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角野栄子 『魔女の宅急便』 (福音館創作童話シリーズ)
僕にとっての本作:
自分で選ぶこと、何を選ぶかは、ひとそれぞれ。
自由と自立を、のびのびと描く。
1985年の作品。
イラストは、林明子氏。
日本児童文学を代表する本。
以前にも書きましたが、日本人で国際アンデルセン賞を受賞したおひとりである、角野栄子氏の代表作。
スタジオジブリの映画化でも知られます。
それが4年後の1989年でした。
本書は1985年か。僕は1984年うまれです。ほぼ同級生なんだな。
今年、何かアニバーサリーのキャンペーンがあるかな。
出版社からのコメント
13歳で故郷を離れたキキは、海辺の町・コリコで一人暮らしをはじめます。
町の人たちとうまくやっていけるかどうか心配な気持ち、やりたい仕事を見つけたときのワクワクした気持ち……。
戸惑いながらも、一つずつ経験を重ね、成長していくキキの姿は、子どもから大人までたくさんの読者の共感を呼んでいます。
アニメ・実写と映画化もされたこの作品に、続きがあるのをご存じですか?
第二巻では14歳、第三巻では16歳、そして完結編の第六巻では、なんとお母さんに!
とんぼさんとの恋のゆくえや、子育ての悩みも、いきいきと描かれます
読者の方から、「子どもの頃にキキと出会い、キキと一緒に私も成長しました」と、熱いメッセージが届く、大人気のシリーズです。
知らなかった!キキは最後にはお母さんになるのですか。
それはそれは…ほぼ同級生としては興味深いな。
これだけ著名な作品には、おそらくあらゆる角度からの読書感想文ないし批評が書かれてきたことでしょう。
でもあらためて、40をすぎた僕らが対話してみたところ(?)、少しおもしろいことがわかりました。
こちらの作品は、やっぱり、高度にバランスがよい、という印象でした。そのバランス感覚が、作品がながく愛される理由なのかもしれないと思ったのでした。
はずかしながら、ぼくは原作を読んだのは初めてです。
そして、ジブリ以外の予備知識、批評の類をいっさい読まずに本書を読みました。
まず第一印象として、作品に感じたのは、Cindy Lauper でした。
もはや知らない人もいると思うのですが、80年代から90年代のアメリカの有名なシンガー。
素朴な女の子ののぞみ、願い、フェミニズムとかウーマンリブとかそいう思想めいたものよりは、ありのままの私をみて、みたいなメッセージを発した有名なミュージシャン(という解釈でいいのか)。
USA for Africa We Are the World で出てきました。僕は中学3年のときに音楽の先生が見せてくれたのを覚えています。
キキは、1984年に13歳の女の子、だったんですね。
そしてシンディローパーが今も輝きを放っているように、キキもそうなんでしょう。
キキは、決して強い価値観や思想を発することはありません。ライトに、カジュアルに、判断して決定したい。そういう女の子なんだろうと思います。
キキの時代は、冷戦の末期。キキは1985年に13歳。
作者の角野栄子氏は、1985年に49歳。
戦争の傷を知り、移民を知り、本を知る、そういう方なのだろうと思います。きっと、こどもが人生を選び取ること、が肯定される本を書いてみたかったのかなと想像しました。
だから本書にも、伝統と革新の2つの価値観がせめぎあう。
キキは、魔女の伝統を背負う。しかし、キキは、新しい価値観に可能性を感じる女の子。
そして、バランス、なのではないでしょうか。
キキは、伝統の職業である「魔女」を、自分の意思で選ぶ。この決定がバランスされたもののなかで最も重要度の高い決定なのかな。
あとは、ほうきのデザイン、飛び立つ日、ラジオの色、すむ街、つきあう人、職業。
何から何まで決めていくのだけれど、「魔女であること」で、少しだけ運命も背負っている。
こういうキャラクターと、設定は、右からも左からも、よいバランスであるように見えるのです(他意はありません)。
軽やかに、カジュアルに、スポーティに、自己決定を連ねていく。
それは、たぶん冷戦の重みに対して、みんなが求めていたものに近いのではないのかなと思いました。
「おいおい、もっと上手く間がとれないものかね」
「決定されるたびに、こんなに人が死ぬのは、なんでなんだよ」
ってたぶん、お茶の間のみんなが思っていた、そんな時代だろうと思うのです。
それが1984年や85年なんじゃないかな。冷戦への疲弊。
国際アンデルセン賞をヒントに、読む作品のはばを広げようという最初のこころみは、角野栄子氏の作品でした。世代論のように戯言を展開してしまったかもしれませんが、僕はこの本が、歴史的なものだったんだなあと思ってしまいました。読んでよかった。
シンディ・ローパーは、僕が知っている限りでいえば、だいぶ円熟みを増してから、ジャズを歌ったCDがあったと思います。あれがやたらと胸にささった。
ああ、これだ。これも20年近く前なんですね。
たぶん、『魔女の宅急便』もこうなる、のかな。いろんな人の、いろんな読み方に、応えていくのだろうと思いました。それは、バランスしているから、なんですよね。
そして、思い切って言えば、宮崎駿氏はそれを、重たいもの、に書きなおした。
…んじゃあないかなあ。
これについては、またいつか考えてみたいと思っています。