ブランディングのメモ帳-5
「どこで誰にどんな商品を売るのか?」
地方に住んでいると農家や飲食店、雑貨小物なんかを販売する小規模なマーケットに良く出くわします。神社の境内や学校の体育館、近くの公園に所狭しとお店が並びます。楽しそうで微笑ましい光景ですね。昔子供の頃に行った夏祭りの出店を思い出します。
でもよく見ると地域のマーケットと祭りの出店では売っている商品が少し違っているように思えます。「?どこが違うんだろう?」もう一度ひとつひとつの商品をよく見てまわると、少し気づいたことがあります。
地方の小規模マーケットに置いている商品と出店のマーケットには共通点があります。簡素な食品…屋台で簡単に短時間で加工できるもの。手作りの雑貨…布小物、陶器類、木製品etc。衣類(オリジナル、中古を含む)。出店の特徴である短時間での設営、撤収が可能で原価率の低い商品が多いのは仕方ないでしょう。でも、地方のマーケットと祭りの出店で明らかに違っているのはその「商品の名称」です。
「商品の名称」とは「商品の中身」ではありません。実のところ「中身」はほとんど大差ありません。たこ焼きもリンゴ飴も布のがま口も陶器も、地方のマーケットで売っているものも祭りの出店で売っているものも同質のものです。でも名称はただの「たこ焼き」ではなく「名物◯◯のたこ焼き」。「リンゴ飴」は「◯◯名産◯◯りんごのリンゴ飴」。「がま口」は「地元職人が紡いだ◯◯生地で作ったがま口」となります。
地方のマーケットに来る客層は別の地域から来た観光客がほとんどでしょう。でももし、インバウンド客や地方からの客が来なければ地元の地域の客が中心になってしまします。◯◯地方の名産は◯◯地方に住んでいる顧客には物珍しくないのです。
◯◯地方の◯◯はとても品質が良いという証明であれば、それ以外の地域から見れば「ブランド化」していることがあります。でも地元の人々にとってはそれは魅力的なブランドになっているでしょうか?
これまでのように「村のチーズ店」で考えてみましょう。
「村のチーズ店」(地方のマーケット編)
A村では村人の合議で毎月1日に広場で皆が商品を持ち寄って市を開くことになりました。野菜や家畜、山の幸、海の幸、様々な商品が市には並びました。村じゅうの住人が集まり盛況に市は始まりました。A村特産品、A村の加工品、A村のありとあらゆる自慢の品が集まりました。チーズ店の店主もお店から商品を持ち出して売り始めました。市は大成功でした。気を良くした村人たちは毎月その広場で市を開くことにしました。ところが3ヶ月、6ヶ月、1年も経つとその市はすっかり寂れてしまいました。どうしてなんだろう?村人たちは考えましたが、なかなか原因がわかりません。挽回しようとまた皆で合議しました。その席で多くの村人たちが集まってお互いの顔を見ました。「◯◯さん、この間うちの店に来てくれたねぇ」「もちろん、その前も、さらにその前もお前さんとこに行ったさ」「何言ってんだよ、私も前もその前も、さらにその前もあんたとこに行ったさ」村人たちは口々にお互いの店に行ったことを自慢し出した。「ちょっと待ってくれよ」チーズ店の店主が止めました。「てえことは何かい?この1年間同じ人間同志でお互いの商品を買い合っていたって事かい?」
小さな地域マーケットでは起こりがちな事例です。顔見知りにばかり宣伝をして、いつもマーケットに顔を出すのは同じ顔ぶれ。お互いの商品を物々交換のように買い合う。これではマーケットそのものが大きくなるはずがありません。ではどうすればもっと商品が売れるようになるのでしょう?
「村のチーズ店」(祭りの出店編)
A村のチーズ店はこのままじゃ場所代や人件費ばっかりかかって赤字だと嘆いていました。そんな時隣村のB村の友達から声がかかりました。「来月、うちの村で祭りがあるんだが、あいにくうちの村にはチーズ店がなくてさ、都合が良ければうちの村祭りで出店をやらないか?」渡に船の話にチーズ店は飛びつきました。「でも店の看板や名前はどうしようか?」「お前の村じゃ有名かもしれないけど、うちじゃ新参者だ。普通に『美味しいチーズ屋』で売れば良いさ」友達の言う通り「A村」そのものが国ではあまり有名ではありませんでした。祭りの日村人だけではなく国じゅうから人が集まっていました。『美味しいチーズ屋』の名前で出店を出すと飛ぶようにチーズが売れました。それは噂を呼び、今度はC村とD村からも声がかかりました。それらの祭りにも様々な村や街から人が来ました。どの村の祭りでもチーズはよく売れ、ついに大都会であるE都のグルメイベントに出店してくれと依頼が来ました。そしてその都のイベント出店をきっかけに大商人のF社から取引をして欲しいと連絡がありました。こうして気がつけばA村のチーズ店はその国一番のチーズ店に成長していました。
この二つの物語の違いは「商圏(マーケット)」です。一つ目の話では小さな商圏の中で売り手も買い手も収まって、そこから拡大する気配がありません。二つ目の話は自ら小さな商圏から飛び出して自分で市場を開拓してゆきました。ついには国一円が商圏となります。もちろんマーケットが大きくなって行くのに合わせてお店も大きくしなくてはなりません。大きくなることに期待しずぎて時代を見誤ると痛い目に遭うことはインバウンドに期待してお店に資本を注ぎ込みすぎた今の飲食業を見れば明らかです。
いつも時代の先を読みながらマーケットがどうなって行くかを察知できるのが良い経営者であると言えます。
次は村から飛び出してちょっと未来の話をしましょうか?