リトルチャイナで大騒動
(フアンと言っておきながら)私が唯一映画館で、それも公開時にリアルタイムで見たカーペンターの映画。37年前なのでもはや記憶はおぼろげだが
確か、シュワルツェネッガー主演の「ゴリラ」と同時上映だった気がする。
この映画の邦題は「ゴーストハンターズ」だが、「ゴーストバスターズ」にあやかりまくった邦題があまりに陳腐なので、以下、英語題名の日本語訳で
通させてもらう。
カーペンターは基本的に中学生レベルの映画を作る人である(誉め言葉)。
同世代の監督であるスピルバーグは「激突」から「ジュラシックパーク」に
いたるまで、あざといまでに小学生レベルの映画を作り続けたが、孤高の人
カーペンターは中学生以下にはレベルを落とさない。
・・はずだったが、この「リトルチャイナ」はどう見ても小学生レベルの映画だ。カーペンターがこれまでに監督した映画の中で、最も鑑賞レベルが高い成人レベルの作品が「光る眼」だとしたら、逆に最も鑑賞レベルが低いのが「リトルチャイナ」だろう。私はカーペンターの映画作品をすべて見ているので、ここまで幼稚な映画は他にないと思う。
未見の方のために言っておくと、決して「つまらない映画」ではない。つまらなさで言えば、「ザ・フォッグ」とか「透明人間」のほうがはるかに上だと思うし、単純に娯楽としての面白さでいえば「ニューヨーク1997」よりも面白いかもしれない。
莫大な製作費をかけただけあって(半分も回収できなかったけど)キッチュでオリエンタルムードたっぷりなプロダクションデザインは見応えがあるし
リチャード・エドランドが率いるILMの特殊視覚効果と特殊メイクアップ
は、いかにも80年代的な、ポップなスペクタクルを堪能させてくれる。
脚本の設定自体がおそろしく稚拙なのは言うまでもないが、この映画をどうしようもなく幼稚なものにしているのは、やっぱりマーシャルアーツの見せ場を多用しているから、だろう。中国系アメリカ人たちが集団で武術(と魔術)を駆使した乱闘を映画の中で何度も繰り広げる。
ジャッキーチェン主演の活劇シリーズを見れば明らかなように、マーシャルアーツはどうしても映画を幼稚なものにしてしまう。単純に視覚効果の問題として、男同士の緊迫した戦闘を子供同士の喧嘩のように見せてしまう。
ブルース・リーの「燃えよドラゴン」ですら例外ではないと私は思う。
さらに言うなら、美女が2人重要な役で登場するのに、彼女たちのエロティシズムがほとんどまったく生かされていない。これが健康的な少女が2人出てくるというだけなら、こんな文句は言わないが、成熟した大人の美女が
2人出てくるのに、エロティックな要素が皆無というのは人材の無駄遣いのように思える。
これをカーペンターに言えば、「だったらスペースバンパイアを見ろよ。
おれはトビー・フーパーじゃねえよ。」と言われてしまいそうだが、
「男女の(特に女性の)エロスを演出できないあなたの弱みが出ましたね」
と返したら、たぶん銃床で殴られるだろう。
マーシャルアーツを多用して、美女のエロスはほんのちょっぴり、脚本の設定は完璧に荒唐無稽(最後の方に今更な感じで警官隊が出てくるが、初めからいないも同然だ)。これだけ三拍子揃えば、映画が幼稚になるのは必然であり、問題はこの幼稚さを小学生になって受け入れられるかどうかがポイントだ。
私はテレビで2回目を見たときには素直に受け入れたが、今回は受け入れるのがわりと苦しかった。後の「マウス・オブ・マッドネス」とは違った意味で、カーペンターの問題作と呼べるかもしれない。
それにしても、莫大な製作費をかけたメジャー大作の音楽を自分で作曲して使用してしまうカーペンターは、やはりすごいと思う。目も当てられないほど「リトルチャイナ」が大コケしたとしても。