少女との競泳(浅野浩二の小説)

「ふあーあ」
大きな欠伸をして、カバンから携帯電話を取り出して時刻を哲也は見た。12時10分だった。哲也は、不眠症だが、特に、最近の熱帯夜は、クーラーをかけっぱなしにしても、なかなか寝つけない。なんせ、夜も24度もある。遅寝遅起きの生活である。この頃、体調が良くなって、小説が書けるようになったので、毎日、図書館で小説を書いている。そのため、ちょっと運動不足ぎみになっている。しかも、マクドナルドで、期間限定で、マックフライポテトがLサイズで、150円で、期間限定のブルーベリーオレオが美味いので、つい注文して食べてしまう。そのため、少し腹回りに脂肪がついてきた。彼の適正体重は、62kgで、それが健康に一番いいので、それを保っているのだが、今は、おそらく、2kgくらい増えて、64kgくらいになっているだろう。だろう、というのは、彼は、神経質なので、体重計に、頻繁には乗らないようにしているのである。月に、2~3回くらいしか、体重をチェックしないのである。彼は、図書館へ行って、小説を書こうか、それとも、プールへ行こうか、迷ったが、迷っている間に、20分、過ぎて、12時30分になっていた。
「よし。プールへ行こう」
と哲也は決断した。プールは午後一時からである。哲也がプールへ行くのは、泳ぐ楽しみのためではない。プールで一時間、休みなく、泳ぐのが、一番、手っ取り早い、健康法だからである。体調を良い状態に保たないと創作にも差し障りがある。幸い、今日は曇っている。皮膚の弱い彼にとっては、曇っている方が、日焼けしないので、ありがたいのである。
彼は、車を飛ばして、プールに行った。家からプールまで、20分くらいである。距離的には、近いが、信号が多く、GO-STOPなので、20分くらい、かかるのである。
哲也は、12時50分に、プールに着いた。
彼は駐車場に車を止め、400円のプールの入場チケットを買って、場内に入った。彼は、急いで、トランクスを履き、カバンは、コインロッカーに入れて、水泳キャップとゴーグルを持って、シャワーを浴び、屋外のプール場へ出た。時刻は、12時55分だった。手前が、子供用の大きなドーナッツ状のプールである。客は、それほど多くない。昨日の天気予報で、日本列島に台風が近づいており、今日は、午後から、雨が降るかもしれない、と聞いていたせいかもしれない。子供用のプールの奥が、一段高くなっており、そこが50mプールである。幸い、客は少ない。4~5人しかいなかった。午前中は、12時20分までで、午後の一時まで40分の休憩がある。時計が、一時にピタリと合い、監視員がピーと、入水O.K.の笛を鳴らした。哲也は、一番にプールに入った。出来る事をやっても、バカバカしいと思っている彼ではあったが、それでも、美しいフォームのクロールで、一時間、続けて泳げることは、彼の自慢だった。
「泳ぎで、オレの右に出る者はいないな」
そんなことを思いながら、彼は、ゆったりと泳いでいた。数往復した後である。プールの真ん中の25mを過ぎた辺りで、彼の、ちょうど右側を、クロールで、ぐんぐん抜いていく泳者がいた。水玉模様のワンピースの水着である。彼女はプールの壁縁に着いて立ち止まった。彼も、プールの縁に着くと、立ち止まって、ゴーグルをはずし、彼を抜いた泳者を見た。中学一年生くらいの女の子だった。
「おにいさん。遅いですね」
少女は、あどけない顔で、ニコッと笑って言った。
「なあに。僕は、ゆっくり泳いでいるだけさ。速く泳ごうと思ったら、速く泳げるさ」
彼は、自信満々の口調で言った。
「本当かしら。速く泳げないものだから、負け惜しみ、を言ってるんじゃないかしら」
少女は、ガキのくせに、そんな、生意気なことを言った。
哲也は、カチンと頭にきた。少女は、続けて言った。
「私。三歳の時から、スイミングスクールに通ってて、競泳大会では一度も、誰にも負けたことがないわ。家には、競泳大会で優勝したトロフィーが、数えきれないくらいあるわ」
少女は、ガキのくせに、そんな生意気なことを言った。哲也は、少女の、うぬぼれの天狗の鼻を折ってやりたい衝動がムラムラと沸いてきた。
「じゃあ。僕も本気で泳ぐから、競争しようじゃないか」
哲也は強気の口調で言った。
「ええ。やりましょう」
少女は自信満々の口調で言った。
もう、やる前から、勝ったも同然という生意気な顔つきだった。
その時。ピーと、休憩を知らせる、監視員の笛がなった。どこの公共プールでも、そうだが、公共プールでは、50分の遊泳の後に、10分間の休憩時間をとっている。今は、ちょうど、1時50分だった。
「じゃあ、2時から、競争しよう」
「ええ」
そう言って、哲也と少女は、プールから上がった。
少女は、胸もペチャンコで、未発達の体は、色っぽさが、全くなかった。
「ちょっとトイレに行ってくる」
哲也はそう言って、更衣室へ行った。
そして、用を足すと、すぐに、50mプールにもどった。そして少女の隣りに座った。
「あら。よく戻ってきたわね。勝つ自信がないから、てっきり逃げ出したんだと思っていたわ」
少女は、そんな生意気なことを言った。
哲也は、怒り心頭に達していた。2時が待ち遠しくなった。
ピーと2時を知らせる監視員の笛が鳴った。
「よし。じゃあ、勝負しようじゃないか。容赦しないぞ」
「ええ」
そう言って、二人はプールに入った。
「大人と子供では、ハンデをつけなきゃ公平じゃないな。君。5mくらい前からスタートしなよ」
哲也が言った。
少女は、あっははは、と腹を抱えて笑った。
「そのハンデ、逆よ。カメとウサギの競争では、カメにハンデを、つけてあげるものじゃない。あなたが、5m前からスタートしなさいよ」
少女は、そんな生意気なことを言った。
カメ呼ばわりされて、哲也は、怒り心頭に達し、彼の総髪は逆立っていた。
「じゃあ、もしも、万が一にも僕が負けたら、そのやり方で、もう一度、勝負するよ。でも、最初の勝負は、僕の言ったようにやってくれ。もし僕が負けたら、君に5万円あげるよ」
5万円という言葉が効いたのだろう。
「わかったわ。その約束、ちゃんと守ってね」
そう素直に言って、少女は、水の中を歩いて5mくらい、哲也の前に立った。そして、後ろの哲也に振り返った。
「このくらいでいい?」
少女が聞いた。
「ああ」
哲也は肯いた。
「ところで、君が負けた場合は、何をしてくれるの?」
「何をしてもいいわ」
少女は自信満々に言った。
「その約束も、ちゃんと守ってくれよ」
「ええ」
少女は、自信満々の口調で言った。その時。
「京子。がんばれー」
「負けるなよ。京子。絶対、勝てよ」
「京子が負けるはずがないさ」
プールのベンチに座っていた、三人の少年が、口々に少女を応援した。
「彼らは何物?」
哲也が少女に聞いた。
「私の学校の同級生の友達よ。みんな、私を崇拝しているの」
少女は誇らしげに言った。
「ふーん。すごいじゃない。アイドルなんだな」
「だって、スイミングスクールのコーチも、私は将来のオリンピックで金メダル確実だって言ってるんだもの」
「よし。じゃ、始めるぞ。用意」
哲也が言った。少女は、手を前に伸ばし、身構えた。
「スタート」
哲也の合図と共に、哲也と5m前の少女は、全力で泳ぎ出した。
少女は、さすが、スイミングスクール仕込みだけあって速い。しかし、哲也も本気になれば、速いのである。哲也は、全速力で、前を泳いでいる少女を追って、泳いだ。
哲也は、バシャバシャ音を立てて、泳ぐクロールを、美しくないと思っているので、ゆっくりしか泳がないのであって、本気で泳げば速いのである。第一、大人と子供では、リーチが違う。水泳もボクシングと同様に、リーチが長い方が圧倒的に有利なのである。哲也は、どんどん少女に近づいた。
そして、25mを超して30mくらいの時点で、少女のバタ足の足をつかまえた。
「ふふ。つーかまえた」
少女は、「あっ」と叫んで、逃げようとした。
しかし、5mのハンデをつけて、スタートして、追いつかれた時点で、もう、勝負あり、である。哲也は、ポケットからハサミを取り出して、生意気な少女のワンピースの競泳用水着をジョキジョキ切っていった。さっき、ロッカーに行った時、カバンからハサミをポケットに入れて戻ってきたのである。
「や、やめてー」
少女は叫んだか、哲也は、容赦しない。
負けたら何をしてもいい、と言ったので、少女に文句を言う権利はない。のである。
哲也は少女から、水着を引っ剥がした。
二人は、泳ぎながら、ゴールの縁についた。
少女は丸裸である。
少女の顔は泣き出しそうだった。
「どう。やっぱり僕の方が速いってこと、わかっただろ」
哲也は自信満々の口調で言った。
「はい」
少女はコクンと肯いた。
少女は、丸裸なので、プールから出ることが出来ないで困惑している。
「ふふ。恥ずかしいだろう。ちょっと、待ってて」
そう言って哲也は、急いでプールから上がった。そして、ベンチの上のバッグを持ってきた。
「ほら。どうせ、こうなるだろうと思ってたから、さっき、売店に行った時、水着を買ってきておいたんだ」
そう言って哲也は、ブルーの競泳用のワンピースの水着をカバンから取り出した。
「ほら。プールから上がって、水着を着なよ」
哲也に言われて少女は、プールから丸裸のまま、上がった。
少女の胸は、まだ盛り上がっておらず。陰部には、まだ毛が生えていなかった。そのため、女の恥部の割れ目が、くっきりと見えた。
「うわー。すげー。京子のマンコ、見ちゃったよ」
ビーチサイドにいた、彼女の同級生の男たちが、声を大に、驚嘆の叫びを上げた。
「み、見ないで。見ちゃイヤ」
彼女は、あわてて、彼らに背中を向けた。
「うわー。すげー。京子の尻の割れ目、見ちゃったよ」
同級生の男たちが、声を大に、驚嘆の叫びを上げた。
「ほらよ。着なよ」
そう言って哲也は、彼女に、新品の水着を渡した。
彼女は、急いで、水着に足を潜らせて、水着を身につけた。
少女は、その場にクナクナと座り込んでしまった。
彼女は、半べそをかいていた。
「ごめんね。いじわるした、お詫びとして、勝ったけど、これをあげるよ」
そう言って哲也は、少女に5万円、渡した。
少女は、それを、受けとった。
「まあ、世の中、上には上がある、ということが、これで、わかっただろ」
哲也は、そんな説教じみたことを少女に言った。
「はい」
少女は言葉には、謙虚さが籠っていた。
少女は後ろを振り向き、
「木田君。山田君。大杉君。今日の事、他人に言わないでね」
と切なそうな口調で言った。それは哀願にも近かった。
「ああ。言わないよ。でも、京子の裸、目に焼きついてしまって、たぶん一生、忘れないだろうな」
三人の同級生は、そんな告白をした。
少女は、わーん、と泣き出した。



哲也は、家に帰ると、シャワーを浴びた。そして急いで、図書館へ行った。そして、今日のことを、正確に、小説に書いた。なので、この小説はノンフィクションである。
哲也は女子中学生が好きだった。しかし、それは、あくまで制服を着ている女子中学生が好きなのである。心はまだ子供なのに、制服を着ているアンバランスさが好きだった。女子高生になると、太腿が太くなって、性格もスレッカラされてくるので、哲也は女子高生には興味がなかった。しかし、女子中学生は、体つきが、まだ華奢で、性格も、高校生のようにスレッカラされていない子供っぽさを残しているのが好きだった。靴も、運動靴なのが、子供っぽくて好きだった。そして、哲也は、女の水泳選手の姿が嫌いだった。女の魅力は、総々とした、髪の毛にある。濡れたり、水泳キャップで総々とした髪が、見えなくなってしまうのが嫌いだった。そして、哲也は、肉体では、女子中学生の肉体が好きではなかった。彼は、あくまで、膨らんだ胸と、むっちりした尻と、くれびれたウェストと、スラリとした脚の曲線美のある大人の女の肉体が好きだった。そして、哲也は女子中学生は、素直で礼儀正しいから好きなのであって、生意気な女子中学生は嫌いなのである。


平成26年8月8日(金)擱筆

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