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茨城県河内町に移住した田畑 則重さんのLOCAL MATCH STORY~持続できる地域教育の仕組みづくりと発信を目指して~

 都心から近くも、豊かな田園風景や長閑な雰囲気のある茨城県河内町。2023年、河内町では廃校を活用した地域教育に取り組む地域おこし協力隊の募集を行い、1名の着任が決まりました。地域教育コーディネーターとして、河内町の旧生板小学校の活用を軸に、新しい生涯学習スタイルの確立に取り組むのは、埼玉県出身の田畑 則重(たばた・のりしげ)さん。出版社の編集業を35年、大学教員として13年務めたのち定年退職、その後も再び出版業界へ戻り、編集長を務めていた中でのキャリア転換でした。

河内町の旧生板小学校を拠点として活動をスタートされた田畑さん

 今回は、73歳(着任当時)という年齢で「地域おこし協力隊」という新たな働き方に挑戦された田畑さんに、応募のきっかけや、地域おこしへの想いなどをお伺いしました。

東日本大震災をきっかけに地方創生に関心 持続できる活動がしたいと思い、地域おこし協力隊の道へ

ー今回、地方での仕事にチャレンジしようと思ったきっかけはありますか?

田畑さん(以下、田畑):最初のきっかけは2011年の東日本大震災です。震災後、当時大学で受け持っていたゼミの学生を連れてのボランティアや自ら現地調査をしていく中で、地方創生に関心を持ち、定年退職後は無料の私塾を開きたいなと思うようになりました。ただ、せっかく再開した現地のビジネスの妨げになるのではないかという心配や若い世代が戻ってきていないと感じていたことから、なかなか踏み出せず、大学教員定年後は古巣である編集業に戻っていました。

しかし、年齢を重ねていくうちに、ずっと編集の仕事を続けていけるのかと自問自答するようになり「自分にできることは何か」を改めて考えるようになりました。考えた結果が「教育分野」でした。

70歳で定年し、コロナ禍でオンラインでの働き方を経験したこともあり、都心で働くことは考えていませんでしたね。必ずしも給料が重要ではなかったですし、わざわざ都会で満員電車に乗って仕事をしなくてもいい、どこでも仕事はできるんだろうなぁ、と思っていました。むしろ、必要とされる地方で何かできることはないか、と情報収集を始めていきました。

首都圏を避け、「地方創生」「教育」をキーワードに情報収集する過程で、地域おこし協力隊の仕事に関心を持ち、LOCAL MATCHに掲載されていた河内町の募集に出会ったんです。

LOCAL MATCHにて掲載された地域教育コーディネーターの募集ページ
「寺子屋」というキーワードに惹かれたという

ーご自身でできる地方創生のやり方を探していたということですね。起業などではなく、地域おこし協力隊という働き方を検討した理由はありますか?

田畑:起業も考えたのですが、現在74歳(取材当時)という年齢的なことも考えて、後継者を意識しながらやるべきだ、長期的にできることを考えようと思っていました。その中で「公営・寺子屋塾」というキーワードを見つけて、そこにニーズがあるなら地域おこし協力隊としてノウハウを積み、後継者のような人ができれば一緒にやって、数年後引き継げたら…と思ったため、起業ではなく地域おこし協力隊という道を選びました。

ー地域おこし協力隊という働き方や地方移住に不安などはなかったですか?

田畑:全く不安などはなかったですね。枠組みはどうであれ、自分のやりたいことか、ニーズが合っているかを北海道から沖縄まで調べて、その中で見つけたのが河内町の活動でした。

それに私自身、北海道生まれですし、今まで引っ越しは20回以上、海外生活も経験していたので、どこに住むかという時に地理的条件は特に気にしない方でした。河内町近隣の霞ケ浦・筑波山・阿見・潮来などにドライブで行くことが多かったので、この辺りの地理的条件はよく知っていましたし、「最適な居場所」という選択の中で考えたら、河内町は悪くない場所です。実際に来てみると「河内町にはこんな広々とした土地があったのか」という印象を持つようになりました。

利根川を望む風景

寺子屋事業を拡大「シン・寺子屋かわち」や図書室新設事業などを担う 新しいモデル化を目指して

ー現在はどのような活動を行っていますか?

田畑:教育長からは「文化面でまちをにぎわせてほしい」というミッションを与えられ、現在はどんなことができるか文化事業の企画を立てている状況です。

実際に今動いているのは、従来からある小学生対象の「寺子屋かわち」の運営支援と、新年度からの中高生および一般を対象とした「シン・寺子屋かわち」の企画が中心となっており、その他、令和7年度開館予定の新図書室や歴史・民俗・文化遺産を活かす町おこし企画の立案にも関わっています。

ー従来の寺子屋とはターゲットの異なる「シン・寺子屋かわち」を、田畑さんが中心となって立ち上げていらっしゃるのですね。

田畑:従来の「寺子屋かわち」の運営については、小学生を対象にした英語教室や落語、地元の太鼓など、既に企画が充実しているので、これからは「シン・寺子屋かわち」として中学生・高校生・大学生や、一般の方・シルバー世代の方向けの講座やワークショップを計画しているところです。どこまでニーズがあるかはまだ手探りですが、外から人を呼んで、ワークショップやスピーチ講演をやってもらったり、できることは沢山あると考えています。

神奈川大学の教授を招いた「英語で紙芝居」や大人向け「幸せな老い支度のすすめ方」講座など、幅広い世代に向けた企画を進めているそう

特に、河内町には高校がないため、地元の中学生は成田や土浦、柏などに出て行ってしまいます。外部の人間から見ると、とてももったいないことだと感じてしまいます。サテライト塾でしたり、流通経済大学や筑波大学の学生や先生とのネットワークを作ったり、なるべく高校生が地元で教育を受けられる環境を作っていけたら…といった構想はあります。

また、地理的環境ハンディをどう考えるかも課題ですね。成田空港が近いので、そこを経由する形で人の移動ができないか、かつて河内町で実施していた中学生の留学(海外英語研修事業)も復活できないか、など考えています。

ー地域を超えた幅広い視点で考えられているのですね。寺子屋事業以外の分野についてはいかがですか?

田畑:新しい図書室の企画についても動いています。令和7年に、中央公民館に併設する形で新図書室ができる予定なのですが、現在全国的に注目されている近隣地域の那須塩原市の図書館「みるる」に役場の方と視察に行ってきました。その上で、河内町の条件ではどのような選択肢があるかなど提案をしています。

全体の活動としては、現在は「シン・寺子屋かわち」と「新図書室の企画」を7:3の割合で取り組んでいますね。

ー活動を行う中で意識していることはありますか?

田畑:時間の制約があるため、常に時間を意識していますね。また、編集業という仕事柄ずっと企画を考える仕事だったので、A案がダメだったらB案をひねり出す、それがだめならC案を探り出すのが仕事の大きな基本だったので「どんな制約があってもなんとか考え出す」というのが私のポリシーです。

旧生板小学校のオフィス(教室)で企画が実現する日も近い

様々な立場の人との交流から、全国に提供できる地域興隆のアイデアを生み出したい

ー今後の目標や構想はありますか?

田畑:移住してから首都圏に近い過疎・人口減少地域の課題が見えてきました。問題解決は簡単ではないですが、地域興隆のために活躍している方々と交流し、意見を交わし、地域ニーズを汲み取り、地域に貢献するアイデアを生み出していきたいと思います。また、河内町でのモデルを作っていくと同時に、汎用性のあるモデルも意識しています。地域の条件は千差万別で、地域にあわせた企画が必要になりますが、ここでの新しい生涯学習スタイルを「かわちモデル」として全国に発信し貢献できればと構想しています。

実は、先日の協力隊サミットでも地域おこし協力隊×教育に関心のある方がぜひ話を伺いたいと仰ってくださり「全国には自分の取り組みに興味を持ってくれる方がいるのかな?」と思っていたところです。

また、最近ですとボランティアなどで関わってくれる方ができました。新卒で地域おこし協力隊に飛び込む方もいますし、大学生向けに「一般企業に就職」という選択肢以外にも、地域おこし協力隊という選択肢があることを教えていくなど、進路指導もこの生板小学校で出来たら良いですね。

ー地域おこしの1つのモデルとして、他地域の道標になれたら素晴らしいですね。それでは、最後に地域おこし協力隊になりたい方へメッセージはありますか?

田畑:若い世代の就職先として、企業よりも主体的に働ける可能性があると感じています。最長3年という時間的制約下で将来の起業計画を練ることは、長い人生を送る上でも有意義ではないでしょうか。自分の仕事やミッション、やりたいことがあるかが一番大事で、それがあれば他の問題は解決できると思います。地域おこし協力隊の枠で何かやろうと考えると、ギャップが辛く感じることがあるかもしれません。むしろ「夢や将来やりたいことは何か」を考え、なるべく近いところに行って、スキルを磨いて、自立していくのが一番理想ではないでしょうか。

シニア世代も機会があれば、社会貢献を意識して、培った経験や外部人材ならではの視点を活かしつつ、若い世代に伝えていくことを「生きがい」に設定するならば、一般企業に勤めるよりはロマンがあるのでは?と感じています。私自身も、年齢的に不安はありました。「若い世代の方がいいんじゃないかな?」「私でいいのかな?」と思うときはありましたが、その上で採用を頂いたのだから若い世代にないものを提供していきたいと思っています。

移住に関しても、住居の制約はありますが、車で少し行けばなんでも揃ってますし、移動で不便は感じてません。

「空がとっても青い、どこまで描けるか?」何もないから厳しいと考えるか、何もないから自由だと考えるか、考え次第だと思います。

ー田畑さんの広い視野から無限の可能性を感じています。今回は貴重なお話をありがとうございました!

(終わり) インタビュー時期:2024年2月

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