初めての買い付けで出合ったもの
4月のパリは冬のようだったけれど、気持ちよく晴れた日なんかはやっぱり最高だった。
でも、のんびりカフェラテをすすっているわけにはいかなかった。この旅の目的は買い付けだ。<前回の記事参照> パリでの4日間は、ひたすら蚤の市を巡り歩く。
どこにも行けなかったコロナ禍、ヨーロッパの蚤の市を見てまわるYouTube動画をよく観ていた。日本ではなかなか見かけないデザインのヴィンテージアクセサリーや経年変化の美しい食器。その一つひとつに何度も魅了されていた。
でも、初めて訪れた蚤の市は想像と違った。どちらかと言うとフリマっぽい。お洒落なマダムやムッシュが見当たらない…。業者風の人たちが、いろんなものがまとめて入っている段ボールを適当に広場に並べている。ディスプレイされた商品は僅かだった。無造作に商品(?)が放り込まれた大量の段ボール箱が、蚤の市の大部分を占めていた。
泥のついたティーカップ。欠けたお皿。蓋がない鍋…。
「良いかも」と手に取った商品たちは、だいたいこんな感じだ。うんうん唸りながら、取り出しては戻しを繰り返した。
だが、私も私であきらめがつかない。無心になって素敵センサーを立て続けた。
銀食器がまとめて入った箱の中から、小さなバターナイフを見つけた。これもすごく汚れていたが、柄の部分は花の模様で埋め尽くされていた。同じ模様をしている柄の両面には、僅かな違いがある。職人が手作業でつけた模様なのだと思う。
時を越えて蚤の市に運ばれたこのバターナイフを、”偶然”手にしたのが私だった。そんなことを考えながら、じっと眺めていると、何か運命めいたものを感じてしまうのはどうしてなのだろう。
初めての買い付けで初めての購入品になったこのバターナイフは、結局、売らずに私が使うことにした。
ショーウィンドウに並んだ、当たり前に素敵な物たち。それらを購入する時とは、まるで違う体験をすることがある。その体験には、商品と出合うまでの過程も含まれているように思う。初めての買い付けは、イメージしていたものとはかなり違うものだった。でもその道のりが、バターナイフとの出合いをより一層魅力的にする、物語のように思えてくるのだ。
バターナイフを使う度に、私は初めての買い付けの日のことを思い出している。4月のパリは、冬のように寒かった。
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