坂口安吾たち
久しぶりに、帰宅途中の電車で足止めを食らってしまった。乗り換えの駅で人だかりができている。なにかトラブルがあったらしい。振り替え輸送がどうたらという放送アナウンスを聞いて迷っていたら、「間も無く再開します」という駅員さんの声が聞こえた。ラッキー。
とはいえ、すごい人だかり。すでに駅にいたのは各駅停車でもう満杯。次の急行待ちの人たちでごった返している。ふむ。
反対方向の電車を見ると空いている。私が利用する乗り換え駅の次は終点だから、その電車に乗って終点からまた戻ろう。少し帰るのが遅くなってもいいや。座って帰れるし。折り返して、この電車が急行になるのかわからないけど、そのときはそのときでいいや。
坂口安吾の「白痴」という小説がある。この作品の好きなところは、空襲から逃げるのに風下に逃げていく民衆の波を見た主人公たちが、それに逆らって風上に逃げて助かる、というクライマックス。無頼の男、坂口安吾。
私のいまの気分は坂口安吾。いまこの瞬間にこの車両にいる人たちもそうなのか。終点に着く。誰も降りない。意外と坂口安吾はたくさんいる。車内の案内モニターを見たら「急行」だった。これまたラッキー。
新潟出身でなければ、坂口安吾の作品に触れることはなかったと思う。ありがとう、坂口パイセン。
終点が始発になって、普段の乗り換え駅に着くと、プラットホームはガラガラだった。私たちが乗った車両がたどり着く前の車両でギュウギュウ詰めで帰ったのだろうか。
ギュウギュウ詰めの中で、出来るだけ早く帰るのも、一駅分遠回りして座って帰るのも、長い人生の一瞬でしかない。よね。