見出し画像

【往復書簡12通目】記念すべき春の一皿「ウスイエンドウのリゾット」をご一緒に。

いがらしさんへ

関西はもうすっかり春になってしまいました。ダイニングの窓から見える姫林檎の樹は、お、若葉が出てる、と思う間もなく、ぽこぽこ蕾がふくらみ、気づけば、花が咲きほこっています。札幌の果樹庭の林檎の花が咲くのは5月の半ばだったことを思い出し、やっぱり別の国みたいだな、と感じています。

2月の栃木から、驚きの一皿をありがとう。どちらかというと、クセがあって、あかぬけない印象(失礼!)の「しもつかれ」を、ドレッシングにアレンジするなんて。しもつかれを食べたことはないので、材料とつくり方の説明から味を想像するしかないのだけど、手間をかけてつくったドレッシングであえたサラダを食べるときの、贅沢な気持ちを思い出しました。しかも、サラダの材料は待ちに待ったトマトだもんね!全くのオリジナルではないにしても、レシピを選んで、洗練された一皿に仕立てた、いがらしさんのセンスに脱帽です。

いがらしさんのスープ畑、そろそろ春の植え付け準備を始めている頃かな。今、暮らしている家には、建物を囲むように路地みたいな庭があってね。念願の、敷地内に土がある環境になったので、この春から庭を「食べられる庭」にしていこうと思っています。採りたてが美味しいもの、少しずつ使いたいもの、手に入りにくいけど好きなものを植えるの。これまでの失敗も踏まえて、まずは小さなキッチン・ガーデンから始めてみるつもり。日当たりのいい南東の角地には、柑橘や強い光が必要な野菜やハーブを。東の半日陰の路地には、毎年勝手に生えてくるミントやミツバに加えて、シソやチャイブを追加。すでに庭木で混み合っている南のフェンス沿いにはブドウとブルーベリー、西向きの玄関脇にはオリーブなんてどうだろう、と夢はふくらみます。いつか、栃木と兵庫、それぞれの畑からの一皿が贈りあえるようになるといいな。気長に待っててね。

そうそう、庭と言えば、札幌で最初の最初に「春がきた」と感じるのは、4月に入ると実家の庭に生えてくる「ふきのとう」を食べるときなんだよね。食べた瞬間、全身の細胞が春仕様に切り替わっていくような気がするの。大げさに聞こえる?笑 そう考えると、関西にはすでに春がきているのに、札幌でのふきのとうみたいに、これを食べたら春、と体感を伴って言えるものは、まだ見つかってないんだよね。ただ「これは春のしるし」と、思えるようになったものはいくつかあって、そのひとつは「ウスイエンドウ」。関西の春の料理と言えば、と恋人が豆ごはんを炊いてくれた。この季節は何度つくるかわからない、と友人がパーティに豆ごはんを持ってきた。そういった季節と食材、そして人との記憶がいくつも重なっていくうちに、自分の中で実感が湧いてくるものなんだな、と思った。

先日、そんなウスイエンドウを、定番の豆ごはんをつくるつもりで買ってきたのだけど、急にワインを飲もうということになって、思いついたのがリゾット。ベーコン少々と玉ねぎを透明になるまで炒め、米とウスイエンドウを加えて、鶏ガラスープを少しずつ入れて炊き上げたら、パルミジャーノをたっぷり。自分らしくウスイエンドウを使えた料理を一口食べたら「あ、ようやく『私の』春のしるしになった」と嬉しくなったよ。そんな記念の一皿、いがらしさんが春の関西に来たときには、ぜひ一緒に食べて、喜びを分かち合いたいな。その頃には、ウスイエンドウは「食べられる庭」の一角に実ったりしてるだろうか。

画像1

「ウスイエンドウのリゾット」

それではどうぞ、召し上がれ。

みやう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?