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コミュニケーションの心理学6 好意の返報性
今まで何とも思っていなかった人から好意を伝えられて、自分もだんだんその人のことが好きなる――これは好意の返報性という心の現象です。
1.好意の返報性とは
人は、相手から好意や親切を受け取ったときに、与えられたものと同じくらい何らかの形でお返しをしたくなる傾向があります。
この心理的な現象を、好意の返報性といいます。
例えば、お土産やお裾分けをもらうと、お返しをしたくなったりします。試食をすると、その商品を購入したくなったりします。最初は見るだけのつもりが、丁寧に接客してもらっているうちに、おすすめの商品を購入したくなったりします。
このように、好意の返報性は、日常生活だけでなく、マーケティングや営業活動など仕事やビジネスの場面でも多く活用されています。また、恋愛の場面でも役立つ有効なテクニックです。
2.好意の返報性の活用方法
①自分からあいさつする
コミュニケーションの始まりはあいさつです。ですから、自分から気持ちの良いあいさつを交わすことを心がけましょう。そうすることで、あいさつが返ってくるだけでなく、相手も次第にあなたのことをぞんざいに扱うことが難しくなっていきます。
②小さな親切を積み重ねる
「情けは人のためならず」という言葉があります。これは、「情けをかけることは人のためにならない」と誤用されることがありますが、本来は「人に親切にすることは、他人のためだけでなく、めぐりめぐって自分に返ってくる」という意味です。
日頃から自分ができることで人に親切に接し、小さな親切を積み重ねることによって、大事なお願いを快く引き受けてもらえたり、いざというときに助けてもらえたりすることにつながります。
③ドア・インザ・フェイス
ビジネスでは、ドア・インザ・フェイスというテックニックがあります。ドア・インザ・フェイスは譲歩的依頼法とも呼ばれ、返報性の原理をもとにしています。
これは、最初に断られるとわかっているような大きなお願いをして、一度断られてから、その後に本命のお願いをするという方法です。相手は一度断っているため、次の提案で譲歩してもらったと感じ、できる範囲で自分も譲歩しなくてはという心理が働きます。
例えば、商談の場面では、まず「5年契約がお得でおススメです」と提案して、「まだ使っていないうちから5年契約は長い」と断られた後で、「それでしたら、まずお試しで1年だけ使ってみませんか?」と提案した方が、成約につながりやすいということがあります。
これが恋愛の場面なら、初めての告白には勇気がいるものです。まだ信頼関係ができていないうちに告白しても、成功する可能性は高くはありません。しかし、「付き合ってください」と告白して、一度断られた後に、「友だちからお願いします」とお願いすると、受け入れてもらえる可能性が高まります。そして、そこから少しずつ信頼を深めていくことができます。
3.好意の返報性の注意点
好意の返報性を効果的に活用するためには、まず自分から与えることが大切です。
そして、見返りを求めないことが重要です。好意の返報性は、「見返りなく自分のためにしてくれている」と相手が感じなければ逆効果です。
お返しは忘れた頃にやってきます。すぐにお返しを期待するのではなく、「忘れた頃に戻って来るかもしれない」くらいの気持ちで、気軽に自分からあいさつしたり、自分ができることで相手にどんどん親切にしたりしてみましょう。
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まとめ
このように、人の心には、何かをしてもらったら、次は自分が何かを返したくなるという傾向があります。仕事や恋愛以外でも、友だちに対して好意を伝えると仲良くなりやすくなります。
また、好意の返報性は、「アロンソンの不貞の法則」と組み合わせると効果的です。
知り合ってから間もないうちに、仲良くなりたい人に好意を伝えたり、親切にしたりするといいでしょう。相手の良いところを心から褒めたり、自分ができることで親切に接したりしてみましょう。
「見返りを求めずに、与えられるものは何ですか?」