海の鳥・空の魚
『海の鳥・空の魚』
一度何の引っかかりもなくスルッと読んで、しばらく経って「ん?」となるタイトルである。魚は海にいて、鳥は空にいるものだ。なぜ逆なのだろう。
これは鷺沢萠の短編集である。短編というのが本当に短編で、サクッと読みやすい長さと文章である。それぞれの登場人物たちが、失敗したり、落ち込んだり、上手くいかなかったりしても最後にはまた前を向いて、顔を上げて進んでいくような物語が集められている。昨今たびたび話題にあがる“生きづらさ”という存在を、鷺沢萠は21世紀に入るよりも前から知っていたようである。人と同じようにできない、なぜ自分だけこうなのか、不器用とはまた違うどうにもならない生きづらさが私たちの生きる社会にはある。
すべての短編を読み終え、あとがきにあたる部分を読んだとき、私はハッとした。この不思議なタイトル『海の鳥・空の魚』について述べられているのだが、そのあまりにも美しく、優しい背景に私は涙せずにはいられなかった。ここに内容を記すか迷ったが、ぜひ短編を読み終えてからその由来にふれてほしく、またタダで引用するようでなんだか申し訳ないのでここには書かない。魚は海に、鳥は空にいるもの。果たしてすべての魚と鳥がそうだろうか?そう決めつけていいのだろうか?まさに今の時代にこそ求められている書籍だと思う。
著者がすでに亡くなって久しいこともあり、新刊はほぼないうえに図書館にもあったりなかったりという状態だが、私は鷺沢萠という作家の書籍をこの時代だからこそ広く読まれてほしい。エッセイや小説に勇気づけられる人が多くいるのではないかと思っている。