が、乙姫に言いました。
それは、金魚すくい、でした。
「面白そうね」
そう言って、乙姫は、金魚すくい、の、屋台に行きました。
そして、乙姫は、何と、300匹、は、いた金魚を、全部、すくってしまいました。
乙姫は、魚と、魚語で、会話が出来るので、
「金魚さん。すぐに、逃がしてあげるから、網に乗って」
と、言ったからです。
世の、全ての魚は、乙姫の、ことを、敬愛していますから、
「はい。わかりました」
と、言って、逃げることなく、乙姫に、すくわれたからです。
そして、遠くでは、ドカン、ドカン、と、花火、が、鳴り出しました。
「うわー。きれいね」
と、乙姫は、我を忘れて、花火を、見入っていました。
そうして、花火が、全部、打ち尽くされるまで、見てから、夜遅くに、三人は、家に帰りました。
乙姫は、
「人間も、泳ぎ、を、楽しむ、レジャープール、というものに、ぜひ、行ってみたいわ」
と、言い出しました。
うらしま太郎、は、
「仕方ないな。見てるだけだよ」
と言って、車で、大磯ロングビーチに、乙姫を、連れて行きました。
そして、長いスカートを履かせて、人魚であることを、バレないようにして、車椅子に乗せて、障害者を装って、大磯ロングビーチに、入りました。
乙姫は、人間たちが、プールで、楽しそうに、騒いでいるのを、見ているうちに、だんだん、人間と一緒に、泳ぎたい、気持ちが、高じていきました。
乙姫は、ついに、その気持ちを、抑えきれなくなって、スカートを、脱いで、流れるプールに、入りました。
乙姫は、何しろ、世界中の海を、自在に、泳ぎまわれるので、その泳力は、人間とは、くらべものに、なりません。
客の間を、ぬって、スーイ、スーイ、と、目にも止まらぬ速さで、泳ぎました。
「うわー。何だ。ありゃ。人魚じゃねえか」
「うそだろー」
人々は、驚きました。
乙姫は、得意になって、泳ぎまわりました。
人間たちと、友達になりたかったのです。
うらしま太郎、は、心臓が止まるかと思うほど、びっくりしました。
乙姫が、うらしま太郎、の所にもどってくると、うらしま太郎、は、
「乙姫さま。だめじゃないですか。ちょっと、世間を騒がせますよ。すぐ、上がって下さい」
と、厳しく叱りました。
乙姫は、
「ごめんなさい」
と、ちょっと、悪戯っぽく、ペロリと舌を、出して、急いで、プールサイドに上がりました。
そして、うらしま太郎、は、乙姫に、急いで、スカートを履かせて、乙姫を、車椅子に乗せて、急いで、プール場、を、出ました。
そして、乙姫を車に乗せて、家に向かいました。
「乙姫さま。あまり、無茶なことは、しないで下さい」
うらしま太郎、は、厳しく、乙姫に注意しました。
「はい。つい。嬉しくなって。ごめんなさい」
そして、うらしま太郎、は、家に着きました。
しかし、乙姫は、しっかり、写真や、動画に、撮られていました。
You-Tube、に、乙姫の、動画が、アップされ、それは、一日のうちに、100万回、再生されました。
そして、夜のニースでも報道されました。
「今日。大磯ロングビーチに、突如、人魚があらわれました。幸い、人間に、危害を加えることなく、去っていきました。本当に、人魚なのか、どうかは、わからず、警察も行方を捜査していますが、見つかっていません。見つけた方は、すぐに、警察に連絡して下さい。これが、その動画です」
と、撮られた動画が、映し出されました。
翌日の新聞の第一面、も、乙姫の記事でした。
見出し、は、「人魚、現る」で、記事は、
「昨日。大磯ロングビーチに、突如、人魚があらわれました。幸い、人間に、危害を加えることなく、去っていきました。本当に、人魚なのか、どうか、わからず、警察も行方を捜査していますが、見つかっていません」
というようなものでした。
うらしま太郎、は、
「やれやれ。困ったものだ。世間を騒がせて」
と、困惑しました。
うらしま太郎、は、考え抜いた、あげく、乙姫の存在を、カミングアウトさせることに決めました。
うらしま太郎、は、まず世間を混乱させないため、乙姫の、ブログを、開設しました。
そして、乙姫の、メッセージ、や、乙姫の、写真、を、アップしました。
翌日。うらしま太郎、は、乙姫を、車に乗せて、東京海洋大学、に、連れて行きました。
さかなクン、に、紹介するのが、一番、いい、と思ったからです。
さかなクン、は、一見、子供っぽい、話し方をしている、タレントのように、思われていますが、日本一の魚類学者で、東京海洋大学名誉博士、で、東京海洋大学客員准教授、なのです。
その他。
東京海洋大学客員准教授(2006年)→名誉博士(2015年)
特定非営利活動法人自然のめぐみ教室海のめぐみ教室室長
お魚らいふコーディネーター
農林水産省 お魚大使
環境省「環のくらし応援団」メンバー
JF(全国漁業協同組合連合会)魚食普及委員
千葉県立安房博物館客員研究員
千葉県館山市「ふるさと親善大使」第一号
「よしもとおもしろ水族館」研究員(神奈川県横浜市中区、横浜中華街)
新潟おさかな大使(新潟県)
文部科学省・平成23年版科学技術白書表紙絵・デザインコンクール審査委員
日本ユネスコ国内委員会広報大使
明石たこ大使(明石市)
山陰海岸学習館ギョギョバイザー(鳥取県)
なぶら親善大使(静岡県御前崎市)
宮古島海の親善大使(沖縄県)
“渚の駅”たてやま名誉駅長(千葉県館山市)
小笠原諸島PR大使
などの、多くの、魚関係の役職を持っています。
乙姫は、さかなクン、を見ると、
「初めまして。乙姫と申します」
と、手を差し出しました。
さかなクン、も、さすがに、ギョギョギョ、と、驚きましたが、
「初めまして。宮澤正之、と、申します。でも、さかなクン、と、呼んで下さい」
と言って、乙姫と、握手しました。
さかなクン、は、乙姫に、色々なことを、聞きました。
そして、DNA検査をして、人間と同じであることを確認しました。
乙姫は、人間の進化の過程で、水中から陸に上がらず、魚類から、分かれて、進化していった、動物だろうと、さかなクン、は、言いました。
もっと、もっと、詳しく、調べたい、と、さかなクン、は、言い、乙姫も、それに、協力する、と言いました。
ある時、乙姫は、サングラスをかけ、長いスカートを履いて、オリンピックの日本代表選手が、練習する、東京辰巳国際水泳場、に、うらしま太郎、に、連れて行ってもらいました。
日本代表選手が、水泳の練習をしています。
乙姫は、しばし、見物していましたが、皆が、気持ちよさそうに、泳いでいるのを、見ているうちに、自分も、泳ぎたくなってきました。
(人間って、なんて、遅くしか、泳げないんだろう。私なら、あの数倍の速さで泳げるわ)
と、黙って見ていることが、出来なくなりました。
それで、代表選手が、泳いでいる、プールに、飛び込んで、スイスイと、水をかき分けて、泳ぎ出しました。
乙姫は、オリンピックの日本代表選手を、スイスイと、抜いて、泳ぎました。
それを見て、選手もコーチも、吃驚しました。
これなら、金メダル、確実です。
コーチは、前回の、リオオリンピックで優勝して、今回も、日本代表選手に、選ばれた、選手と、乙姫を競争させました。
しかし、乙姫は、世界の海を、自在に泳ぎ回れるので、人間では、とても、かなうはずがありません。
日本代表選手の、数倍の速さで、世界新記録を出して、泳ぎました。
乙姫は、人間のDNAを持っているので、人間と、認めるしか、ありません。
なので、日本の水泳界は、乙姫の、オリンピック参加を求めました。
国際オリンピック委員会の、バッハ会長も、人間である限り、オリンピックの参加を拒否することは、出来ませんでした。
こうして、乙姫は、2020年の、東京オリンピックに、出場することが決まりました。
競泳だけではなく、シンクロナイズド・スイミング(アーティスティックスイミング)、も、水球も。
乙姫は、優しい心の持ち主なので、海の中や、海の上で、魚たちと一緒に、踊るのが好きだったので、踊りが上手く、アーティスティックスイミングの鬼コーチの、井村雅代、の指導も、必要ありませんでした。
水球も、乙姫は、物凄い、スピードで、泳げる上、何時間、水の中にいても、疲れることがありませんから、水球でも、日本代表選手に選ばれました。
そして、乙姫のおかげで、日本は、2020年の、東京オリンピックで、競泳、シンクロナイズド・スイミング(アーティスティックスイミング)、水球、で、全て、金メダルをとりました。
競泳では、乙姫は、世界新記録を、すべて、ぬりかえました。
こうして、乙姫は、日本のスーパースターになりました。
国民栄誉賞、も、当然、受賞しました。
乙姫は、容貌も、どんな、女優より、女子アナより、美しかったので、芸能界は、こぞって、彼女の、写真集、や、ポスター、や、カレンダー、のモデルになり、彫刻家たちは、彼女の像を、作りました。
CM出演の依頼も、無数に来ましたが、乙姫は、全部、引き受けました。
乙姫は、海の中にいた時は、魚たちと友達なので、いつも魚に歌って、魚を楽しませていたので、歌唱力も、凄く上手く、ミュージックステーションに、出演し、毎週連続、ベスト1となり、歌手としても、デビューしました。
CDは、世界、194カ国で、1000億枚、売れ、売り上げは、1000億ドルを超しました。
こうして、乙姫は、日本だけではなく、世界中のスーパースターになりました。
さらに、乙姫は、海、や、魚の、ことは、何でも知っているので、魚類学者として、さかなクン、の、いる、東京海洋大学の特任教授になりました。
翌日のことです。
うらしま太郎、が、乙姫と一緒に、朝ごはん、の時、ニュースを見ようと、テレビをつけました。
すると、テレビ画面には、超大型の、旅客船が、沈没しかかっている映像が、映し出されました。
乙姫は、おどろきました。
アナウンサーが、言いました。
「昨夜、午後9時、仁川港から、済州島へ向けて出港した、韓国の大型旅客船セウォル号が、今朝、8時49分頃、珍島の西方、巨次群島と孟骨群島との間の孟骨水道を、南東に向かって進んでいました。同船は、屏風島と観梅島の間あたりにさしかかった、辺りで、右(南西方向)に45度旋回したところ、急に傾き始めました。船には、修学旅行のための、安山市の檀園高校の二年生の生徒325人と、一般客108人、乗務員29人の計476人が乗船しており、車両150台あまりが積載されています。その後も、船は、どんどん、傾き、沈んでいっています。原因は、いつくか考えられますが、同船の積載量の上限987トンに対し、車、180台を載せていたための、法定積載量の3.6倍となる3,608トンの過積載であったこと。および、コンテナの固定方法に、固定装置が使用されておらず、ロープで縛っただけ、だっため、それが、横倒しになって、船のバランスを崩したものと考えられます。加えて出航前、船長は過積載をごまかすために、『船底に入っている海水』、すなわち、『バラスト』、を、法定基準値の4分の1程度にして、船体を浮上させていました。このことにより船の重心が高くなり、同船は、不安定になって、横倒しになったと考えられます。さらに、事故当時、船長は、船長室にいて、一等航海士が担当しなければいけないところを、入社して4ヶ月の未熟な三等航海士のパク・ハンギョル氏が、操舵していたことも、事故の原因と考えられます。船長は、事故後、船内の乗客に、(そのまま、動かないで下さい)、とアナウンスした上、船から、脱出してしまいました。これらは、セウォル号の、運航会社の、(清海鎮海運)、の、船舶事業に対する、経費削減のための、人的事故、と思われます。韓国の、海洋警察も、動き出しましたが、現場海域は海水が濁っており、視界は20―30センチメートルとほぼゼロの状態であり、さらに流れが急で漂流物も多く、捜索は難航しています。その上、情報が、十分、行き届いておらず、大型客船なので、船内の、どこに、何人、生存者が、いるのかも、把握できず、また、船は、もう、完全に、転覆している上、海洋警察のダイバーも、こういう事態は、経験したことがなく、想定外の事件なので、対処の方法が、分からず、困惑している、とのことです」
と、報道しました。
船が横転し、救助に、なすすべがなく、困惑している様子が、テレビ画面に映し出されています。
乙姫は、すぐに、日本の海上保安庁に電話しました。
「すぐに、ヘリコプターを、私の家、に、よこして下さい。人間の潜水士では、救出は、無理です。私が、全員、救出します」
と、乙姫は、強い語調で言いました。
海上保安庁は、
「わかりました」
と、返事をしました。
すぐに、乙姫の家に、ババババッ、と、爆音が鳴って、乙姫の家の近くの公園に、海上保安庁の、ヘリコプターが、到着しました。
乙姫は、ヘリコプターに、乗り込み、ヘリコプターは、一路、セウォル号、の現場に、直行しました。
そして、ヘリコプターは、沈没しかかっている、セウォル号、の上に、着陸しました。
乙姫は、ヘリコプターから、降りると、すぐに、海中に、潜りました。
乙姫は、魚と、会話が出来るので、近くにいた、魚たちに、命じました。
「この近辺の、サメを、すぐに、探して、すぐに、ここに、来るよう、言いなさい」
乙姫は、そう、魚たちに、言いました。
「はい。わかりました」
魚たちは、そう言って、海の中を、四方八方へと散っていきました。
すぐに、大きな、サメたちが、100匹、ほど、やって来ました。
「この中に、高校生が、325人、閉じ込められています。船内に、入って、全員、救助しなさい」
乙姫は、サメたちに、命じました。
「はい。わかりました。乙姫さま」
そう言って、サメたちは、沈没しかかっている、船内に入っていきました。
サメたちは、海底の、沈没船を、寝床にしたり、遊んだりしているので、大型船の構造は、知っています。
乙姫も、そうです。
乙姫は、船内に入って、檀園高校の、生徒たち、を見つけると、彼らに言いました。
「これから、サメが、船内に入って、あなた達を、船の外に連れ出します。なので、怖がらず、しっかりと、サメにつかまっていて下さい。なので、一分間ほど、息を止めて、我慢して下さい」
と、言いました。
生徒たちは、
「はい。わかりました」
と、言いました。
サメ達が、とんどん、船内に、入って来ました。
生徒たちは、乙姫に、言われたように、サメに、しっかりと、つかまりました。
サメは、生徒たちが、手を放さない程度の、しかし可能な限り、速い速度で、生徒たちを、船内から、救出しました。
乙姫も、陣頭指揮を、とりながら、自分も、檀園高校の、生徒たちを、船内から、船の外へ、連れ出し、そして、海上へと、救出しました。
こうして、檀園高校の、生徒たちは、全員、無事に救出されました。
韓国政府、および、韓国国民は、涙を流して、乙姫に感謝しました。
そして、そのお礼、として、従軍慰安婦問題は、日本の主張通り、日韓合意を、不可逆的に、永久に、順守する、ことを、誓い、従軍慰安婦の像は、取っ払われて、かわりに、乙姫の像が、建てられました。
そして、韓国政府は、竹島は、日本の領土、であることを認めました。
日本政府も、乙姫に、警視総監賞と国民栄誉賞を送りました。
海上保安庁は、乙姫に、
「乙姫さま。大変、恐縮ですが、海上保安庁の顧問になって頂けないでしょうか?」
と、乙姫に、頼みました。
乙姫は、
「いいわよ」
の、一言で、これを、受諾しました。
その後。
海難事故が、起こると、海上保安庁は、乙姫に、すぐに、電話しました。
「乙姫さま。××の海域で、漁船が、転覆しまして、行方不明者が、おります。どうか、お力を貸して頂けないでしょうか?」
と、言われると、乙姫は、すぐに、ヘリコプターを要請し、海に潜って、魚たちに、命じ、行方不明者を探し出しました。
乙姫が、その度ごとに、警視総監賞、を受賞したのは、いうまでもありません。
ある晩のことです。
「乙姫さま。あなたも、出世しましたね」
うらしま太郎、が、言いました。
「これも、うらしま太郎、さん、の、おかげ、だわ」
乙姫が言いました。
「何を言うんです。乙姫さま、が、勇気を出して、陸に上がったから、こういう結果になったのですよ」
うらしま太郎、が、言いました。
「うらしま太郎、さん」
「はい。何ですか?」
「もう、乙姫さま。と、さま。を、つけるのは、やめて下さい」
「では、何と呼べばいいんでしょうか?」
「乙姫、と、呼び捨てにして下さい」
「はい。わかりました」
「うらしま太郎、さん。私は、あなたを愛しています」
「僕も、あなたを、愛しています」
うらしま太郎、は、そう言って、一呼吸、置いて。
乙姫の目をじっ、と、直視しました。
「乙姫さん。僕と結婚して下さい」
うらしま太郎、は、勇気を出して言いました。
「はい。私は、あなたが、そう言ってくれるのを、待っていました。私も、世界中で、愛しているのは、うらしま太郎、さま。あなた、です」
二人は、お互い、ガッシリと、抱き合いました。
乙姫は、当然、日本政府の、沖縄の辺野古の、埋め立て、には、反対していました。
沖縄の、エメラルドグリーンの美しい、海には、サンゴ礁も、あれば、カラフルな、亜熱帯の、魚も、たくさん、います。
乙姫にとって、美しい、沖縄の海が、埋め立てられることは、とても、耐えられることでは、ありませんでした。
乙姫は、時々、沖縄の、辺野古へ、行って、沖縄県民と、辺野古の、埋め立て、に、反対していました。
乙姫に、とって、世界中の海は、庭のようなものです。
なので、本土から、沖縄へは、かんたんに、泳いで行けます。
それに、海の中でも、生きていられるので、溺れる、ということも、ありません。
沖縄県知事の選挙が、近づてきた、ある日のことです。
乙姫は、沖縄県民と一緒に、辺野古の埋め立て、反対を訴えている、沖縄県知事選の、立候補者である、玉城デニー氏、を、応援するために、沖縄に、泳いで行きました。
その日は、日本政府が、強引に、辺野古の埋め立て、を、している時でした。
乙姫は、辺野古の海から、大声で、
「お願いです。辺野古の海を埋め立てないで下さい」
と、叫びました。
しかし、日本政府は、クレーンで、コンクリートブロックを、海中に、投入していました。
「お願いです。辺野古の海を埋め立てないで下さい」
乙姫は、体を張って、クレーンの、下から、叫びました。
その時、クレーンのロープが、切れて、乙姫の、体を直撃しました。
辺野古の埋め立て、を、反対していた、沖縄県民は、焦って、急いで、ボートを出して、乙姫を、救助しました。
意識はありませんでしたが、まだ、かすかに、脈と呼吸は、ありました。
沖縄県民の一人が、乙姫を車に、乗せて、フルスピードで、近くの、総合病院に、運びました。
しかし、乙姫は、DOA(来院時心肺停止)、で、医師たち、の、必死の、救命処置も、むなしく、死んでしまいました。
コンクリートブロックを、海に入れる、クレーンのロープの切れ方は、誰が、どう見ても、事故というより、故意の行為のように、見えました。
しかし、政府は、事故原因を調査する、と、言ったものの、事故原因は、明らかにしませんでした。
沖縄県民は、全員、泣いて悲しみました。
数日後。
沖縄県民、全員が集まって、乙姫の葬儀が行われました。
乙姫は、辺野古の埋め立て、反対を貫き通して、命を落とした、沖縄県の前知事の、翁長雄志の墓に、一緒に、葬られました。
うらしま太郎、は、三日三晩、泣いて悲しみました。
そして、うらしま太郎、は、乙姫の後を追うように、辺野古の海に、身投げして、死にました。



平成30年10月27日(金)擱筆

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