僕のafter.311 《5》運命の再会は突然に
自宅待機中、僕はテレビにかじりつきだった。少しでも、地元の情報が欲しかった。しかし、メディアが報じるのは石巻や気仙沼など津波被害のことばかり。原発はどうした!福島はどうなった!と1人で憤っていた。
震災直後に買占めがあり、お店のものが一斉になくなったが、数日もすると少しずつ品揃えが戻ってきた。水などはまだまだ買えなかったけれど。一日中自宅でテレビを見すぎていて、少し気晴らしがしたくなったので、買い物に出ることにした。
歩いて10分くらいのところにショッピングモールがあったので、そこまでてくてく歩いて行った。このときは放射能が埼玉まで降ってきているかどうかなんてことは全く意識していなかった。
買い物の帰り道、ここを渡ったらもう自宅マンションだという交差点で、自転車を押す女性とすれ違った。すれ違った瞬間、目を見開いて思いっきり振り向いてしまった。自転車の相手も振り向いていて、目が合った。交差点の真ん中で2人立ち止まる。時間が止まったかのようだ。ドラマ「東京ラブストーリー」の主題歌、小田和正の「ラブストーリーは突然に」が流れたような気がした。
青信号の点滅でふと我に返り、
「とりあえず渡ろう」
と彼女を促す。
埼玉の北戸田という超絶マイナーな駅で出会ってしまったのは、地元、南相馬で高校時代に付き合っていた元カノだった。同じ高校の先輩後輩で、2年半ほど付き合い、大学進学で遠恋になって別れた。僕は女々しくも、彼女のことをかなり引きずってしまった記憶がある。彼女と別れてから暫く新しい恋には踏み切れなかったし、別な子と付き合っていたときですら、彼女の影がチラついていたのだ。
彼女と別れてからもう何年経っただろうか。ちょうど10年?もはや連絡先すら知らない。震災から数日後に再会するなんてどんな運命のイタズラなのだろう。
突然の再会にびっくりしたものの、こんな時に嬉しい!とか久しぶり!とかテンションが上がるわけもなく、とにかく震災についての話をした。正直、地元のことがわからずに僕は心細かった。彼女も同じだと言った。交差点で立ち話も何なので、もし時間があるなら今夜ゆっくり話そうと彼女を誘った。二つ返事で彼女は了解してくれた。お互い知っている顔に会えて、少しホッとしたのは間違いない。しかも地元の人間で交際関係にあった相手なのだ。
夜、北戸田の焼き鳥屋でもう1度会うことになり、震災後初めて僕の気持ちは少しだけ高揚した。