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③2024の原爆ふりかえり(「女の子たち風船爆弾をつくる」/小林エリカ)

 プロローグが「あの震災から十二年目の年」、エピローグが「あの震災、関東大震災から100年目の年」で、その間の少女たちの物語がどんどん進む。

 宝塚少女歌劇が誕生し、東京宝塚劇場もできることになる。
 少女たちが舞台の上で果敢に爆撃を行い、それをファンがうっとりと見つめるという描写のあとに、本物の戦争のえげつない様子が「焼き殺す」や「姦す」という言葉を用いて描写される。
 
 舞台の上に、本物の現実がなだれ込んでゆく

 少女が本物の兵隊から、本物の軍刀を鼻先に突きつけられた時代があった。

 加害も被害も、どんどん書き出される。

 わたしたちの広島の街に、アメリカの飛行機B29が、ウラン型原子爆弾を投下する。

 わたしたちの長崎の街に、アメリカの飛行機B29が、プルトニウム型原子爆弾を投下する。

 といったぐあいに。

 少女たちが作った風船爆弾は和紙とコンニャク糊でできている。和紙でできた大きな風船は美しかったようだ。
 今の感覚で読むと優雅な作業のように思えてしまうが、戦争中にそんなわけがないこともしっかり書かれている。

 軍事機密だから、結局何に使われるのかも少女たちには知らされない。風船爆弾がアメリカで6人の死者を出したことを、後に知ることとなる。


 表紙がとてもかわいらしいので男の人は手に取りにくいかもしれないけれど、ぜひ読んでもらいたい。昭和の歴史を知ることができる小説だ。膨大な資料がもととなっている。

日露戦争30周年に日本が沸いた春、その女の子たちは小学校に上がった。できたばかりの東京宝塚劇場の、華やかな少女歌劇団の公演に、彼女たちは夢中になった。彼女たちはウールのフリル付きの大きすぎるワンピースを着る、市電の走る大通りをスキップでわたる、家族でクリスマスのお祝いをする。しかし、少しずつ、でも確実に聞こえ始めたのは戦争の足音。冬のある日、軍服に軍刀と銃を持った兵隊が学校にやってきて、反乱軍が街を占拠したことを告げる。やがて、戦争が始まり、彼女たちの生活は少しずつ変わっていく。来るはずのオリンピックは来ず、憧れていた制服は国民服に取ってかわられ、夏休みには勤労奉仕をすることになった。それでも毎年、春は来て、彼女たちはひとつ大人になる。

ある時、彼女たちは東京宝塚劇場に集められる。いや、ここはもはや劇場ではない、中外火工品株式会社日比谷第一工場だ。彼女たちは今日からここで、「ふ号兵器」、すなわち風船爆弾の製造に従事する……。


膨大な記録や取材から掬い上げた無数の「彼女たちの声」を、ポエティックな長篇に織り上げた意欲作。

文藝春秋ホームページより