感想 カーマインストリートギター
僕にとっての作品の要点:
リックとシンディは、マンハッタンのルシアー。NYの150年以上前の建物の廃材で、日々ギターを作る。彼らの日常を撮影したドキュメンタリー。歴史、ノスタルジー、ロマン。
表題のギターショップは、マンハッタンのカーマインストリートにあります。店主はリック・ケリーさんで、ギター制作家です。お弟子さんがシンディ・ヒューレッジさん。リックは60代くらいかな、シンディは20代だろうな。
監督のロン・マンは、有名映画賞の受賞歴のある名人。この監督が、このお店に数時間密着するドキュメンタリーです。
店主のリックが、とてもいい。歴史を大事にしている人物です。リックは大工の家にうまれ、音楽を愛しアートスクールを卒業。ギター制作家(ルシアーといいますね)を志し、修行に励んだ。
リックは、ギターも好きだが、木材そのものを愛している。とくに数百年前の古木をギターに使用することが彼の若い頃からのこだわりだった。
古木は音の響き方が違うとのこと。これは彼の信念。
また、トラディショナルを愛しながらも若い頃から斬新なデザインにも挑戦してきた。リックはあるときから、ニューヨークの歴史ある建物の廃材でギターを作り始めます。彼はこれを Bones of NY と表現する。ニューヨークの骨。
建物がたどった歴史、ニューヨーク市の歴史に対する深い尊敬。
彼が愛するNY市、古い木材、そして音楽がすべて凝縮されたもの、それが彼が生み出すギター。同じものは2本とありません。そして、エレキギター黎明期の、ふるくさい技術でギターをいちから手で生み出します。
ガレージのギター材を前にして、訪問者に対してリックが木材の説明をするシーンがあります。
ロマン…歴史ってまずもってロマンですよね。
ロマンと歴史は、ちょっと近い。それは19世紀のウィーン体制の時代のヨーロッパで生まれた考え方。自立や独立を求める人たち、集団は、自分たちの歴史を強く打ち出す。歴史を自分たちの自立や独立の根拠にする。
歴史にロマンが感じられることには、歴史的根拠があります(?)。いつかそんな話も。話がそれました。
さて、リックはコンピューターはまるっきりだめ。苦手以前に信用しない。そこに、リックの仕事に心から惚れ込んだ若いシンディがやってくる。弟子入りにアポ無しでとびこんでくる。
シンディはリックの仕事をSNSに紹介する。こうして店はギター好き以外にも知られるところとなる、つまりバズった。
実は数年前に見た映画なのですが、noteをはじめてぜひとも取り上げてみたいなあと思っていた作品でした。
リックが見ている歴史は、歴史学者のいう歴史ではありません。彼の見たままの歴史だし、正確ではないかもしれない。でも、彼は彼のギター制作を、大きな時間の流れに位置付けようとする。過去といまと未来をみている、ように思う。
すばらしい。この映画を見たときは本当に感動したのでした。
みんな時代の制約の中で生きている。『ヒストリーボーイズ』には、歴史は「くだらないことの連続」だという言葉がありました。それはそれで間違いのないこと。よくわかります。でもこれは、その「くだらないことの連続」に、積極的に意味を与えるにはどうしたらいいかを教えてくれるように思います。
リックがNYに抱いている強烈なノスタルジーは、もしかしたら同じような感覚を持っている人に強く響くものかもしれません。僕にとっては故郷です。
でも、ノスタルジーだけではないんだな。リックには、現在の感覚、未来の感覚もある。ギターとニューヨークをテーマにして、彼の中には一本の時間軸がつくられている。そういうふうに思うのです。
『ヒストリーボーイズ』では、ヘクターという先生が「次世代にパスをわたせ、大事なひとにパスをするんだ、パスを学べ」と話します。同じようなことを、リックもいうのです。聞き取れた範囲では、たぶんちゃんと”pass it on” と言っているような…
シンディのギターショップ勤務5周年を祝うシーンで。pass it onは以下、ゴシック。
余談ですが、劇中で店を訪れるミュージシャンのうち、ビルフリゼールがいます。僕の大好きなミュージシャンです。
余談の余談ですが、僕はお弟子さんのシンディにギターを注文しました。それから二年近くが経とうとしています…全然できあがらない…
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