施設向けベビー用品の開発を30年も続けられた理由【開発秘話】
施設向けベビー用品は、使う人ではなく、施設や建築設計関係者に売り込む商品です。
この限られた市場の中で30年、ただひたすら「赤ちゃん連れが助かるお出かけ先のモノ」だけを開発してきました。
ベビー用品メーカーに入社当初は、1年更新の契約社員。
施設向けで開発するものがなくなれば、契約終了。
商品ネタはすぐ尽きると思ったので、毎年、今期までかなと覚悟しながら働いていたものです。
それが5年後に正社員になり、まさか定年まで勤め上げるとは想像もしていませんでした。
そんな私が30年も飽きずに続けられた理由を、開発エピソードと共にご紹介します。
施設で見かけたら「あんな開発秘話があったのか!」と、思い出してもらえたら嬉しいです。
少し長いので、下記の目次から興味のあるところだけ抜粋して読んでいただいてもいいですよ。
30年前、ベビーキープの認知度は低かった
入社は1994年でしたが、その4年前に初代ベビーキープとおむつ交換台(当時の名はベビーシート)が発売されていました。
ベビー休憩室の製品は、発売したばかりでした。
入社時、私の子ども3人のうち一番下は、生後6ヵ月。
私自身も利用対象者でしたが、ベビーキープって何?ベビー休憩室ってどこにあるの?という状態。
30年前、世間ではベビーキープもベビー休憩室もほとんど知られていませんでした。
配属先は施設向けを扱うBCS(ベビーケアシステム)事業部。
専任の企画者は3名。
技術者2名はシニア向け製品の設計と兼任でした。
ベビーカーやチャイルドシートなどの花形部署を横目に、BCS事業部はフロアの片隅で小さく固まっていた印象です。
他の部署の人たちは、BCSが何の略なのか、何を開発しているのかも知らないようでした。
その後、BCS事業部は分社化で別会社として独立しますが、それは数年先のことです。
最初は保育園視察のアポ取り
最初に開発したのは、保育園用品でした。
まずは現地調査で、保育園に片っ端からアポを取って視察に行きました。
でも、このアポ取りがなかなか大変。
怪しいセールスと勘違いされ、即電話を切られるのが殆ど。
それでも役所の許可をもらって30園くらいは視察させてもらえました。
ありがたいことに、保育士の動線観察をさせてくれた園も。
今はセキュリティが厳しいので、関係者以外は視察できないでしょう。
数ヵ月間の調査で分かったのは、保育士の仕事が激務なこと。
それまで保育園に自分の子を預ける時、「保育士になってここでゆったり過ごせたら」と、羨んでました。
実際はゆったりではなく、笑顔で肉体労働。
調査が終了するころは、保育士の負担を軽くできるモノを開発したいと思うようになったのです。
動線観察で特に保育士の動きが頻繁だったのが、沐浴室や調乳室に行くとき。
乳児室で沐浴や調乳ができたら効率的ではないかと考えました。
そこで乳児室に収まりやすいユニット什器として開発したのが、沐浴ユニットと調乳ユニットです。
最初に導入してくれた保育園は、設置を立ち会いました。
「こういう製品が欲しかったのよ」と、感謝してくれた園長先生の笑顔、今でも忘れません。
今まで会社が販売してきた保育園用品は、おもちゃやベビーラックなど高くても5万円以下。
それがいきなり50万円以上の製品を開発したので、営業には「いったい誰が売ると思ってんだよ」と言われ、不安になりかけていたころです。
あの時の園長先生の一言が励みになり、それからは自信を持って営業に説明できるようになりました。
保育士が大型遊具でも運びやすいように、芯材を発泡スチロールで軽くした製品も開発しました。
園児に人気がありそうでも、保育士に負担がかかるのは開発しませんでした。
園児を守ってもらうには、作業に追われ過ぎないで欲しかったんです。
これらの製品は、色替えなどを繰り返しながら、今でも販売されています。
灰皿にされた初代ベビーキープの対策
ベビーキープはトイレで親が用を足しているときに子どもを座らせるチェアです。
初代が発売されたころ、画期的な製品だと話題を呼んだそうです。
でもしばらくすると大きな課題が上がってきました。
それは、喫煙者によるマナー違反。
ベビーキープの座面を灰皿代わりにする人がいて、焦げ跡の苦情が多発したのです。
苦情を受けて確認に行ったデパートの設備担当者は、特にレストランフロアの男性トイレに多いと教えてくれました。
レストラン内が禁煙のため、食後にトイレで一服されるんでしょう。
トイレも禁煙なので灰皿がなく、ベビーキープの座面でタバコを消したんじゃないかと。
せっかくのベビーキープ。タバコの焦げ跡があっては使えません。
ベビーキープに捨てたタバコが原因で、トイレブース丸ごと火災になったこともありました。
私が担当したのは、この課題を解決させるモデルチェンジでした。
本体を燃えにくい難燃性に変え、座面には焦げたら交換できる難燃性樹脂マットを追加しました。
初代はボタンを押すとガードが左右に開閉し、子どもを座らせやすくなっていました。
ただ、子どもがガードを握ったままでも開閉できてしまうため、対策品にはその機構を外し、代わりに奥行き調整ができるガードにしました。
その後、スプリンクラー設置のトイレが一般的になったため、トイレブースで隠れて喫煙する人は減ったようです。
この時モデルチェンジしたベビーキープはすでに終売していますが、灰皿代わりに使う人はいなくなりました。
薄型ベビーキープの開発ストーリー
ベビーキープは折り畳めるタイプもあり、こちらのモデルチェンジも担当しました。
中部国際空港が建設中のころで、そのトイレ設計に携わる会社からの依頼がきっかけです。
トイレのドアを開けたとき、そのドアにぶつからない薄いベビーキープを作って欲しいという依頼でした。
条件をクリアするには、ベビーキープを折り畳んだとき、余裕を持たせて奥行き100㎜以下にする必要がありました。
ちょうど同じころ、従来の折り畳みタイプのベビーキープで、子どもがいたずらしやすいリスクが発覚しました。
折り畳む途中、座面と股ガードの結合部裏側に、子どもの指が入れるほどの小さなすき間ができるとわかったのです。
実はこの従来品も、私が企画を担当した製品でした。
いつか子どもが重大なケガをするかもしれないと、不安で眠れない日が続いたものです。
その対策として、市場に出ている該当機種すべての部品交換に追われました。
幸い後遺症が残るケガの報告はなかったのですが、今でもあの頃のことを思うと胸が痛みます。
話は戻りますが、このような事情から、すべてを解決する折り畳みタイプの薄型ベビーキープを急いで開発しなければならなくなったのです。
目標開発期間は1年。実際には1年半かかりました。
奥行きは100㎜設定でしたが、私はさらに2㎜薄く98㎜にして欲しいと技術にお願いしました。
ある日スーパーで98円均一の野菜を見たのがきっかけです。
「奥行きわずか98㎜」って宣伝した方がリアルな薄さに感じるなと。
すでに100㎜で設計を進めていた技術者は、日程が厳しいので当然NG。
粘り強く食い下がり、最後は協力してもらえることになりました。
折り畳みの可動部は、特に慎重に設計しました。
子どもがどこを触っても問題ないように、技術者が設計や部分試作を繰り返し、そのたびにみんなで評価しました。
さらに、子ども自身で抜け出にくいように、ガード形状も湾曲させました。
奥行きを薄くしたので、子どもの頭が壁に当たりやすくなります。
その対策にはヘッドマットを付けました。
対象年齢より大きな子が乗って出られなくなる事故も想定し、外側からガードステッカーを剥がせばプラスドライバーで股ガードを外せるようにもしました。
いろんな事故を想定して付加機能を追加したため、当然ですが目標額より価格がアップしていきました。
でも、販売価格を従来品より大きく上げたら売れなくなります。
あれも付けたい、これもしたい、でも納期厳守で価格は抑えてね、と。
そんな無謀な要求・難題を乗り越えて改良した折り畳みタイプの薄型ベビーキープ。
色や表示を変えただけで20年経った今でも販売し続けています。
落下を防ぐおむつ交換台の開発
おむつ交換台は現在のカタチになるまで、何度かモデルチェンジをしました。
欧米製のように、折り畳んだときの厚みが薄いおむつ交換台もかつてはありました。
でも、ここは日本。
子どもがおむつ交換台から落下したら、子どもから離れた親の責任だけでなく、メーカーにも落ち度がなかったか指摘されます。
そこで「親が子どもから離れないためにはどうしたらよいか」「落下しにくくするにはどうしたらよいか」を開発メンバーで何度も話し合いました。
まずは子どもから離れる要因を上げ、その対策を考えました。
落下しにくくする対策は、自宅でのおむつ交換もヒントにしました。
子どもから離れる主な要因は荷物を取りに行く、手を洗う、紙おむつを捨てに行くなど。
そこで対策は、おむつ交換台に荷物置きスペースを設けることにしました。
バッグだけでなく手拭き用ウェットシートや紙おむつも、一時的にそこへ置けるように。
落下しにくくする対策は難しかったです。
寝返りやハイハイができるようになると、ある程度高い柵でも乗り越えてしまいます。
本社の上層部からは、いっそ子どもが落下してもケガしない床マットを売ればいいんじゃないか?という、本気か冗談かわからない要望も出てきました。
ある日、男性技術者がポツリと「うちの子の寝返りが激しかったとき、自分の足の裏で子どもの脇腹を挟んでいた」と言ったのです。
「え~、赤ちゃんが可哀そう」と、みんなクスクス笑い。
でも、これがヒントになりました。
マットスペース、特に中央の横幅を狭くすることで、寝返りしにくい形状にしました。
頭側はずり落ちない壁を設け、足側は作業しやすく、かつ子どもがずり落ちない程度に盛り上げた山形状にしました。
落下事故のほとんどは、ほんの一瞬、目を離したすきに発生します。
これらの対策で、瞬時には落下しにくくなりました。
このヘンテコなマット形状は、ベビー休憩室に設置される木製おむつ交換台でも応用。
利用者からは「寝返りしにくいので、早く作業できる」と評価されて嬉しかったです。
100人以上はモニターした授乳チェア
モニター数を一番多く実施したのが授乳チェア(ソファタイプもあり)です。
対象は母乳中のママ、粉ミルクをあげているママや保育士など。
それぞれ月齢をいくつか選定して実施したので、初期モデルから最新モデルまで合計すると、100人以上は確認しました。
その結果、全員が満足できる形状はできませんでした。
授乳姿勢は人それぞれで、使う人の身長・体型の違い、同じ人でも子どもの成長とともに授乳姿勢が変わっていくからです。
そのため「すごく使いやすい」と言う人もいれば、「使いにくい」という人も。
使いやすいと言う意見が上回る位置にアームレスト、背、座の寸法や角度を設定し、今の形状に落ち着いています。
クッションの硬さや縫製の位置がちょっとずれただけでも違和感を感じやすいので、試作も数えきれないほどしました。
この開発をする前、国内外の授乳チェアを調査しました。
日本にはなかったのですが、海外には類似品でロッキング機構やリクライニングできる大型ソファがありました。
でも、大きくてベビー休憩室に収まりません。
楽な姿勢で授乳でき、どこにでも設置しやすいサイズ。
そんな授乳チェアは今までなかったので、製品化できないかと開発したのがきっかけです。
ママたちに「これに座ると授乳が楽だったんですよ」と言われると嬉しいですね。
生後2ヵ月から使えるショッピングカートの開発
子どもが生まれたばかりのころ、ショッピングカートの子どもイスに早く乗せたいなと思っていました。
当時はお座りができる月齢になるまで乗せられるショッピングカートがなかったからです。
入社して数年が経ったころ、ある大型ショッピングセンターを運営する会社から、リクライニングできる乳幼児用ショッピングカートを作ってくれないかと依頼がありました。
うちの子が小さいときにそれがあったら良かったのにと思いました。
そのため、会議で依頼を正式に受けると決まった時は、密かにやった!と喜びました。
販売ルートがなかった新規市場です。
新しい機構なので開発には大掛かりな投資が必要でした。
投資は、会社の主力製品になるくらい販売しないと回収できません。
つまり開発を開始したら中断できず、絶対に成功させなければなりませんでした。
この時、会社が依頼を受けなければ、生後2ヵ月から使えるショッピングカートは今でも存在しなかったでしょう。
初期モデルはベビーラックの形状を参考にしたため、ベビーラック開発担当の企画者や技術者に協力してもらいました。
最初は、背面式にするか対面式にするかでも意見がまとまりませんでした。
背面式とは、子どもと親が同じ方向を向く仕様。
対面式は、子どもと親が向かい合う仕様です。
ベビーカーでは、月齢が小さいほど対面式使用が多いのはわかっていました。
乳児期は、親も子もお互いの顔を見ていると安心しますからね。
でも、スーパーのレジでカゴを置くときは、背面式の方がカゴを取り出しやすくなります。
背面・対面が両方できる構造案も出ましたが、収納作業が混乱するとの指摘でなくなりました。
最終的に、初期モデルは背面式となりました。
対面式を別機種で追加したのは、それから10年以上経ってからです。
対象月齢は、当時のベビーカーの公的基準に合わせて生後2ヵ月~2才(24ヵ月)。
首がすわりする前から使えるようにしました。
その後、利用者の要望を受けてモデルチェンごとに使用終了年齢だけ上がっていき、最新モデルは生後2ヵ月~4才(48ヵ月)まで使えます。
初期モデルの色選定は、ママたちの意見を参考にカラフルな色が有力でした。
ひと目で子ども用だと分かりやすい色が指示されたのです。
でも、その候補色を依頼元や主な店舗運営会社に提示すると、どこもNG。
主役は売り物(店内商品)なので、それより目立たせたくはないと。
コーポレートカラーや店内に馴染む色がいいという意見が主流でした。
それで初期モデルは無難なブラウンで発売。
それでも一時期、明るいオレンジを本体の一部に取り入れたことがあります。
何件か顧客を失いましたが、利用者からは好評でした。
最新モデルの色は後輩のKちゃんが選定し、どこの店舗にも馴染みやすいオフホワイトになっています。
ずり落ちないファミレスのベビーチェア
子どもたちが小さいころ、休日にファミリーレストラン(ファミレス)へ行くのが親子の楽しみでした。
子ども用チェアの中には、大人が座るベンチシートに置くだけの外国製プラスチックタイプがありました。
一度だけですが、そのチェアに座っていたうちの子が、滑って床に落ちたことがあります。
幸いケガはなかったのですが、親が気を付けていないと危ないと思ったものです。
それから何年かして、あるファミレスチェーンの店舗設計担当Hさんが、私が勤務するオフィスまで訪ねに来ました。
Hさんはファミレスこそベビーキープやおむつ交換台が必要だと積極的に導入してくれたかたです。
店内設置に関する知識やアドバイスを参考にしたくて、時々ファミレス本部にお邪魔していました。
彼が訪ねに来た理由は、ベンチシートからずり落ちないベビーチェアを作れないかという相談でした。
プラスチックタイプのチェアで、子どもが落下する事故が起きているからだと。
心の中で、うちの子と同じだ、と思いました。
納期は半年。
家具メーカーに頼めばすぐに作ってもらえるが、できればベビー用品メーカーに作ってもらいたいと言われました。
最低でも1年はかかるとお伝えしたところ、本部から期限を決められているので、とにかく急いで作ってくれるとありがたいとお願いされました。
その日から、さっそく企画案(企画書の前資料)に取り掛かりました。
自分の子どものこともあって、以前からアイデアを温めていたのです。
家庭向けには、テーブルに取り付けるパイプ製チェアがあります。
左右のロックバーを調整してテーブルに取り付けるタイプです。
ファミレスでは従業員が接客しながらベビーチェアをセットするため、調節までさせるのは大変です。
そこで、テーブルとベンチシートの両方でベビーチェアを固定できないかと考えました。
座面に子どもが座るとベルトで連結している背板が動いてテーブルにロックする機構にしたかったのです。
まずこのアイデアを上司である開発部長に相談しました。
彼はたった1年で開発するのは無理だと言いました。
店舗用テーブルやベンチシートの調査、安全基準や試験方法の設定など、設計前にすることが多いためです。
それでも品質保証部に交渉し、品質の担当者を付けてもらえることになりました。
この時点で他部署から担当が決まるのは異例でしたが、私がこのベビーチェア機構に関して、かなり熱く彼に語ったため、その思いを受け止めてくれたんだと思います。
急ぎだったため、技術は最初のうちだけ開発部長自ら担当してくれました。
テーブルやベンチシートのサイズはファミレスのHさんから図面を送ってもらいました。
それ以外のファミレスチェーンにも営業部経由でお願いし、主なチェーン店のテーブルとベンチシートの図面が手に入りました。
ただ、設計前にひとつ問題が発生しました。
テーブルの厚みによって、座面角度が変わってしまうことがわかったんです。
当時のファミレスチェーンのテーブル厚みは、30~50mmでした。
「厚みが20㎜違うだけで大きく変わるの?」と尋ねた私に、スケッチを依頼したプロダクトデザイナーが原理モデルを作って見せてくれました。
なるほど。テーブルに固定する背板は、座面と連結しているので、わずか20㎜テーブルの厚みが違うだけで、座面が大きく傾いてしまったのです。
そこで、チェアに取り付ける高さ調整ゴムを作りました。
テーブルの厚み違いをそれで調整できるようにしたのです。
そんな試行錯誤を繰り返していたある日、Hさんより「どうしても半年以内に欲しかったので、家具メーカーで作ってもらった。申し訳ない」と連絡が入りました。
えっ? マジで?
納期が過ぎても待ってくれると期待していたのは甘い考えでした。
Hさんは待ってくれるように本部に交渉してくれたようですが無理だったのです。
落ち込みながらも「希望納期に間に合わせられなかったので、こちらこそ申し訳ありません」とお伝えしました。
家具メーカーで作られたベビーチェアは、ベンチシートに置くだけの木製でしたが、外国製のプラスチックタイプよりは滑りにくく改善されていたようです。
依頼元への販売はなくなりましたが、もう後に引けません。
他のファミレスチェーンをすべて販売ターゲットにすることで、目標数は行けると見込みました。
何とか機構がまとまってきた段階で試作すると、今度は片手で持つには重過ぎるという課題が上がりました。
そこで木製ではなく、パイプ製やプラスチック製の案が出ました。
私は軽いアルミパイプ製を推したかったので、その試作も作って社内のプレゼン会議に提示しました。
会議では社長から「パイプ製は安っぽく見えるね」と言われました。
結果、当初の予定通り木製に決定。
今では私の意見が通らなくて良かったと思っています。
木のぬくもり、重さがあることでぐらつかない安定感など、木製の方が安心して子どもを座らせることができます。
何とか1年ちょっとで発売できましたが、販売数はなかなか伸びずに苦戦しました。
数年後にはH氏のファミレスも導入してもらえたのですが、ファミレス市場でのシェアは低いまま。
風向きが変わってきたのは、寿司チェーンに導入されてからです。
ただし、それも簡単ではありませんでした。
事前調査で、ある寿司チェーンの店舗を開店前に訪問させてもらったところ、テーブル厚が60㎜で取り付けられないことがわかったのです。
他の寿司チェーンも、当時はほぼ60㎜。
それなら60㎜対応の追加機種を作って発売しようということになりました。
寿司チェーンに導入されてから販売数も増え、利用者の認知度も上がっていきました。
「いつも使ってますよ。いいよね、あのチェア」と言われると、報われた気がします。
珠洲市の避難所で使ってもらえたベビーコット
避難所も施設。防災備蓄品を16年前より検討していました。
そのひとつが段ボール製のベビーコット。
でも一度は企画会議で却下されました。
東日本大震災の前で、大人用段ボールでさえ認知度が低かったためです。
2020年7月、たまたまTVを観ていたら熊本の水害で自衛隊員に助けられて救命ボートに乗る赤ちゃんが映し出されました。
その時、何かできないか、という熱い気持ちが沸き上がりました。
避難所に赤ちゃんを受け入れやい設備があったら、もっと早く避難できたんじゃないかと。
翌週には企画案を上司に提出し、「今こそ必要なんです!」と半ば強引に開発の了解を得ました。
そして他の業務を整理し、秋には開発に取り掛かることに成功。
たかが段ボール箱に赤ちゃんを寝かせるだけじゃないか、と思われるかもしれません。
でもこれをベビーベッドとして販売すると、いろいろなルールがあるため難しいんです。
そこで製品安全協会や経済産業省の方々にもご協力いただき、試作が出来るたびに見てもらいながら打ち合わせを重ねました。
危機管理の専門家には、現場を知っている上での貴重なアドバイスをたくさんいただきました。
やっと完成した製品は、マーケティング部のOさんが考えたネーミング案「ベビーにこっと」に決定。
避難所でも赤ちゃんがにこっとしていられるように、の願いを込めた素敵な製品名です。
今年(2024年)、能登半島地震があった珠洲市の避難所ではさっそく使ってもらえました。
生後6ヵ月の赤ちゃんのパパが組み立ててくれたそうです。
お役に立てたことを本当に嬉しく思います。
人の役に立てることが、ただ嬉しくて
この仕事を30年も続けられた理由は単純なんです。
利用者から感謝されたとき、役に立てたことが嬉しかったからです。
次もこの達成感を味わいたい、それだけで続けてきました。
ストレスが重なり、十二指腸潰瘍で入院したこともありました。
それでも入院中に次のアイデアを考えてしまう…。
純粋にアイデアを出すのが好きなのかもしれません。
今思うと、ひらめきと情熱だけで突き進んだわがままな企画者でした。
振り回されていた周りのスタッフたちは、本当に気の毒でしたね。
でも幸い、私以外は理論と筋道を立てて冷静に検討できる人たちばかりで助かりました。
施設向けベビー用品を紹介したくてはじめたNOTE
今年3月に退職する前、製品開発以外にやり残したことはないかと考えました。
ひとつだけ、気がかりなことがあるのに気付きました。
それは、製品を信用して使ってくれる利用者への案内不足です。
どんなに注意を払って作った製品でも、100%安全とは言えません。
使う前に警告表記を見る人がどれだけいるでしょうか?
そこで私は、ママやパパに施設向けベビー用品を使う上での注意点を紹介したくて、このNOTEを始めました。
他の記事では、その辺のアドバイスを紹介していますので、子育て中の方は是非参考にしてくださいね。
最後まで長い文章を読んでくださり、ありがとうございました。
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