【詩】交わせない言葉
君は初めましてだね
小さな手を合わせて隣の大人の真似をする
それが何を意味しているのか、君はまだ分からない
君の言葉を聴けるのはもう少し先のようだ
・・・
少し背が伸びた君
日常のあれこれ、喜怒哀楽をひとしきり私に話す
満足した後は願い事を言葉にする
残念ながら、その願い事を叶えてあげることはできない
でも君が私のことを忘れない限り、私は君の言葉を聴いてあげることはできる
・・・
もうすっかり大きくなった君
いつからだろうか
君は自分の願い事を言葉にするよりも、平和を祈る時間が増えた
私に大きな力がないことを君は分かっているのだろう
それでも君が忘れずに来てくれるから私は私でいられる
・・・
君は君によく似た小さな子と一緒に私のもとへ来た
君は相変わらず平和を祈り
自分の願い事は言葉にしない
君によく似た小さな子は君の真似をしている
前にも見た微笑ましい光景
・・・
腰が曲がり杖をつく君
いつものように平和を祈る
だが珍しく今日は言葉を続ける
体が言うことを聞かず、ここにはもう来れそうもないこと
十分である
今日まで私を忘れずにいてくれた君にこれ以上何を望むというのか
私がすべきことは分かっている
君が私のもとへ来れなくとも、私はこの平和を見守り続けたくさんの言葉を聴き続ける
それが君の祈りなのだから
門の前で君は一礼する
「いつまでも待っているよ」と私は言葉を発する
それ以来君の姿を見ることはなかった
・・・
春になり緑が芽吹く
小さな手を合わせて隣の大人の真似をする
言葉はまだない
私の言葉は誰にも聞こえないのだろう
私が触れても誰も気付かないのだろう
それでも構わない
私は合わさった小さな手を包み「久しぶり」と言葉にする