#10 灰色の空に何があるというのか

2019年7月15日。

あの日、私が見た私とアメリカ人の彼の過去世。それは心臓をえぐるような後悔の念を伴うものだった。

愛する人を手放さなければならない後悔。
何もできなかった後悔。
何もしてあげられなかった後悔。
そして、自分ではどうすることもなかった「身分の差」。

過去世を見たことは、間違いなく私の人生を変える出来事だった。人生だけでなく、ものの見方、考え方、捉え方、すべてを変えてしまうほど強力だった。

今世をどうやって生きて行けばいいか、生まれてきた目的は何なのかと考えない日はなくなったからだ。

何気なく聴いていた曲の歌詞に惹かれたり、急に大きな手に握られているような感覚に包まれたりと、あの日から不思議なことが次々と起こった。

今まで閉ざされていた扉が急に開いて、そこからさまざまな神秘がこちら側になだれ込んでくるかのような感覚だ。

あぁ、それにしても暑い。もう梅雨明けしたのだろうか。夕方6時を回るというのにまだ溶けそうなくらいだ。

私は麦茶を一気に飲み干して、窓からまぶしい夕陽に照らされた庭を眺めていた。
このマンションに決めたのは窓から見える景色が好きだったからだ。

あの時も旦那との離婚は意識していたんだよな。なのにどうして踏み出せなかったのだろう。庭を見るたびにそんなことを思う。

ご飯を食べて、お風呂に入って、寝るときはリラックスできる音楽を聴きながら寝るのがこの頃の習慣だ。

「さてと、、、今日は何を聴こうかな。」

私は独り言を言いながら、スマホでSpotifyのプレイリストをスクロールしていく。たまたま目に留まったピアノプレイリストを再生した。

眠りにつくかつかないかという頃、ピアノの音を聞きながら空の画が浮かんだ。どこまでも続く広い空。真上は青空なのだが、遠く向こうは曇っている。

女の子が私の隣で空をしきりに気にしている。よほど空が好きなのか、何かを心配しているのか、私には見向きもせずじっと空を眺めている。

私はこの時の女の子が過去世の彼だとすぐにわかった。

そのうち、私の頭の中の映像は変わって、厩舎の中でびしょ濡れになっている彼女と私がいる。

あぁ。この時だ。二人はこの時恋に落ちたのだ。

まるでドラマでも見ているような感覚なのに、当事者の感情も伝わってくる不思議。

私はぱっと目を開けて現実に戻った。いや、どちらが現実なのか。

一瞬時間が止まったかのような感覚に身を包まれる。ピアノの音がどこから流れているのか判断がつかず、しばらくしてスマホが視界に入った。そうか、こっちが現実だ。

過去世の後悔の念が、開かなかった扉を開く「鍵」だったごとく、ピアノの音が次の記憶を呼び起こしたのだろう。ピアノの曲なんて普段聴かない私は、これもきっと偶然ではないのだろう、そう思った。

扇風機がけなげに首を振っている。自分の仕事を必死にアピールしているかのようだ。なんだか空気よりも軽くなった気分の私は、扇風機の人工的なその風に今日だけはかき消されてしまいそうだった。

つづく・・・

このお話はマガジンで1から通しで見ることができます。読んでいただけたらなおのこと嬉しいです♥


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