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ショートショート『アングリーさんの日』

 起き抜けの状態から、ほのかに感じさせてくる。白湯を淹れたり、顔を洗ったり、着替えをしたりしてるうちに、だんだん片鱗を現してくる。白湯を飲んでもホッとしなかったり、顔を洗ってもスッキリしなかったり、選ぶブラの種類や服の色なんかで。
 貯金残高を大幅に頼りなくさせる代わりに手に入れた高級ブラとティーバックのショーツセットは、ハッピーさんかエネルギッシュさんしか選ばない。今朝は「締め付けられたくない」という強めの意志で、ノンワイヤーのブラ(ブラウン)とシルクのボクサーパンツ(パープル)が選ばれた。服はベージュのインナーにココアブラウンのカーディガン、長いフレアスカートにはベージュ・パープル・ブラウンの3色が入っている。化粧はコスメショップで奮発した知名度のあるブランドのアイシャドウをしっかり施した。
 身仕度を終えると、未読や返信前のLINEを確認する。親しく愛ある友人たちのメッセージは、その日の私をクッキリとさせてくれる。フツフツと溝落ち辺りにゆっくりと沸いてくるものがあり、返事を打たずにスマホを伏せた。
 本日(曇り)はアングリーさんの日だ。プライドが高く、人の幸せを喜ぶことができないこの人は、孤独を愛している。けれども他者や物との関わりがないと存在し得ないことも自覚している。
 だからアングリーさんの日、私はとことん主張してもらうことにしている。
「なんでポイ捨てしてるんだよ!」
「カートは置き場に戻せよ!」
「なんかイライラする!」
「信号赤ばっかりじゃん!」
「降ってきた?!傘ないんだけど!!」
「あいさつ返せよ!」
「なんでこうなっちゃうんだよ」
「どっちがいいかなんてわかんないよ」
「困らせないでよー焦らせないでよー刺激しないでよー」
 アングリーさんは一通り主張をし終えると、カナシミさんと入れ替わるように姿を消した。

 私は知っている。アングリーさんは誰よりも私を愛し、私の幸せを願ってくれていると。ハッピーさんやエネルギッシュさん、ヤサグレさん、コワガリさん、カナシミさんたちと同じように。


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