『パレードへようこそ』(2014)
監督:マシュー・ウウォーカス
脚本:スティーブン・ペレスフォード
主演:ビル・ナイ
映画を通してマイノリティを知る
今回扱う映画はマイノリティ同士の結束を強めた映画だ。しかし私は炭坑夫でもなければ、セクシュアルマイノリティでもない。さらにどちらに対しても専門家というわけではない。では、なぜマジョリティの立場に立つ私がこの映画を見ようと決めたのか。それをまずは伝えたいと思う。
人間は知らないものに対して恐怖や敵意を向けてしまう。それは人間の持つ本能だ。だからこそ名前をつけて、それらを定義・分類していくことで安心し、理解しようとしてきた。そうやって関心を向けて知っていく過程で、誤解や偏見が生まれるのかもしれない。だが、そんなトライアンドエラーを繰り返して人間は進歩してきた。
そして、それを知る手段として機能してきた一つの手段が映画だと思う。映画は記録媒体として19世紀の終わりから今にかけて、作為と自然の間で記録されてきたものをいくつか紹介する。
例えば、現代でもなおマイノリティであるトランスジェンダーの人々が、ハリウッド映画でどのように描かれてきたか、アーカイブを振り返ると共に、彼らを代表するオピニオンリーダーやクリエイターらが分析。それぞれの意見や思いを語る。『トランスジェンダーとハリウッド』では、まさにその歴史を網羅的に観察することができる。
1977年カリフォルニア州サンフランシスコ市の市会議員に当選し、同国で初めて選挙で選ばれたゲイを公表していた公職者となるミルクを題材にした『MILK』は、歴史的な瞬間をクオリティの高い創作物として記録した。しかし、今では異性愛者が同性愛者を演じていることに批判が生まれるかもしれない。
日本においても、尊敬する男性上司から愛の告白を受ける男性社員の恋愛模様を描く『おっさんずラブ』は、社会現象を巻き起こすと共に、BLの文化を明るみにした。ここにも当事者は不在だったかもしれない。
このように、映画が必ずしも当事者のために作られたものではないにしろ、その存在を知るための手段の一つとしては十分に機能している。そもそも知る人が増えないと認知度も上がらず、民主主義の社会では黙殺されてしまう。また、映像作品に対する声をマジョリティが上げることによって、当事者から「それは良い作品だけど、実は本当は違うんだ」と声が上がり、社会の中で対話が生まれる。例えば、炎上商法はあまり感心しないが、炎上が流行ったことで、社会的にタブーな態度というのはかなり明るみになったともいえる。まずは何が良いか悪いかではなくて、互いに声を上げることが必要だと思う。だからこそ、この分野ではおそらくマジョリティの私が、マイノリティを題材にした映画について声を上げようと思う。
偏見と数字
本編のオープニングとクライマックスを飾るプライドパレードは、ニューヨークで1969年6月に起こったストーンウォール事件の1年後に始まったと言われている。映画の舞台はイギリスの1984年と85年なのでその15年後にあたるが、セクシュアルマイノリティに偏見を持ち差別する人がいることは変わっていない。しかし、プライドパレードが海外でも続いているということは、その存在は以前よりも社会に受け入れられていると考えたい。
「あんたらの5人に1人は(セクシュアルマイノリティが)いる」と劇中で語られるが、日本はどうなのだろうか。2019年の調査では、8.2%の人がLGBTQに該当するそうだ。5人に1人とは言えないが、年々増加傾向にあることを思えば、5人に1人となることもそう遠くないことだろう。おそらく社会的認知度があがるにつれ、数字は増えてくる。
小物と文化、混ざり合うこと
映画にはもちろん小物や美術も大事なものである。主人公を象徴する色や文化が取り組まれていて、そこの説得力や嘘から映画を読み解くことも楽しい。今回の映画もそういったものかもしれないが、イギリスファッションの好きな私にとって、とにかくこの映画で出てくる小物やファッションが好みに突き刺さる。
まず、冒頭やパーティシーンで出てくるコップがホーンジーというイギリスの食器ブランドである。1949年に設立されて2000年には閉鎖してしまったブランドだがまだ蚤の市ではよく見かけ、かくいう私も持っている。
さらに、お菓子の専門校に通うジョーがラブパレードへ向かう時に履いている靴はジャーマントレーナーだ。日本やマルジェラのリプロダクトが有名な旧西ドイツ軍が70~80年代に生産されたもので、80年代リバイバルが来ている今、この靴が見れてテンションが上がってしまった。
さらにファッションでいえば、マイクとマークのファッションは興味深い。マイクはメガネをかけてシャツやカーディガンを着て、イギリスの紳士らしいスタイルだ。一方でマークは革ジャンを着たロックスタイル。イギリスは伝統的にどちらの文化も根付いている。この一見、相反する文化が合間見えているのはファッションだけではないはずだ。この映画は、一見無関係に見えるセクシュアルマイノリティと炭坑夫が支え合う映画だ。LGSMは共通の敵を見つけた炭坑夫たちを支援し、炭坑夫はLGSMに恩返しをする。こんなふうに全く違ったものが混ざり合う様子は非常に興味深く、そして優しい気持ちになる。
引用
公式HP
(http://www.cetera.co.jp/pride/story.html)
日本のLGBTQ人口(https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/document/4.html)
Ha'ndle
(https://handle-marche.com/antique/choose/explanation/howto-81/)