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無化学肥料でも農業はできる?(シン・オーガニック)
『シン・オーガニック〜土壌・微生物・タネのつながりをとりもどす〜』著:吉田太郎
第2部-第4章 無化学肥料でも農業はできる?
今回のnoteは窒素に特化した内容となっております!
▼前回の内容はこちら
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◆窒素固定菌は、ムダが嫌いな超優秀作業員
みなさん耳にしたことがあると思いますが、[窒素固定]についてです。
窒素固定とは
土壌菌が空気中の窒素を植物に栄養源として吸収させることです。
そして、それをすることができるのが、窒素固定菌です。
どうやって窒素固定をしているのかというと
空気の窒素はNが2つくっついているんですが、
これを土壌菌がニトロゲナーゼという酵素を作って、Nの繋がり(三重結合)を切って、
単体になったNが水素とくっついてアンモニアになって、
それを土壌菌が分解して、植物が吸収できる形の窒素になる。
という流れです。
この一連の流れが土壌菌にとって超重労働なのです。
空気の2つのNが【三重結合】というとんでもなく太い鎖(イメージ)で繋がっているため、
土壌菌はこれをぶった斬るためにエネルギーをたくさん使うのです。
どのくらい大変かというと、
化学肥料のアンモニアを作る【ハーバー・ボッシュ法】という方法では、
三重結合を分断するために、500度で、300〜1000の高気圧の臨界状態にして作るのに対し(工場から温室効果ガス大量発生)、
窒素固定はこれの4倍のエネルギーが必要になります。
でもなぜそんな大変なことをするのかというと、
前提条件として
植物と土壌菌は共生関係ですので、お互いに自分が生きるため、成長するために相手に与え、その対価で利益を受け取っている。という関係性です。
なので、土壌中に窒素が足りなくて植物の健康が危ないとき、とてもエネルギーを使う大変な『窒素固定』という作業も、やるのです。
ただ、こんな実験があります。
豆科作物の実験で、1ヘクタールに5キロの窒素肥料を施肥しただけで、土壌菌が窒素固定作業を停止しました。
他の窒素固定菌も「なんだ、植物が必要とする窒素はすでにいっぱいではないか」と、固定活動をやめていきます。
土壌菌が窒素固定を行う条件のひとつとして、【土壌中の窒素が枯渇していること】があります。
超優秀な作業員には、是非とも働いてもらいたいですね。
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◆窒素肥料が必要とされてきたタネ明かし
これだけ窒素固定菌が優秀なのに、
なぜ今も世間では「窒素肥料が必要だ」とされているかについて、2つ書かれていました。
○信憑性のない過去の実験
これは、おいおい!と思うのですが、
今までの窒素に関する実験は、窒素肥料をいれてたとのこと。
そのため、【窒素固定菌・スーパー無職モード】で土壌の実験をしていたのです。
オーストラリアの土壌学者クリスティン・ジョーンズ博士は
「これまでの研究の99.9%は破棄して良い。もう一度白紙に戻して、実際の土壌では何が起きているのかを解明する必要がある」
と主張するくらい信憑性がないとのこと。
○窒素ロブ(窒素飢餓)の影響
窒素ロブとは、土壌菌が有機物を分解する際に土中の窒素をエネルギーとして大量に消費し、窒素がなくなることで
作物、土壌菌が正常に成長、活動できなくなる状態のことです。
窒素ロブが起きたら窒素がなくなるから、化学肥料を入れないと。と言うことですね。
ただこれ、実は、落とし穴というか悪循環がありまして…
杉山名誉教授による、窒素ロブが起きる理由が記載してありました。
「多くの施肥がなされた結果、その土壌では窒素を吸収して高い代謝活性を保つ微生物軍が優位になっているからにほかならない。」と。
…なんだか難しいですね。
簡単に言うと、「窒素ロブが起きるのは、化学肥料によって【窒素好きの土壌菌】が畑に増えているからだ。」ということです。
原理を説明すると、
通常運転で土中の窒素をたくさん使う【窒素好き土壌菌】がいる畑は、ただでさえ作物に供給される窒素が少ないです。
土壌菌が先に窒素を使ってしまうからです。
そこに、高炭素の有機物(半熟堆肥など)が加わると、土壌菌が分解のために大量の窒素を消費します。
すると、土壌中の窒素がさらに減少し、窒素ロブが発生しやすくなります。
そして、土壌から窒素がなくなります。
そうすると、作物が栄養として吸収する窒素もなくなりますし、作物に栄養を運ぶ土壌菌の活動も抑制されてしまいますね。
なので、土中に窒素がないので、化学肥料を入れなければ育たない!ということになってしまうということです。
そして、窒素好き土壌菌が…というサイクルですね。
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◆窒素固定菌をふやすためには
「施肥をやめて土中の窒素を枯渇させ、高炭素・低窒素の有機肥料をいれる」こう断言されていました。
つまり、
前提として化学肥料を無くし、そこに半熟堆肥をまくことで、窒素固定菌が増える。
ということです。
ここで完熟堆肥よりも半熟堆肥が推奨されるというのが意外ですよね。
これは「窒素固定菌を増やし、活動を促すためには」だからです。
ややこしいのですが、
土壌や作物にとって良いのは、完熟堆肥を畑に入れることです。
(ちなみに、完熟堆肥が窒素固定菌にとって悪影響になることはない)
0か100ではなく、様々なメリットを理解した上で、
堆肥やスラリーを畑に還元していくことで、良い変化が生まれるのだろうなと感じました。
どちらにせよこれだけは言えるのが
【化学肥料がなくなると、土壌菌は喜ぶ】ですね。
窒素固定菌だけではなく、菌根菌のことも詳しく書いていたのですが、長くなってきたのでまた次にお話しします。
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◆おまけ
余談なのですが、三重結合を分断するための酵素ニトロゲナーゼは、酸素に触れると活動をやめる特徴があります。
その特徴もあり、窒素固定菌は
マメ科植物の根にある根粒内で暮らす定住型の【共生窒素固定菌】と
自由に住処を変える【自由生活型窒素固定菌】の2種類いまして、この自由形は
根鞘という根の表面を保護する壁の中にいるか、団粒構造の中にいるみたいです。
ここで、団粒構造がでてくると、そりゃあだから団粒構造の%が高い方がいいよね!につながりますね。
ちなみに、イネ科はこの根鞘を作るのが得意らしいです。
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◆締
さて、ここで第4章のお話を終わらせます。
窒素が出てくると、一気に現場の話になってくるように感じました。
窒素固定は土壌菌にとってとても大変なこと、悪循環が生まれるきっかけのこと、化学肥料が必要とされている意味を、もう一度考える。
無化学肥料でも農業はできる?
前提を改めて疑い、考えるきっかけとなっていただけたら嬉しいです!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
◆次回
森林植物の窒素源80%はアミノ酸
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