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卯月の茶事(観桜の茶事)

4月10日、月曜日。花冷えの朝。

はじめての平日参加。都心への人の流れとは逆行して、東金の教室に向かう。電車の窓から見える里山に、山桜が見える。

卯月の茶事は、観桜の茶事。今回も、水屋(台所)を担当する。

汁は道明寺桜の合わせ味噌仕立て、吸口は、桜の花の塩漬け。
本来、茶事での汁の実は、旬のものをパッと使い、あまり手間をかけないもの。ただ、今回は観桜ということで、道明寺粉と大根おろしを合わせて、寒天寄せしたものを。桜の型で抜くはずだったが、うまく固まらず、矩形で。前日は葛寄せにしたそうだが、こちらもうまく固まらなかったそう。葛寄せの基本分量比は、水だし6:葛1:具材1。火にかけて30分以上は練る。先生は50分。恐らく、具材となる大根おろしと道明寺、どちらも水分が含まれているので、水分量の微調整がうまくとれなかったのかも。
先生はレシピを伝えるのではなく、基本を伝え、その微調整に影響を与える要素について説明する。とても、いい教え方だと思う。ただ、要素への感性にはばらつきがあるので、失敗もよくある。
味噌は、白味噌7に赤味噌3。白味噌が減り、赤味噌が増え、季節の移り変わりを感じる。
汁は、必ず一度温めて、漉しておく。一度温めておくことで、温まりやすくなり、漉しておくことで、日常の料理がもてなしの料理になる。

向付は桜鯛の桜の葉〆、うにびしおがけ、独活の花びらと山葵添え。
産卵前の明石の桜鯛は、今が最も美味な時。桜の葉の塩があるので、塩はふらない。前日から締めるなら、重石なし。当日なら重石をして1時間。うにびしおは、出汁で薄め、お茶にさわるような、強い味にはしない。独活の花びらは、曲線に剥くことで、風情がでる。盛りつけにあわせたサイズで。灰汁どめの酢水は3%くらい。薄いと変色してしまう。

煮物椀は、鮎並翡翠仕立て、桜蕎麦、独活菖蒲、木の芽添え。
鮎並は今が美味しい時期。どう料理しても美味しく、身も割れにくく、捌きやすい魚。小骨が多いので、骨切りする。皮一枚を残し、5ミリ間隔で包丁目を入れる。皮のところまで、刷毛で葛打ち。揚げた時にきちんと身が開くように。200度で、薄く色づくまで揚げる。
翡翠仕立てのグリンピースは、さやを剥いたら、すぐに塩水につけ、そのまま茹で、氷水にとり、しっかり冷やす。グリンピースと水だし1:1でミキサーかけ、シノワで漉す。
出汁は、温かいうちに塩を入れておく。客だし前に再度温めてから薄口醤油を入れ、翡翠地を入れて、味を整える。
温めた鮎並を入れ、結んだ桜蕎麦を右上から左下に流れるようにかけ、菖蒲をたてかけて、木の芽の先を左上にしてのせる。全ては、左に向かって伸びていくように。翡翠の汁を注いだ後、庭の桜の花びらを3枚散らす。

焼物はさわらの木の芽焼き。
酒、みりん、醤油を同量で合わせた幽庵地に叩き木の芽も少々いれて漬け込む。焼物は、とにかく焼きたてをすぐに持っていくことが大事。

預け鉢は、蓬の生麩、生若布と春野菜の炊き合わせ。
先生の畑からとってきたばかりの新たまねぎは、神々しいほどの美しさ。四つ切りに。筍は、縦に切り込みを入れて一気に剥く。重なりあった皮をお札を数えるように平にし、姫皮を刻む。
生若布はこの時期だけの美味。まな板に広げて、葉部分を切り落とし、軸と合わせて一本にし、切っていく。
帆立はたて塩で洗い、片栗粉でくず打ち、酒と塩を入れた湯で湯引きする。
煮汁は、淡口八方。八方出汁は、だし、みりん、薄口醤油が、12:1:1。そこに、出汁を2カップほど足して、薄くする。春野菜の風味を殺さないための調整。好みと素材の鮮度次第で、酒、砂糖を同量ずつ足すと味が立つ。
裏相伴のとき、先生が「味がぼけてる」と言う。生麩と若布の水分で煮汁が薄まったのではなかろうか。「今日の生麩ならば、ごま油で炒めてからのほうがいいわね」と。本当に料理は素材の状態次第だ。

進肴、春野菜の黒酢和え。
うど、うるい、筍の穂先、パプリカ。旨味には、蒸し鶏。黒酢、薄口、甘酢、出汁を同割りし、プチドリップ(寒天粉)か片栗粉でとろみづけ。気温に応じて、餡を冷たくしても、温かくしても。
あえものには、出汁とり最後の鰹節のしぼり汁を使う。にごりは出るが、旨味は一番強い。
野菜の飾り切りでもよく思うけれど、美しさにはこだわるけれど、美味しさも無駄にしない、というのが、徹底されている。

箸洗いは、さくらの萼。
この時期には、いろいろな花をストックしておくと良い。さっと茹でて、昆布〆し、塩漬けする。未来の自分のための仕事。

八寸は、白魚花筏と花びら百合根。
竹串を割いて細くして、白魚の目に通して、卵白を塗る。炉縁に花筏がない分、ハ寸で遊んでみた、との先生の言。道具になければ、料理で補う。花びら百合根は、食紅での色付け具合が難しい。

主菓子は、遠山桜金団(きんとん)花衣。
桜はまだ咲き誇っているので、葉桜の緑は加えず、白と薄紅のみで。求肥の基本は、白玉粉、水、砂糖で、1:2:2。白餡に求肥を1割まぜて練り上げ、練り切りに。金団漉しでそぼろに。黄味餡は白餡と黄味を1:1。乾燥を防ぐために砂糖を1割。黄味餡の餡玉に、そぼろを付けていく。
できあがりに対しては、そぼろを押し付けず、ふんわりと、と先生。含まれる空気が美味しさをつくる。つくった人によると、そぼろが乾燥しすぎて、うまくつかなかったらしい。造形も重視されるお菓子は、和も洋も難しい。裏相伴分は失敗してしまい、別の菓子に。

後座から席に入る。
花は活けられていない。外の桜を愛でるからか、と考える。

先生の点てる濃茶は相変わらず美味しい。中村藤吉本店の成光の昔。干菓子は、飴細工の花びらと、桜の葛菓子。本当に今日は桜づくし。

薄茶の間に、花が飾られていないのはどうしてでしょうか、と尋ねる。「これだけ料理に桜が使われていて、花も桜だとしつこいでしょう」。ただ、風炉先屏風のところに、さりげなく、夜桜の石板が置いてあった。

お茶入れは、雲華焼。白と墨のコントラストが、夜桜に呼応する。会が終わり、駅まで送って頂くために、外に出ると、まだ明るい。車窓からは、水の入った田んぼに茜色の空が映っている。

ようやく、確かに、春になった。

(2017-04-12投稿:Life on the table 旧ブログからの転載)

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