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ローズマリ・サトクリフ 『小犬のピピン』

僕にとってのこの本:

美しい話。サトクリフ氏の優しさがあふれている話。ピピンは、礼儀正しく利発で、臆病。マミーは、母。ふたりとも、たがいを思いやる。

サトクリフ読書シリーズです。

Rosemary Sutcliff, ALittle Dog Like You,1987
翻訳は猪熊葉子氏。1995年。岩波書店の「せかいのどうわ」シリーズ。
サトクリフの晩年の小作品。

猪熊氏の訳で日本に紹介されたとき、サトクリフ氏はもうこの世にいませんでした。

原題 A Little Dog Like You
ニュアンスを知りたい。どういう意味なんだろうか。

サトクリフによるメルヘン、とでもいうのか、空想童話。はじめて読みました。新鮮でした。こういうメルヘンで感動したのは、ヘッセの『アウグストゥクス』以来でした。

素晴らしい話でした。サトクリフのことをもっと知りたい、そんな気持ちになりました。

サトクリフはこの晩年期、どんなことを考えていたのだろう。
1987年出版、彼女はまだこのあと、意欲的に創作を続けていますが、彼女の人生はそこからあと5年弱、ということになる。
本書にも、何かサトクリフの人生のひとつのまとめ、みたいな雰囲気があります。作中のテーマには、明らかに、愛、死、勇気、があります。

サトクリフの作品にいつも感動させられるのは、豊かな想像力とリアリズムが同居しているところが、作品の中に必ずあるからです。そして歴史がある。本書もやはりそうでした。

サトクリフは、車椅子にのっていた人で、こどもはいませんでした。でも、多くのこどもたちを育てた、作品を通じて。もしもやれば、彼女は優れた教師にも、もしかしたらコーチにもなれたかもしれない。以下は、マミーの普段の教えを、離れ離れになったピピンが守る場面です。

「さよなら、それから、ありがとうございました。」ピピンは礼儀正しくいました。マミーが、いつもきちんと挨拶するように、しつけていたからです。マミーは、犬は地上でも天国でも話ができる、とおかしなことを考える人びとの仲間でした。「さよなら、どうもありがとうございました。」ピピンをつれて人の家を訪ねたとき、マミーはいつもそう挨拶するように、しむけていたのです。その作法を、ピピンは思い出したのです。

p33、より

礼節は、親子の絆であり、ピピンと外界をむすんでくれるもう一本の絆になっているようです。

印象的なこととして、小犬の名前をめぐる話が出てきます。かわいらしくて、臆病で、正直な小犬は、ピピンと名づけられました。

余談ですが、ピピンといえば、ゲルマン国家フランクの英雄の名、武勇と権謀術数の王。

著者のようにイングランドの作家にとっても、ピピンという名は「かわいらしい」ものなんですね。

僕はいつも授業で「かわいい名前だから覚えやすいよな」、などと気軽にいっていましたが、そういう感覚は当地の人たちにもあったのかな。やっぱりピピンは「スキピオ」に匹敵するかわいさだよな。

1987年か、レーガンとゴルバチョフがINF全廃条約を結んだ年ですね。冷戦末期、サトクリフは何を思っていたのでしょうか。

そうそう、作中のマミーは、サトクリフ自身のことで、この話は「本当にあったことだ、といってよい」お話、なのだそうです。

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