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体質別食養生

「舌を見せてください」
漢方薬局の先生はそう言ってマスクを外すよう私を促した。
咳喘息を西洋医学に頼らず治したい。そう思って見つけたこの薬局に通い始め、もう6年になる。
体質にあった漢方薬を処方してもらい、薬を半量にするところまで改善できていたのだが、4月の黄砂で一気に悪化してしまった。5月に入ってもまだ咳がでている。多少の咳くらいいいじゃないかという声もあるだろうが、エンタメだけが生きがいの私。映画やお芝居をみる妨げになる咳は困るのだ。

「昨日は何を召し上がりましたか?」
私の舌を見た後で、昨日の夕食、昨日の昼食、この3連休の食事、と遡って聞き取る度に、いつもはにこやかな先生の眉間は般若のように険しくなった。
パスタ、パン、チーズ、ヨーグルト。どれも私の胃袋では消化が難しいらしい。なおかつ体を冷やしており、中医学的に言うと、そのために水の流れが滞っている。舌をみるとわかるそうだ。と同時に水分が足りていないので、春になっても手が乾燥し空咳がでている。古い社員が出て行かないから新しい社員が入ってこない、停滞した会社のようだということだろうか。

「黒いものを召し上がっていますか?」
黒豆、黒きくらげ、わかめ、昆布……挙げられたものは嫌いではないが、毎日取っているとは言い難い。
私の体質にあった食材の一覧をみせられる。どれも普段からよく食べているものばかりなのに……。
要するに、良い食材をいくら取ろうが、それを凌駕する量のマイナス要因を取っていてはダメなのだろう。

「食事の改善だけでなく、いったん薬を追加して体を温めましょう」
追加された薬だけでも1万円を超えた。これはまずい。お芝居1本分じゃないか。小麦粉と乳製品、つまり私の好きなモノをシャットアウトする。 いまは食材に関する知識と意識をレベルアップさせる時期だ。やれることはすぐやらないと。

その数週間後、ラジオから「低GI食の重要性」について話をしているのが聞こえた。間食が血糖値に与える影響についての実験で、夕食前の4時頃に羊羹を取るグループ、夕食後に羊羹を取るグループ、なにも取らないグループに分けると、4時頃に羊羹を取ったグループの血糖値が一番緩やかに上昇したそうだ。甘くても食物繊維を多く含む羊羹は低GI食にあたるらしい。
血糖値にまったく問題がない私だが、いつの時でも糖尿病予防には気を配ったほうがいい。さっそく栗蒸し羊羹を買って夕方のおやつにする。クッキーやアイスには渋い顔の漢方の先生にも「あんこなら……」と言われている。小豆は体のむくみを取るのにも良いはずだ。

ペロっと食べてしまってから、ふと“練り羊羹と蒸し羊羹ってなにが違うんだろう?”と疑問がわいた。
調べてみると蒸し羊羹にはくず粉や小麦粉を使ってあるという。ハッとして製品のパッケージをみてみると、ゴマ粒のような字で「小麦粉」と書いてあるではないか。

う〜ん、避けるべき食材を完全に排除するのは難しい。


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