【詩】逆光花火

「海を見に行こう」
花火大会の日に君はそう言った
喧騒から離れ
僕らは列車に乗る
花火を背に
静かな方へ
誰もいない世界へ
僕と小さな金魚と
逆光で暗くなっている君と
その顔はきっと笑っていると思えた

波は僕たちが来るのを
予期していなかったように
呼吸をやめていた
神を欺いたって
子どもみたいに笑い合った

灰青、渚、斜めに続く
君が僕より少し前に立つ
顔はちょっとしか見えないから
瞳に僕が写ってるかわからない
蝉の鳴き声はうみねこの鳴き声に
花火の音は君の心臓の音に
君は一歩ずつ前に
僕は金魚をどうしようかと考えて
砂の上で立ち尽くす

「もう帰らないか」
君は進む
「その先には何もないよ」
君も藍色になる
「置いていかないでくれ」
僕の足が動く
君が振り返る
大きな波が来る
魚が飛び跳ねる
時が止まる
世界が反転して
水平線の上で花火が手を広げる
逆光で君の顔もわからなくなる
絵画みたいなそれを
もう君と呼ぶことはできなかった

僕はこれだけでよかったのに
今は
金魚の飛び跳ねる音だけが聞こえる

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