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華麗なる職業 (海外就職・海外不動産)
職業に貴賤無しという言葉はあるが、世間には憧憬される職種も存在する。
愛すべき存在になる時もあるが、惑わしい存在になることもある華麗な職業に関して今回は綴らせて頂きたい。北欧の事情である。
それは不動産仲介業者である。
すなわち、不動産売買を考慮していない時期には、チラシ広告も、掛かってくる営業の電話も惑わしく感じられる。
しかし不動産売買を考慮している時には、仲介者の電話を日々待ちわびることになる。担当者と何度も打ち合わせをして懇ろになると、その背広にこびりついている歯磨き粉でさえ愛嬌に感じられる。
北欧においては美男美女(脚注)を誇大宣伝するようなテレビ番組があるが、不動産業仲介業の世界は、まさにその世界を実社会で実践しているような錯覚を受けることもある。
不動産仲介者の女性は若く華やかである場合が多く、男性も若く、鍛えられた体躯を持ち、腕のあたりにはローレックス、あるいはブライトリングの腕時計をさりげなくチラつかせている。
自分の懐が潤っていることをアピールすることは必要不可欠なのであろう、「自分は敏腕の仲介者なので、貴方の物件を委託して頂ければ高額で売却出来ますよ」、という暗黙のアピールなのでもあろう。
スウェーデンにおいては、不動産売却を考慮している場合、大抵の場合、数件の不動産業者に連絡して見積もりを頂く。
以前住んでいたマンションの売却を考慮していた時に、私は三社の不動産業者に連絡し、三人の仲介業者に足を運んでいただいた。
一人目 若い金髪長髪女性
開口一番「私、何歳ぐらいに見える?」、と訊ねて来た。
「さあ、25歳ぐらいですか?」と適当に応対すると、「やっぱりね。私実は32歳なんだけど当てられた人は1人もいないの」、と答える。
この女性は私のマンションに何をしに来たのか、と訝った。
私の以前住んでいたマンションの天井には壁画があった。過去に壁画家が住んでいたからである。そして、その壁画は私の自慢でもあった。
女性仲介業者はその壁画を指して言った。
「天井、壁、全て白に塗り直しなさい。白壁のマンションが一番売却しやすいから」
二人目 上から目線のような印象を与える若い長身の男性
私は一目で相性の違い(嫌悪感)を感じた。
私のマンションは1910年築であったため、ところどころにガタが来ていた。私は青年に早く帰って欲しかったため、「やっぱりこのアパートはリノベーションをしてから売却することにします」、と言った。
「リノベーションをしてもしなくても最終的にはあまり価格に違いが出ないこともありますよ」、と青年は説得を試みた。この青年からはこの後も数度連絡があった「決心は付きましたか?いつから手続きを始めましょうか」、と。
空気を読めないという点が寄与して、青年の株はさらに下がった。
三人目 50歳ぐらいの外見はごく普通の男性。
渋滞に巻き込まれたと言う理由で一時間ほど遅れてきた。彼は特に嫌悪感も好感も残さなかったが、見積もりを出すのも忘れてしまったようだ。口頭による見積額は三人の中で一番多かった。
三人の見積もりの間にはそれぞれ百万円の開きがあった。一人目の「私、何歳に見える?」女性の見積もりが一番低かった。
ここでいう見積もり価格と言うものは、単なる目安価格で、競売の結果によっては目安よりも一千万低くなることもあれば、運が良ければ高くなることもある。(スウェーデンは中古物件は大抵の場合は競売)
大抵の人は自分の不動産は高額にて売却することを希望している。そこで花形不動産仲介者の中にも更にも花形が生まれる。
私の住む地区では、ある女性のポスターを要所要所で見掛ける。あたかもスター並みの扱いである。花形中花形の不動産仲介者、すなわち営業成績がトップの女性のポスターである。
一般論と異なる点は、彼女の年齢は65歳ほどであることである。
彼女には、一度、不動産公開日にお会いしたことがある。華奢で可愛らしく、ゴルフ焼けをして健康的な雰囲気の方であった。彼女は隣の島(ストックホルム中心は島から成る)に大邸宅を構えていた。そして冬は地中海沿いにゴルフを打ちに行っているのであろう。典型的セレブライフである。
日本で放送されていた人気ドラマの話ではないが、「私に売れない家はない」、という自信をも醸し出していた。
しかし花形が活躍する一方、底辺で苦労している不動産仲介者も多く存在する。一日中歩き廻っても空振りで終わる人達も多くいる。結局前述の三人には売却は委託しなかったため、彼らには無駄足を運んでいただいたことになる。
スウェーデンにおいては、少なくとも数年前は、不動産仲介者は資格を取得してから一年以内に最低でも一つ物件を売却しなければ免許は無効になるという厳格な規定があった。
世間には狐もいれば狸もいる。
ある知人の知人は不動産仲介者にあることを依頼した。
売却を容易にするために彼の家を(不動産仲介者の負担にて)リフォームすることであった。そしてその費用は、彼の家が希望価格で売れた場合に限り払い戻す、という条件を契約書に明記させた。
さて、いざ家のリフォームが終わった後、彼は、家を眺めてこう言った。
「なんて美しい家なんだ。やっぱり売却することは止めることにした、ここに住み続けるよ」
リフォーム費用は、売却した場合に限り払い戻すという条件であったため、その不動産仲介者は一クローナの払い戻しも受けられず地団駄を踏んだ。
理不尽な取引ではあったが契約は契約である。
私は何でも石橋を叩いて渡るタイプである。景気に左右される職業は回避し、また、狐にも狸にも成り得ないので、堅気で比較的(かなり)地味な職を選択した。
しかし、安定はしているが単調な職に長年就いていると、たまには狐か狸になって職業上で冒険をしてみたいという願望も無きにしも非ず。
ご訪問いただきありがとうございました。
美男美女と言う表現は私自身は通常使いません。美しさは内面からにじみ出るものだと思って居ります。ここで言及させて頂いたのは、世間的にそのような評価をされている人達という意味です。
紹介させていただいた写真はストックホルム市内の高級住宅地からのものでした。
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