新しい鼓動が聞こえる
車を降りると梅雨のじめっとした湿った匂いに混じり、機械油の匂いが強く感じられる。そして機械が動く音。その工場の入り口、半外みたいな場所に設置されたテーブルは事務的な打ち合わせ用というより、キャンプの夜、食事後にみんなが集ってウノを楽しむような楽しさそのものを共有する雰囲気のをイメージさせる。そして「今煎れますね」とコーヒーの良い香り。ヤングキャッスルのそれとは違う豆、焙煎の考え方によってもたらされる、少し甘いバニラのような香りだ。
もちろんこうした町工場に用もないのに、僕らが足を運ぶことはまずない。だから今夜仕事にここを訪ねるのにはもちろん目的がある。けれど今夜そこに集った人たちから発せられる言葉やアイデア、またはトピックスはどれも魅力的で、「さっさと目的の話だけしましょう」と言ったような、目的の話だけが終わったらさっさと帰るというようなものであるはずもなく、主題から副題へ、脱線から復旧へ、そして新しい想像の飛躍へと、まるでそれは緩やかで走りやすいスラロームコースのようなテンポの良い淀みない速度の会話が楽しい。そしてそうした会話が繰り返される中での意思疎通から合意というプロセスは、その場にいる人達の頭の回転の速さとそれぞれの異なった分野からもたらされるウィットにより凄まじく早く、みるみるうちに別々だった話が繋がっていく。まさにソフトとハードが繋がる瞬間。なんて素晴らしい化学反応の場なんだろうと心より思った。
ソフト側がイメージし頭に思い描く物を、ハードを緻密かつ迅速に形にする人達がレスポンスに応えるようにイメージしていく。まさに音楽で言えばコール&レスポンスやジャムのような世界で、その想像する側と形にする側の二つのイメージをいかに、使われいるフィールドやストーリーを読み解き共有していくプロセスはまさに新しい人、事、物が繋がり、生まれるそのものなんだろう。
ここからどんな物が生み出され、具体的などこまでが形になるのかはまだわからない。けれどそれが何らかの完成をみるのであれば、そうしたアイテムが四方八方どんな分野に繋がり、その先の広いフィールドの色や景色を変えていくのだろう。そう思うだけでもなんて素晴らしい、人と人、アイデアと技術、そして生み出す楽しさが詰まったそんな出会いでありミーティングなんだろう。この目の前にいる人を通し感じる楽しさ、探究、必要とされている感じこそ、僕が自分の有り様に素晴らしい充足感を感じる時だと思う。
今夜いただいた素晴らしい時に感謝しかない。僕はどんな役割をその中で果たすのだろう。本当に楽しみである。