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腸閉塞体験記 6日目②
2025年1月12日(日)
12:45頃 昼食後のウォーキング
デイルームでの昼食は、黙食ではあったがなんだか賑やかで、病室での孤食と違って団欒の雰囲気を味わえた。また機会があれば来よう。
さて、またウォーキングをしよう。朝と同じく7周周ってみよう。朝とは反対向きに歩き始める。
2周目の途中で少しお腹に痛みを感じる。あれ、これは...傷の痛みかな?朝ちょっと頑張り過ぎたかなぁ。戻って休憩しよう。元気だからって調子に乗ってはいけない。
2周目が終わったところでベッドに戻る。またやってしまったかなぁ。元気だとすぐ調子に乗って張り切ってしまう。病気持ちだという自覚が足りん。
回想:ヘルニアの再発
4日目②に書いた通り、腹壁瘢痕ヘルニアの手術の半年後に、私は新しくパートの仕事を始めた。久しぶりの接客・販売の仕事。やっぱり私にはこの職種が向いている。シニアエイジに半分足を突っ込んでいる私は新しいことを覚えるのに苦労していたが(以前には無かった電子マネーやバーコードによる決済、アプリのクーポンなどは特に)、レジでの接客も商品の品出しもとても楽しかった。
大手全国チェーンの中型店舗であるそのお店は、常時2名、多くても3名ずつの交代制で運営している。1人がレジ担当でもう1人は品出しだ。商品は毎日大量に入荷してくる。頑張って売り場に並べないとすぐにバックヤードから溢れてしまう。
お店が扱う商品は本当にバラエティ豊かだ。毎日見ていても飽きることがない。好奇心だけは旺盛な私にとって、入荷した商品の箱を開ける瞬間は、プレゼントを開けるのと同じくらいワクワクする瞬間だ。手術の跡が痛むこともなく、私は夢中で働いた。完全に健康を取り戻した気分だった。
完全に健康を取り戻した、とは思うものの、半年毎の部長先生による検診は受けていた。毎回、このお腹の脂なんとかせなあかんでぇ、と明るく叱られながらも、まぁ今のところは大丈夫、と言われ安心しきっていた。糖尿病になってから毎月血液検査も受けている。がんにでもなれば検査の数値に異変が出てすぐ分かるだろう。今のところは大丈夫だ。
仕事を再開して2年と数ヶ月経った頃、お腹が何となく調子悪いなと気になるようになった。糖尿病で通院しているクリニックの先生に相談する。以前そのクリニックで受けた胃カメラの検査で、胃潰瘍の跡がいくつかありますねぇ、と診断されたことがある。自然に治ったようだったが、また潰瘍ができているのかもしれない。
症状を聞いた先生は、少し考えて、1回CT撮ってみましょうかねぇ、とおっしゃった。CTは外部検査になるため、同じ受けるならと、私のカルテを一番多く保管しているであろうこちらの病院で受けることにした。
紹介状を持って受付へ。方向音痴の私だが、この病院の中ならだいたい分かっている。慣れた足取りで検査室に向かう。CT検査は痛くも痒くもない。検査結果はクリニックの先生宛てに送ってもらえるそうだ。取りに来なくていいのか。便利だな。お会計を済ませて病院を出る。
1週間後、検査結果を聞きにクリニックに行く。胃にも肝臓にも異常はありませんでした。ただ...「診療情報提供書」と書かれた書類を見せてくださる。そこには「腹壁瘢痕ヘルニアあり。小腸の一部が脱出。」と書かれていた。
あ...またやってしまった。すっかり元気になった気になって、調子に乗ってしまった。病気持ちだという自覚が足りなかった。
手術から2年半あまり。腹壁瘢痕ヘルニアを再発させてしまった。
たまたま部長先生の定期検診まで1ヶ月ほどだった。その時に相談しよう。前回もすぐにどうこうしないと、ってことはなかった。腹圧に気をつけて生活すれば、しばらくは大丈夫なはずだ。
そして約1ヶ月後、先日こちらでCTを撮っていただいたんですけど...と、私から切り出す。お、そうなんか?とおっしゃって、パソコンのキーボードを叩いて画像を呼び出す。あぁ〜、これは...また出てきとるなぁ...
その頃の私の体重は78㎏くらい。そう、最初にヘルニアと診断された頃とちょうど同じだ。ということは...
再発したものは仕方ないし、いずれは手術が必要やけど、このお腹じゃなぁ。またちょっと、ダイエット頑張りましょか。
ですよねぇ。
また半年後の診察の予約を取り、ホンマ頼むでぇ、とおっしゃる声に苦笑いしながら診察室を出る。頼まれてもなぁ...いやそりゃ、先生のためじゃなくて自分のためのダイエットだけど。分かってはいるけど...
糖尿病で通院しているクリニックから血圧手帳をもらって記録しているため、体重も記録がある。
見返してみると、その後の体重の推移は、4ヶ月くらいはほぼ横這い。検診日が近づいてヤバい、と思ったのか2㎏くらい減っているが、その後また増えている(オイオイ、なんでやねん)。
今回の手術の前の最後となった検診で、もう少し体重減らした方がいいなぁ、まぁ、まだ大丈夫や思うけど、なんかおかしい思ったらすぐ来てや、と言われた。おかしいって、どんな症状が出るんですか?と尋ねてみる。まず、気分が悪くなってきます。それからだんだん痛みが出て、進行するとのたうち回るくらい苦しくなります。そうなる前に、必ず来てください。いつも陽気な部長先生は、いつになく真剣なお顔でそうおっしゃた。
その約2ヶ月後、言われた通りのことがこの身に起こった。「腸閉塞」だ。
16:00頃 家族が面会に来る
ウォーキングを途中で止めた後しばらくは、ベッドに寝転んでスマホ作業などをして過ごしていたが、日曜日のせいか病室を訪れる面会の方も多く、どうにも落ち着かないのでデイルームに移動した。こちらの方が明らかに人の数は多いのだが、オープンな雰囲気のせいか他の人の話は気にならない。
家族が私を見つけて隣に座る。今日はウォーキング中にちょっと痛みが出て、と報告すると、退屈やろうけど今は大人しくしておいて、と言われる。はい、反省しています、今は。でも、すぐ忘れちゃうんだよなぁ。
たわいもない話をひとしきりした後、じゃあ気をつけて、と家族は帰っていった。
さて、今日はお水どうしようか。う〜ん、仕方ない、自販機にしとくか。売店を諦め、デイルームの自販機でお水を買ってベッドに戻る。
夜担当の看護師さんが来られて、順番に患者さんたちの体調を確認していく。私も体温と血圧と血糖値を計測してもらう。パルスオキシメーターは酸素飽和度を測るんだっただろうか。いずれも異常無し。
18:00頃 夕食
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今夜のお魚は...鯖の酢炊きだって。酢炊きって調理法があるのか。初めて出会った。さっぱりして美味しい。でも、「酢」は私以外の家族みんなにとってボスレベルの強敵だ。そもそも夫は鯖は食べないしなぁ。
何故食べないのか夫に理由を聞くと、子どもの頃お父さんが鯖に当たったから、と答えた。あんな目に遭うのは嫌だから、俺は一生鯖は食べない、という。お父さんはその後も普通に食べていたそうだ。夫の初志貫徹ぶりに変に感心した。
今夜もいろいろな食材の味を堪能して完食。ご馳走様でした。
食器を返却して、お箸セットを洗って、さっさと歯磨きも済ませる。
ウォーキング、どうしようかなぁ。体力有り余ってる気もするしなぁ。このままじゃまた、なかなか寝付けそうにないし...
かなりスピードを落として慎重に歩き始める。この速さなら大丈夫そうだ。ぶらぶら散歩している感じで歩いていく。
スタッフステーションの角でお仕事中のスタッフさん(看護師さんではなさそうだ)に、頑張っていらっしゃいますね、と声をかけられる。まぁお散歩みたいなもんですけどね、と笑って応える。無理のない範囲で体を動かしてもらうのは大事なので、とても良いと思いますよ、とにっこり。ぼちぼち頑張りま〜す、とまた歩き出す。
かなりゆっくりだが、痛みも出ることなく5周してベッドに戻る。
しばらく休憩して、デイルームに移動する。あ、今夜って満月かなぁ。月めっちゃ綺麗だ(実際の満月は翌日の夜だったが)。時々窓の外の景色を眺めながら、スマホ作業などして過ごす。
21:00頃 寝る前の習慣
20時台のバラエティ番組が終わる頃には、皆さんそれぞれのお部屋に帰っていかれた。
お、これなら今夜は英語学習が捗りそうだぞ。アプリを開いて次々とレッスンに取り組む。本日のミッションは全てクリア出来た。頑張ったなぁ、私。まだまだ中2レベルだけど。
まだ30分近く時間がある。今日はプレイリストをそのまま流そう。「This is 藤井 風」というタイトルが付いたプレイリストを再生する。
あぁ、だんだん日常に近づいてきたなぁ。まぁ本来、英語学習も風くんの音楽もお風呂に浸かって楽しむのが私の習慣なので、そこはまだ取り戻せていないが。お風呂、入りたいなぁ...
22:00 消灯時間
ギリギリまで音楽を聴いてから病室に戻ると、既に消灯されていた。しまった門限過ぎちゃった。不良少女だ(いや、不良おばさんだが)。こっそりベッドに戻る。
いや、もう少し起きていようかな。窓際の椅子に座ってスマホ作業を始める。
30分ほど経った頃、椅子の後ろにあるカーテンが静かに開いた。わぁ、びっくりした、起きてらっしゃったんですね、と看護師さん。すみません、驚かせちゃって、と謝りながらベッドに座り直す。そうだった。お腹の管のチェックが残っていた。
座ったまま、管の袋の血液を移し替えてもらう様子を眺める。ギューっと絞ってもほとんど出ないようだ。
明日には管抜けるかもしれませんね。ゆっくりお休み下さい、とおっしゃって帰られる。やった!管が抜けたらシャワーに行けるかもしれないぞ。
明日が楽しみだなぁ、とウキウキしながらベッドに入る。そろそろ眠れそう。お休みなさい。
以上が6日目の様子です。日曜日だったこともあり検査もなかったので、再発時の記憶も書かせていただきました。「腸閉塞体験記」としているのに、「腸閉塞」の言葉が登場したのは1日目以来かもしれませんね。なんだかすみません。それでも、ちょっとくらいご参考になれば幸いです。
最後まで読んでいただいた方がいらっしゃいましたら、どうもありがとうございます。もし気が向かれましたら、また続きをご覧ください。