コーチ・カーター見た方がいい。ネクスト・ゴール・ウィンズに足りない物語のロジック。
こんにちは。映画好き社会人のImoです。映画館の最新映画を中心に週一ペースくらいで語っていきます。コロナにかかってしまい治ってからようやく映画を見れました。
サッカーの物語って好きなんですよね。僕自身は全然やらない、プレイするのは苦手なんですけども。漫画では「ブルーロック」とか「ジャイアントキリング」とか読んでますし、タイトルにもあるようにコーチカーターみたいなチームと監督の友情努力勝利的な映画も好きで、そういうわけでこの映画に興味を惹かれたわけです。惹かれたわけなんですが…
正直言うと今言ったタイトル達を見直した方がいいレベルでした。点数で言うと30点くらい。詳細に言うと途中まで60点で後半につれて点数が下がっていきました。サッカーじゃ点数が下がることはないですが間違いなくブーイングものです。
じゃあなんでダメなのかと言うと端的に物語のロジックが不足しているという点に尽きます。言い換えると作品の持つメッセージに対する裏付け、説得力です。この映画は小難しい芸術映画ではありません。サッカーというありふれた題材を扱い、監督とチームの絆という内容なら間違いなくエンタメ映画です。いいエンタメ映画は作品のメッセージが明確です。この映画のメッセージは何かを考えるためにおおよそのあらすじを語りましょう。
落ちぶれた口の悪い監督のトーマスは世界最弱のアメリカ領サモアのサッカーチームの監督に就任します。電話もまともに繋がらないようなど田舎ではあるけど島の人たちは信心深く、そして懸命に働きながらおおらかな雰囲気で生きています。勝負の世界で生きてきたトーマスはこの文化に翻弄されながら彼らと打ち解けて、最終的に奇跡的な勝利を納めるのです。
このあらすじを見て一番大事なのは「なぜサモアが勝つことができたのか」というところでしょう。そこを皆無意識で探りながら見ていたと思います。おおらかな文化と考えを持つサモアの人々の哲学とストイックな世界に生きたトーマスの哲学がぶつかり合い、どんな物語を生み、どんな答えを出すのか。実話ベースのこの物語を調理して、どのようにそれらを表現するのかが見る人に問われるわけです。作品の答えを言うと端的には「勝ち負けに捉われず楽しむこと」というものでした。
このテーマ自体は悪いものではないと思います。何かに勝つ、負ける、誰より優れてる劣ってる、そういう相対的な概念に捉われているうちにパフォーマンスがぎこちなくなり、迷走する者もいる一方で純粋にただ楽しんで無我夢中で取り組んでいるものが気づけば誰にも負けない力を身につけている。ドラゴンボールの名シーンである「お前がナンバーワンだ」がまさにそうです。
ドラゴンボールはベジータの悟空に対する執念がしつこいくらい描かれていますよね。じゃあこの映画の監督の勝ち負けへの執着がどうなのかと言うとそこはしっかり表現できていたと思います。しかし、そこに対抗する「楽しむこと」の主張が弱すぎる気がしました。というか急に出てきたんですよねこの答え。最後のW杯予選トンガ戦にて前半に1点のリードを許しトーマスの怒りが爆発。ミーティングでボロクソに言った挙句立ち去ろうとします。そこでサモアのサッカー協会の会長が言うんです。「あなたの心は常に勝ち負けや過去にあって私たちと共にはなかった。負けるにしてもせめて心は私たちと共にあってほしい。」この言葉を受けてトーマスはチームに「楽しんでくれ」と伝えます。ほんとにここでしか言わないんですよね。このエピソード自体はいいものなんですけど。この試合の前段階でチームはかなりまとまってるし、トーマス自身はチームを馬鹿にされるのを嫌がるようになってるんですよ。十分心は一緒にいると思うんですけどね。
この映画が実話を元にしている以上、ほんとに最後の試合のミーティングで全てが変わったってこともあるのでしょうし、おおよその試合の流れは変えられないにしてもそれまでの演出や描写で説得力を持たせることは出来たんじゃないかなと思います。最後に力を抜いて楽しむことを答えにするなら、その主張を形を変えて何度もしておいたほうがしっくりくるような気がします。映像からサモアの雰囲気はよく伝わったのですが、楽しむことの大事さというより牧歌的でのほほんとした空気であるという印象でした。
そしてこの映画、どうも余計な言葉も多いような気がします。トーマスの娘のセリフや、それを受けてのトーマス自身のセリフに「サッカーよりも大事なことがある」というものがあるのですが、サッカー映画でそれ言っちゃう?と引っかかってしまうかんじがあるんですよね。結局物語の後でもトーマスはスカウトマンとしてサッカーに関わり続けているわけですし。まぁまったくわからなくもなくて、要はこれも「楽しむこと」に繋がるわけなんですけど、より伝わりやすいのは「勝ち負けより大事とか」そういう言葉なんじゃないかなぁと思うわけです。
この映画に後一つ文句があるのが、後半戦についてなんですよね。
なぜダイジェスト形式にしたんですか。
前半戦終了後サモアの会長が熱中症で気絶します。回復した後に息子の語りで後半戦が描写されるのですが、これが見どころだけのダイジェストなんですよ。
なんでボロ負けの前半戦だけしっかりやって後半の熱いところを通しで見せないんですか…。しかも映画唯一の試合描写なんですよ。そこでの逆転なんて熱いのにもったいない…。
以上から後半につれて冷めていったわけです。
とはいえこの映画は実話を元にしたもので融通が効かない部分もあるのかもしれませんし、コメディ映画をこんな肩肘張って評価するのもおかしいのかなぁと考えています笑
しかしコメディであっても理論整然としたつくりになっているものもありますし、一度気になる部分が出来るとコメディらしく頭空っぽにして笑うことが出来なくなるものです。
LGBTにかかわる選手がいたり、娘さんについての驚きもあったり、いいところはあるんですけど、惜しい映画だなぁと思いました。
完全に私の好みではあるのですが、よく出来た映画は見てる最中はこの先どうなるんだろうというワクワクだけあってみた後にごちゃごちゃ考えてる気がします。ちょっと微妙な映画は見てる最中に「ん?」ってなって、考えながら見てしまっている気がします。
頭空っぽにして見れるようになっているということは、それだけ観客に伝える物語のロジックがしっかりしているということかもしれません。
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