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落合陽一氏のいう「デジタル発酵」について調べてみた。
はじめに
先日メタファーとしての「発酵」という記事を書きました。
これは2018年1月〜3月頃の気づきを書いたものです。
その後、2019年に落合陽一さんが書かれた「2030年の世界地図 あたらしい経済とSDGs、未来への展望」を読む中で、落合さんが「デジタル発酵」というキーワードを提唱していることを知りました。
その当時、理解は表層的でしたが、響きがとても気に入ったことを覚えています。今回は、改めて書籍を読み直した上で理解を深めたいと思います。
ローカルの生存戦略としての「デジタル発酵」
書籍「2030年の世界地図 あたらしい経済とSDGs、未来への展望」や連載「マタギドライブ」でデジタル発酵について書かれている箇所を見てみるとほとんどの場合は、ローカルでこれからの時代でとるべき戦略的な意味で使われているように思えました。
デジタル発酵とは?
さまざまなテクノロジーが、その土地に根付いたモノやサービスと掛け合わされることで、新たな魅力と価値が現れてくる。
一見奇妙に見えていても、そのユニークさにおいて外部に開放された、新しいローカリズムのあり方を示しています。
グローバルなデジタルプラットフォームが浸透した環境で、再びローカルに根ざした文脈性が優勢になっていく現象
デジタル環境の普及によって利用可能なツールやサービスをめぐる限界費用が限りなくゼロに近づいた条件において、誰もがデジタルの上でクリエーションしやすくなり、その享受もローカルな範囲で行われていくことで、まるで地域性と密着して発展した発酵製品のように、独自の地産地消型のサービスやプロダクトの文化が生まれていくという状態
ネットの片隅にローカルなものが出現したので、とりあえず使ってみたらハマってしまった、というようなものがたくさん生まれてくるのがデジタル発酵だと言えるでしょう。そんなふうにローカルな情報環境から人間の精神や市場にとって、おもしろかったり流通価値があると見なされたりするものが生まれてくる
グローバルの基準から外れた方向への熟練が意外な価値を生み出すのは、「デジタル発酵」の典型
デジタルに込められた各種ツール・インフラとは?
例えばどんなテクノロジーをさしているのか、についてこういった紹介がされていました。
Network(4G・5G)
Open Source (Software・HardWare)
IoT commodities (Smartphone・Wearable・Sensor)
Internet Community Service (SNS・Repository)
具体的な事例は?
連載「マタギドライブ」第4章の中では以下のような事例が紹介されていました。
日本のタクシーの配車アプリなどは、Uberというグローバルプラットフォームに触発されるかたちで、デジタル発酵を起こし始めていると見ることができるでしょう。
YouTubeからの引用動画のコメントサービスとして始まったニコニコ動画は、サービス発足からしばらくはデジタル発酵のお手本のようなポジティブな文化生成力を見せている一方で、2ちゃんねる的な日本型のセミパブリックな匿名性のよくない部分と結託し過激発言の温床になっていたりもしてます。これは多くのWebサービスにいえることですが、発酵と腐敗が同時に進行します。
電子決済業界に目を向ければ、PaypalやAliPayといった海外で先行していたサービスがありながら、なぜかPayPayが勝つというような光景は、非常にデジタル発酵らしい光景
とりわけコミュニケーションツールの領域で考えたとき、やはり日本での最大の事例の一つがLINEということになるでしょう。他のツールと違って「なんでこんなに異様にスタンプの数があるんだ?」というような発展を遂げ、非常に異様なコミュニケーションが生み出されたあたりは、まさに絵に描いたようなデジタル発酵と言えるでしょう。
これらはローカルといっても、世界の中の日本という単位のローカルを指しているように思えました。
また、これらの例を見る限りは正直、海外へ開かれているように思えない、という意味で過去にあった「ガラパゴス携帯」との違いがいまいち分かりませんでした。
ガラケーとは、1990年代末から2000年代初頭にかけて国内メーカーと大手移動体通信事業者(携帯キャリア)が主導して活発に開発・販売された、日本独自の機能や関連サービスが発達した携帯電話端末のこと。
ちなみにLINEに関しては「デジタル発酵」の文脈とは別で検索して見つけた、絵のスタンプではなく文字のスタンプが生まれていった背景など書かれているこちらの記事が面白かったです。ユーザーが自ら欲しいスタンプを自由につくるゴチャゴチャ感に「発酵感」を感じましたし、この文字のスタンプがLINEが利用されている国でも積極的に使われているようであれば、「外部に開かれたローカリズム」と言えるのかなと思いました。
以下のような記載もあるので、「デジタル発酵」に程度の差はあるが、そのレベル感について言及されていないだけなのかもしれないと意見を改めます(笑)
グローバルプラットフォームの使い方のハッキングから新たなエコシステムの実装まで、いくつかの段階を経てデジタル発酵が起こっているとするならば、日本というローカルにおいては、Facebookはまだあまり発酵しておらず、Twitterはほど良いくらい、LINEは完全に発酵している……というふうに整理できるのではないでしょうか。
mixiはデジタル発酵の域に到達する前にSNSとして縮小してしまった
異なる意味で語られているように思えた「デジタル発酵」
私は主だった参考情報を一通り見てみたのですが、「デジタル発酵」に関する記述でローカルの生存戦略的な意味合いとは異なる表現があります。
今回の制作にあたって、私が掲げたコンセプトは「デジタル発酵する風景」です。発酵はさまざまな文脈で使われる言葉ですが、ここでは「自然化し、人の感覚の醸成を促すデジタル」という意味で使っています。
この制作とは、2019年に開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)というイベントに出展され、落合さんが統括ディレクターを務められた日本館のことを指しています。また、他にも「デジタル発酵」を理論的に定義づける上で鍵となるのはグレゴリー・ベイトソンの思想かもしれない、とも書かれていました。
このあたりの意味する「デジタル発酵」と、先に紹介した生存戦略としての側面とが、どのように関連し合っているのかは内容を何回か読んだだけではいまいち分かっていないのが現状です。
ちなみにSXSW2019年の日本館の様子など写真入りで書かれた記事がありました。興味深かった。
さいごに
web漫画は海外では日本人が慣れ親しんでいるページめくり読みではなく、韓国で生まれたスマホで読みやすい縦スクロールの方が広く受け入れらていると聞きます。また、こちらの記事によると作品にコメントをつけるスタイルも世界で受け入れられているとのこと。
これらの特徴が、韓国というローカルならではとテクノロジーがかけ合わさって生まれたものかどうかは分かりませんが、もしそうだとしたら韓国漫画(ウェブトゥーン)の作家を支援するAIの開発に力を入れていることと相まって、「デジタル発酵」の成功事例のように思えます。
このように色んな事例に対してこれは「デジタル発酵」なのか?といった観点でチェックを入れていくことで解像度が上がっていきそうだと思いました。
引き続き、そのレンズでもって色々眺めてみたいと思います。