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先生の不登校

小学5年生のとき
担任のU先生が不登校になりました。

原因は
子どもの私たちには
最後までハッキリと教えてもらえなかったんだけど
おそらく“手紙”。

児童用の女子トイレに
U先生の悪口が書かれたお手紙
(児童同士で交換しようとしたもの?)が
何度も落ちていたんだそうです。

☆☆☆

U先生は
前年に私たちの小学校に赴任して来た
50歳前後くらいの男の先生。

ちょっと変わった人だけど
明るく陽気なオジさんで

新学期初日
マイギターでオリジナルソングを弾き語りしながら自己紹介をしてくれた
ユニークな人でした。

ちょっと寒いけど
しょっちゅうダジャレを言っては
子どもたちを笑わせようとしてくれました。

始業式の日の日記 U先生の似顔絵つき

☆☆☆

いちばん初めの事件は
5月の頭ぐらいだったと思います。

その日は6時間目が体育で
そのままHRにスネークインしちゃおうということになり
5年3組はグラウンドに整列。


先生のこと変だと思う人?
先生は間違っていると思う人?
(挙手を求める)

女子トイレに先生のことを書いた手紙が落ちていた。

こんなことはやめるように。

普段とは明らかに違う
シリアスな表情と低い声で話す先生。


当然誰も手は挙げないし
皆しんとして聞いていました。

手紙?
なんだそれ??

と私も含めみんな思っていました。

この時はまだ
ことの重大さに誰も気づいていませんでした。


それから1週間くらいして
HRの時間にまた同じ話がありました。

また同じ女子トイレに
先生のことを馬鹿にする手紙が落ちていた。

こんなことはやめなさい。

その日の先生は
件のお手紙の現物を
左手に掲げながら話しました。

ちっちゃなメモ用紙の端くれみたいな紙切れで
私にはよく見えませんでした。


いちばん前の席だった友達のSちゃんは

すのちゃん
あたし手紙の字見えちゃった
Uば➰かって書いてあったよ
伸ばす音が➰ってクルリンパしてたよ

と私にあとで言いました。


それからまた1週間くらいして

U先生は体調を崩されて
今週いっぱい休みます

ということになりました。

学年主任や教頭が
入れ替わり立ち替わり
U先生の代理で教室に来てくれました。

しかし1週間が経過しても
U先生はいっこうに戻ってきません。

U先生ってどこが悪いの?
熱が出てるの?
いつ戻ってくるの?

無邪気な子どもたちは素直な疑問をぶつけるけれど
大人たちははぐらかすばかり。

私たちの頭の中は?がいっぱいでした。


それからまたまた1週間くらいたって
今度は放課後に
5年3組の保護者たちが
ランチルームに集められました。

U先生のことで説明会ということでした。

あとで母から聞いた話ですが
校長が保護者皆の前で
原因は手紙です」と断言した、とのこと。

手には角2サイズの茶封筒を持っていて
おそらく中には例の手紙が沢山入っていて
パンパンに膨れていたそうです。


ほどなくして
「5年3組 担任変更」が正式に告げられました。

年度途中で担任が変わるなんて
当時にしたら異例の事態です。

大人たちも苦渋の決断だったと思います。

新しい先生は
U先生より若い30〜40代の男の先生で
普段は面白いけど
ぶちギレると手がつけられないほど怖い
なるほどメンタルの強そうな先生でした。

そうこうしているうちに私は
父親の仕事の都合で県外へ引越すことになり
1学期いっぱいをもって転校したので
その後のことは知りません。

あの手紙事件なんてなかったかのように
普通の日常が戻ってきたことだけは
友達から聞きました。

U先生は
年末近くなって復帰されたけど
5年3組の担任は外れたままで
その年の3月で別の学校へ異動されたそうです。

U先生 あのあとどうしたんだろう。

☆☆☆

こんなこというと
5年3組ってどんなやんちゃなクラスかと思いますが
いたって素朴で純粋で
子どもらしい子が多いクラスでした。

ドラマに出てくるような
先生を舐めくさってバカにする連中や
授業中ヤジを飛ばすような連中は皆無で

学校自体も非常に風紀の整った環境でした。
(転校後の学校と比較しても明らかに)

U先生自身も
別に表立って子どもから嫌われたりバカにされたりするタイプではなかったと思います。

あの時のことは今でも謎のまま。

だいたい手紙が落ちてたって
トイレのどこに?どんなふうに?
落ちてるところ一度も見たことないんだけど。
悪口って何が書かれてたの?
犯人は3組の子?4組の子?
というかそもそも5年生?
先生の自作自演?

子どもたちの間でも親たちの間でも
様々な憶測が飛び交っていたように思うけど
真相は闇の中だし未解決のまま。
訳がわからないままです。

未だに犯人は分かりません。

私たちに何か出来たのか
誰を責めたらいいのか

あっけにとられて呆然としているうちに
長い長い時間が過ぎてしまったように思います。

問題が表沙汰になってから
U先生が姿を消すまで
ほんの一瞬の出来事でした。

たかだか10歳の子どもが書いた手紙ごときに
大の大人が本気で病むなんて

と言ってる人もいたし
私も思ってました。

でも
U先生があの時どんな気持ちだったか
悲しかったか悔しかったか
辛かったか怒ってたか
孤独だったか屈辱だったか
我々子どもを憎んでいたか

それはU先生ご本人にしか分かりません。

人が人を傷つけること
人が人に傷つくことに

年齢も性別も関係なかったのだと

傍観していただけの立場で
どの口が言うかという感じですが

毎日ネット上のどこかでボヤが起きているこのご時世
特に思います。

☆☆☆

U先生
あんなことになってしまって
何も出来なくて
本当にごめんなさい。

ご健在で
またあのギターを弾きながら
陽気に笑ってらっしゃることを
無責任に願うことしか出来ません。

「今年のふり返り」より 誤字が多い...

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