記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【映画感想・考察】リバー、流れないでよ

つい先日、「リバー、流れないでよ」という映画を視聴いたしました(2024年11月現在、Amazon Primeでも視聴可能です)。今回は本映画の感想と疑問に対する考察について執筆してまいります。
※以降の内容はネタバレを含みます

物語のあらすじ

舞台は冬の京都・貴船、そこで営業する老舗料理旅館「ふじや」。
原稿の締め切りに追われる宿泊中の作家、友人同士の旅行でふじやを訪れ料理を食べている男性二人、ふじやに勤務する女将・番頭・仲居・料理人、それぞれの情景描写から物語は始まります。

仲居のミコトと番頭は女将に頼まれ、食事の片づけに向かいます。ミコトは旅館の裏を流れる川の前で少し佇んだ後、仕事に戻ります。しかし、気付くとそこは今さっき佇んでいた川の前。そう、記憶を維持したまま時間が巻き戻っているのです。

正確に巻き戻る2分間、精神をすり減らし奇行に走る者・口論を始める者など混乱が大きくなっていく中、ミコトは何を想っているのか。そして、どのように物語は進んでいくのか。

感想

劇中の登場人物は、各人それぞれが日常の中で自分自身或いは周囲の人に対し”揺らぎ”を抱えて生きていました。何故”揺らぎ”を抱えたままなのか。それは、各々が”揺らぎ”と向き合い決着をつける覚悟が出来ていなかったからです。

本映画の興味深い所は、時の進まない2分間で彼らは”揺らぎ”と向き合うことで前へ進み出し、タイムループを抜けた後は各々が決着をつけた未来へ向かって時と共に歩み始める点です。

日常の中で「何となくモヤモヤする、でも言葉・行動にはできずにいる」ということはよくあると思います。そして、結局何もできないまま時間だけが経過していく。しかしそれでは、時が止まっているのと何ら変わりありません。私たちが時を歩むのに重要なことは、”揺らぎ”に向き合い決着をつけることなのかもしれません。
つまるところ、今この瞬間を生きることが出来るかはすべて自分自身というわけです。

疑問と考察

疑問1. 雪

時が巻き戻るごとに、周囲の景色がコロコロ変わっておりました。具体的には雪が積もっているか否かです。劇中では「タイムループの影響で世界線がズレているため」と言及されていました。しかし、私は雪が積もっている理由は別の何かとリンクしているように思えて仕方ありません。

私が決定的だと思ったのは以下2種類の連続したタイムループのターンです。
①逃避行とその終焉
ターン1. 雪が降り積もっている
ミコトが「時が止まって欲しい(≒川の流れが止まって欲しい)と祈ったからタイムループが起きているのだと思う」とタクに伝えたところ、それを同僚の仲居(チノ)に聞かれる。自身が原因であると周囲にバレた時、混乱している今の状況では危ないと察知し、タクとミコトが逃避行のターンを繰り返す。

補足:タクはミコトが好意を抱いている見習いの料理人で、フランスに渡り修行しようと考えてます

ターン2. 雪が降り積もっていない
逃避行のターンを繰り返した後、次はどこに逃げようかとタクとミコトが思案していると、山から銃声が聞こえる。タクが山の方へ様子を見に行っている中、宿泊客が飛び降り自殺を図りミコトのすぐ横に落下してくる。いよいよこのままでは不味いとなり、タイムループの解除をしなければという心持になる。

②タイムループ脱出に近付くが・・・
ターン1. 雪が降り積もっていない
タイムループの原因が分かり、原因の場所へ向かう。

ターン2. 雪が降り積もっている
解決策が分かり、そのシミュレーションを行おうとするが、ミコトはタイムループ始点の川前に佇む。タクに声を掛けられ動き出すが、準備はせずタクとの会話でターンを消費。

ターン3. 雪が降り積もっていない
解決策を実行しタイムループから脱出するターン。

2種類ともミコトに関連する内容ですが、それで良いのです。何故ならこの物語は概ねミコト目線で話が進んでいるからです。そうなると、ミコトの心情と雪がリンクしているという線が濃厚であると考えられます。では、どういった心情と雪がリンクしているのか、その答えは上述2種の連続したターンから読み取れると私は考えます。

大きく分けると、2種ともタクとの接点があるシーンでは雪が降り積もっており、タクとの接点がないシーンでは雪が降り積もっていません(厳密に言うとミコトとタクの恋愛関係に触れているシーン)。

最初は混乱の度合いによって雪が積もっているのかと思ったのですが、宿泊客が喧嘩を始めるシーンや飛び降り自殺するシーンなど、明らかに混乱極めている状況で雪は降り積もっていませんでした。よって、ミコトのその瞬間の感情というよりは別ベクトルの感情がトリガーになっていると伺えます。
よくよく考えてみれば、本作品のタイトルは「リバー、流れないでよ」ですから、重要なのはミコトとタクの関係性であると伺えます。

また、これは完全に推測ですが、本作品ではミコトの純白な恋愛感情と雪をリンクさせていたのではないでしょうか。雪について夢占いの情報を調べてみたのですが、なかなか興味深い内容でした。以下調べた内容の一部抜粋です。

夢に出てくる雪は、あなたの中の純粋性や潔白な心を表しています

(1)雪が降る夢の意味は「恋愛運アップ」
(2)雪が積もる夢の意味は「願望達成」

【夢占い】雪の夢の意味とは? 「純粋性、潔白な心」の象徴|「マイナビウーマン」

以上のことから、ミコトとタクの恋愛関係が描写されているか否かで雪の景色を使い分けているのだと私は考えます。

疑問2. 自分から誘ったお参りで、何故本人は神様にお参りをしなかったのか

タイムループの件も無事解決し、最後のシーンでミコトがタクをお参りに誘います。しかし、そのシーンでタクは神様にお参りをしているのに対し、ミコトは神様にお参りをしてませんでした。
実に不思議な状況です。何故ならミコトはお守りを握りしめ、川が流れないで欲しいと祈るくらい神頼みをしていたからです。

では、何故ミコトは神様にお参りをしなかったのでしょうか。
結論、ラストのシーン時点でミコトはタクとの恋愛が成就しなかったことを明確に認識していたからです。

実は、ミコトは物語の中盤くらいで、タクとの恋愛が成就しないと悟っていたのではないかと思います。というのも、フランスに行くことについてミコトが問いただした時、タクは「てか、そんなことで?(≒俺がフランスに行くっていう事だけで、時を止めてるの?)」と聞き返します。また、このターンのラストにミコトは「あんたがフランス行くこと、私まだ納得してない。ずるいよ自分だけ。」と呟きます。さらに、この次の次のターンでミコトはタクに「世間は騒がしくても、貴船はずっと平和。それが嫌でフランス行くんでしょ?」と切り込みます。タクはこの言葉を一切否定せず、100%そうだと言い切ります。

この時点で、タクは自分の夢や将来、ミコトは二人の未来を見ており、お互い見ている方向が異なっていることが分かります。
そして何より「ずるいよ自分だけ。」この一言がミコトの気持ちのすべてです。ミコトはタクから「ミコトちゃんも一緒にフランス行こう」この一言を待っていたのだと思います。

その後、ミコトが時を止めている疑惑(というより思い込みの自白をチノに聞かれた)により、タクとミコトは繰り返す2分間で逃避行≒デートの時間を経ます。この逃避行のターン、作中で最も雪が降り積もっていたシーンでした。

疑問1で触れたとおり、逃避行のターンを経て事態が急変したため、ミコトがタイムループの解除を試みるというターンに移っていきます。ここで、タクが「楽しかったよ、逃避行。またどっか行こう。」と言うと、ミコトは「嫌だ」と笑いながら答えます。
ミコトも逃避行が楽しかったことは紛れもない事実です。しかし、タクと過ごしたあの時間をもう一度そのままに味わうことはきっともう難しいです。そういった背景からミコトは「嫌だ」と笑って見せたのだと思います。

そして、重要なターン。タイムループの原因と解決策が分かり、そのシミュレーションを行うターンでミコトはタクと最後に二人きりで話します。そこでミコトは結っていた髪を解き、自分で断髪します。戸惑うタクに「いっぺんやってみたかったんだ。失恋して髪切るの。でもやんない。これは無かったことになる時間だから。」と告げます。
恐らくこれは願掛けです。このまま進んでいたら、そのままタクはミコトを置いてフランスに行くことになります。しかし、ここでミコトは失恋して断髪することは無かったことになる時間だとタクに宣言します。

そして、場面は最後まで飛び、ミコトがタクをお参りに誘うシーンです。お参りの前にミコトが貴船神社は恋愛祈願の神社である事に触れます。ミコトはタクに「貴船戻っておいでよ。」と最後に仕掛けます。しかし、タクはそれとなくはぐらかしお参りを始めてしまいます。残念ながら、ミコトの願掛け・最後の仕掛けをもってしてもタクの心は靡きませんでした。

以上一連の流れから、最後のシーンでミコトは神様へお参りをしなかったのだと推察しました。切ないですが、失恋が確定してしまったのでお祈りすることも無いという表現の方が正しいかもしれません。

最後に

私は時を歩むことが出来ていないのではないだろうか。何となく時の流れに身を任せ日々を過ごしているように思います。この世界でタイムループは起こらないのでしょうが、頭では何回だって考えることが出来ます。
私の目は今”揺らぎ”を捉えています。頭の中で何度もループして”揺らぎ”に決着をつけ、時を歩まなければと思いました。

あと、作中で雪について案じていた人物が一人いるのですが、それが誰だか分かりますか?
何がどうなることを案じていたのか、この辺りも一考してみると新たな発見があるかもと思った次第です。

ここまでご覧いただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!