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パイロットから食品配達人へ 時勢の成すもの
「パイロットにとって一番必要な能力は何?」、
とスウェーデン人パイロットに訊ねたことがある。
そしてその返答も記憶している。
「飛行操作の優先順位を即座に判断して一瞬の遅れもなく実行できること」、が返答であった。
飛行機事故が起こる原因においては、機能不全(Malfunction)、悪天候なども多いが、人為的過誤に依るものもある。
飛行操作の優先順位を一つでも間違えてしまうことが生死を分けることもある。
私は飛行嫌いなので、自慢ではないが飛行機事故の原因に関しては多少蘊蓄がある。
「メーデー!飛行機事故の真実と真相」の動画シリーズはほとんど見た。
飛行嫌いなのにそのような動画を見ることは自虐行為ではないかと時々問われるが、これには正当な(?)理由がある。
これを見ていると、飛行機とはそう簡単には墜落しないことを再認識して安心する。
そしてたとえ機能不全が発生したとしても、最悪の状態を回避する能力を有するパイロットもいる。
例を挙げると、
スウェーデンにおいては、1991年にスカンジナビア航空が離陸のほぼ直後に墜落した。
12月27日のことであった。
アーランダ空港を離陸したMcDonnell Douglas MD-81の両エンジンの中に、主翼に残っていた氷と雪が入り込み、エンジンが故障した。
この事故の驚異的なことは、機体が三体に割れるほどの大事故であったに拘わらず、(重傷人は出たが)クルーを含む129人が全員生還したことであった。
一般的にはゴッテュローラの奇跡として知られているが、時期がクリスマス時期であったこともあり、クリスマスの奇跡という呼びかたにも馴染みがある。
私がスウェーデンに移住する前に起きた事故であったに拘わらず未だにレジェンドになっている。
この出来事は私に、パイロット達が受けている厳しい訓練と、強靭な精神力および彼らの高度な飛行能力を再認識させた。
パイロットになるためには、おそらくご存知のように身長、健康等の制限も厳しい。
コックピットにフィットするためには低すぎても高すぎてもいけない。
スカンジナビア航空の場合、いずれかの北欧語、および英語を流暢に話せなければならない。
さらに、彼らは頻繁にシミュレーション試験を受けなければならない。
スタンバイの時には、即座に空港に向かえるようにつねに準備をしておかなければならない。
当然、その数時間前はアルコール飲料の摂取も禁じられている。
その他にも、パイロットに求められる条件は数多い。
世界が他国への境界を閉ざしている現在の時勢では、航空業界においても、多くの人達が遺憾を覚えつつも、若く健康であっても仕事を離れざるを得なくなっている。
英国航空の某パイロットがスーパーマーケットの食品配達員に転向したことがニュースになっていた。
自粛、あるいは高齢で外出を控えている人達に食品を配達する立派な業務である。
何故それがニュースになるのか、理解出来ると言えば理解出来るし、出来ないと言えば出来ない。
しかし彼は、それを一時的な仕事と考えているのかは疑問である。
ピアノも外科医の技術等も多少ブランクがあると取り戻すことが難しいと聞く。
パイロットの熟練度を語る時には頻繁に耳にするバロメーターは総飛行時間である。パイロット達が地上で仕事をしている間にも総飛行時間にブランクが生じている。
冒頭のパイロットはこのキャリアに見切りをつけ、完全なる人生航路の転向を試みている。
弁護士になるための準備を始めたのだ。
そして彼はパイロットのキャリアを捨てたことを後悔してはいない。
しかし、時代が変わってふたたび大空へ羽ばたける日を心待ちにしているパイロット達も多いであろう。
その日が果たして訪れるか否かは現段階では誰にもわからない。
しかし、ふたたび機上の職場に復帰する見込みが少しでもあるのであれば、高度な飛行技術を錆びつかせないようにして努力をして頂きたい。
これが簡単に成就出来ない事であることは充分承知しているが、希望を述べさせていただければ、せめてシミュレーションテスト等だけでも定期的に、会社から受けさせて頂きたいものである。
飛行嫌いな私が飛行機にかろうじて乗れるのは、機能不全等が生じた場合でも無事に機体を着陸させられる熟練パイロットが存在することを知っているからである。
ご訪問いただきありがとうございました。
東北地震の余震が早くおさまると良いのですが。皆さま、火の元には十分お気を付け下さい。