面白くてもつまらなく感じてもいい。perfect daysをみて

こんにちは。映画好き社会人のImoです。このnoteでは映画館でやってる映画をメインにいろいろ語っていこうかと思います。

今回はPerfect days。役所広司さん主演の映画です。ズバリこの映画は「日常のすばらしさ」というところをこれでもかと表現しています。朝外に出て見上げる空の色、公園の木々、親しい接客をしてくれる馴染みの店、車や家で聞く古いカセットの洋楽、主人公の平山が日々享受している幸福が印象的に映り、タイトルに相応しい様を見せてくれています。

そんなこの映画がずっと完璧な日常を映してくれているというわけではなく、時々暗い影を見せてくることもあります。印象的なのは寝る前に見る灰色の景色。その日見たものや何かの思い出のようなものがぼんやりと現れては消え、気づけば朝に。このシーンはどこか雰囲気が不穏で、この映画が単なる明るい日常ばかり映すわけではないと教えてくれます。他にもはっきりと明言されるわけではないですが、平山の幼き頃の家庭環境にも何かあることが仄めかされてはいたりと、こうした陰りがありつつも、毎日小さな幸せにも溢れているこの世界と、その小さな幸せを見つけて生きる平山の姿が揃い、日常の素晴らしさ、美しさを私たちに教えてくれます。

というのがこの映画の大体の内容です。作品自体が規模の大きい話ではないですし、日常のちょっとした変化はあれどそれが物語として重大な意味を持つわけでもありません。なのでこの映画にワクワクするエンタメのようなものを期待するのは違う気がします。私個人の感想としては「半分退屈で半分面白い」というのが正直な感想です。

私でも面白いと感じる部分は先ほども述べてきた通り、日常の描写にいろんな楽しみを散りばめていることで、実際映画で「ここすき」と言える部分はいっぱいあると思います。役所広司さんの演技も素晴らしく、特に最後の数分の泣きのシーンは見た人の心に強く残るはずです。この映画自体は素晴らしいので退屈に感じたのは僕に原因があります。その原因はたった一つのシンプルなことです。

僕がまだ若いからだと思います。

このことはまず、この映画のターゲットと僕という人間のズレを起こしています。映画館の客をざっと見た時、かなり年齢層が高かったおぼえがあります。僕が現在26歳に対し、座っていたのは4,50歳くらいの中年の方が多い印象でした。そして映画の内容も、古い洋楽が印象的に流れるシーンが多く、見ている間も「実際にこれらの曲を聴いてきた人ならもっと入り込めるんだろうなぁ」と感じるくらいでした。ちょうどカセットの曲にハマる水商売の女の子がいましたが、僕のこの映画に対する距離感もあんな感じなのかもしれません。とりあえず聴いてみて、これ好きかもというふうには思うものの、長い人生の中で聞いてきていて、昔から知っている平山とはどうしても曲に対する入れ込み方や感覚は違ってしまうものです。同じように、もう50年生きて、平山と同じような歳になった人と僕とでは、この映画の感じ方は近いようで遠いのかもしれません。

そして若いことはまだ欲に溢れていることでもあるわけで、平山のような暮らしを良いと思う一方でやっぱり自分はもっと贅沢したい気持ちも否定はできません。あれも欲しいこれも欲しい、そういう気持ち自体は人間必要ではあるし、それが活力になる時もあるわけです。平山のような生活に100%同調できる若者はかなり達観しすぎているし、少ないと考えています。

とは思うものの、現代社会の不景気にさらされた若者の中には欲を捨てる人たちも現れてる事実があります。中国の寝そべり族みたいな、最低限の暮らしで満足する若者もいるわけで、そういう人たちは平山の暮らしに100%同調するかもしれません。(とはいえ、平山は一生懸命仕事をしてるので質的には異なるかもしれませんが)そして、中年や老年の人たちの中にもいつまでも欲があり、したいことがある活力に溢れた若々しい人が存在していることも事実です。

つまり、この映画が退屈に感じたなら、それはまだいい意味で欲があり、考えや思想にまだエネルギーとなる若さがあるということで、逆にこの映画を楽しめたなら、日常の尊さに気づくことができる達観した精神を持ち、良く熟成した考えや思想を持つということです。26歳という年齢の僕はこの映画を見た時に、半々で面白さと退屈さを感じたと述べました。その原因を端的に若さと言いましたが、単なる年齢の話ではなく、人生経験や育ってきた精神や思想、それらの熟成度というニュアンスで、まだまだ若いのではないかなと考えたわけです。ある程度社会に揉まれて、それなりに自分の人生で何が大事なのか考え始める年齢で、大きな喜びだけでなく、小さな喜びも大事にすることも思う今日この頃ではありますが、一方でまだまだ叶えたいことも多いわけです。そんな自分みたいな人間には、この映画は面白半分退屈半分に感じるくらいがちょうどいいのかもしれません。

おそらく作品のターゲット的に少ないとは思いますが、自分と同じような若めの人たちにも試しに見てほしいなと思います。面白く感じてもつまらなく感じてもいいのです。物語というのは、今自分が何を大事にしているのかをはかるための試金石なのですから。

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