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『江戸演劇史』(上・下)渡辺保 【うちの本棚】#歌舞伎
読書感想でなく、本棚にある歌舞伎関連書籍について、どんな本なのか記録しつつ紹介するものです。
基本情報
タイトル:『江戸演劇史』(上・下)
発行(奥付の初版の年を記載):2009年
著者:渡辺保
出版:講談社
特徴
秀吉の死によって時代が大きく転換し、近世が始まる。
そこから、能、狂言、文楽、歌舞伎がどのように変化してきたのか。演目が作られた背景(実際の事件、興行状況など)も入れ書かれている。
事実を並べるという形ではなく、物語ふう。
それもあって、古典芸能を舞台にした、壮大な(ものすごく長い)大河ドラマを観ている気分になる。
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『上』では、戦乱のあとの天下統一によって、芸能の新しい可能性が生まれ、それが出雲の阿国の出現から今日我々が知っている古典芸能の形になっていく様子が語られる。
中村勘三郎が将軍家から金の采と白黒の幕を賜り、この幕の色に柿色を加えたものが中村座の定式幕となったエピソード、スーパースターだった初代團十郎をなくして、17歳で劇壇の孤児となった2代目團十郎の奮闘など、読んでいると歌舞伎が「始まっていく」のを感じられる。
『下』は、明和元年(1764年)の春、江戸三座で助六が競演されたところから始まる。4世鶴屋南北の登場によって咲き乱れる「悪」と「美」の花、一方で天保期の江戸三座の猿若町への移転など締め付けが厳しくなる様子も語られる。
そして後半は、市川小団次と河竹新七(黙阿弥)の全盛と、江戸時代の終わり。薩摩藩邸の焼打ち、鳥羽伏見の闘いへと時代が進んでいくところでこの本も終わる。
その他
まるで長い大河ドラマみたいだ、と先に書いたけれども、本当にドラマ化してくれないだろうか。歌舞伎に限らず、古典芸能に興味を持つ人が現れそうな気がするし、海外の方々にも興味を持ってもらえそうだけれど。
この本を読むと、芝居が常に、課される制約の中で反骨精神をもって時代と闘ってきたことが分かる。そして200年にも及ぶ鎖国がもたらした、江戸の文化の成熟が感じられるように思う。
現在、わたしは深く考えずに「◯代目」とか、「◯◯家系」の芝居、という言葉を使ってしまうけれども、そこには命をかけて闘ってきた役者、それを支えた人々が確かに存在し、彼らの精神が生きている。
誇張が過ぎるとか荒唐無稽という印象を与える演目や形も、歌舞伎にはある。しかし、それら一つ一つに経緯があり、(もしかすると)隠された意味があり、それを愛して守ってきた人々がいる。
ありがたいことに現在進行形である、歌舞伎を含む古典芸能を、もっときちんと見られるようにしなければ、と思う。