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遺伝子について

本稿は完全に無料である。このnoteを何故私が書くのかというと、私のnoteではしばしば遺伝子(gene)が登場するのだが、そのたびに遺伝子の定義や役割を書いているので、それなら独立に遺伝子についての基本的な説明をしているnoteを書いて引用したほうが便利だと思ったからである。本稿は遺伝子研究の進歩によっては内容がアップデートされることもある(つまり加筆修正される)。

我々人間の体は37兆個の細胞から成り立っている。そして一つ一つの細胞は多少の高度な例外を除いて同じDNAが細胞内の核に位置している。このDNAはdexoyribonucleic acidの略であり、二重らせん構造になっている合わせて30億塩基 からなる超巨大分子であるが、人間の場合は46本の染色体に分かれている。染色体は1番から22番までの常染色体と、X染色体もしくはY染色体の性染色体が種類として存在しており、常染色体は基本的に二つ(2コピーと我々は呼ぶ場合もある)で、あとはXX(女性)もしくはXY(男性)を入れて46本となる。またこの全DNAセットをゲノム(genome)と呼ぶ。

DNA構造。上の四つの塩基(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)が総数として30億個で二重らせん構造で成り立っているのがヒトのゲノムになる。
https://www.sciencefacts.net/wp-content/uploads/2023/08/DNA-Structure.jpg

さて、それでは遺伝子はいかなる物、どのように定義されているのだろうか。ちなみにgeneという単語は、デンマークの植物学者であるウィルヘルム・ヨハンセンにより1909年に導入された。子孫や生殖を意味する古代ギリシャ語の γόνος(génos)に由来する。実は遺伝子そのものの厳密な定義の細部はまるでコンピュータウイルスの定義のように更新されつづけているところもあるのであるが、研究者ではない一般人向けの定義のおおむね概要はこちらで差支えないと考えられている。

A region of DNA (deoxyribonucleic acid) coding either for the messenger RNA encoding the amino acid sequence in a polypeptide chain or for a functional RNA molecule.

gene
https://www.nature.com/scitable/definition/gene-29/#:~:text=A%20region%20of%20DNA%20(deoxyribonucleic,for%20a%20functional%20RNA%20molecule.

こちらをより分かりやすく意訳すると、遺伝子とはタンパク質を作るRNA(メッセンジャーRNA, mRNA)をコードするDNA配列もしくは、他の機能的なRNAを作るためのDNA配列を指すことになる。つまり遺伝子の実体は染色体上にあるRNAを作る指令が行えるDNAの一領域ということになる。

セントラルドグマ
https://okke.app/words/p/zunEvXe6tHanp

上に示すのはセントラルドグマという考え方で、まずDNAが複製(replication)により自分自身のコピーを作ることができるが、次に転写(transcription)を実施することによりDNAの特別な配列部分からmRNA (メッセンジャーRNA)を含む機能的なRNAを製造する。ここでmRNA以外はRNAの形で生体内で機能を果たしていくが(一部は細胞外に分泌すらされる)、mRNAから翻訳(translation)という過程を得て、タンパク質が製造される。
 しばしば”コードされる”という表現を使われることもある産物のタンパク質は20種類ほどのアミノ酸が数珠つなぎのようになって成立している高分子である)。

タンパク質翻訳
https://bio-sta.jp/beginner/proteinsynthesis/

ここで上の図をみればわかるように20種類のアミノ酸が数珠つなぎのようにつながっていくのが翻訳によるタンパク質製造であり、それにより機能的なタンパク質が生産されていくことになる。例えばDNAに巻き付いているヒストンH3というタンパク質だと以下のようなアミノ酸が113個つながってできている。ちなみに最初のアミノ酸はよほどの例外がない限りはM(メチオニン)であることが多い。

ヒストンH3のアミノ酸配列組成
https://www.uniprot.org/uniprotkb/B4E380/entry

アミノ酸20種類の組み合わせは20のn乗あるので、本当に無数の組み合わせが存在する。それにより本当に様々な種類の機能を持ったタンパク質が製造できるのである。

遺伝子の数は生物によってDNAの長さも違うことからかなり異なるが、人間の場合、遺伝子は総数として2万3千個は存在していると2004年のヒトゲノム計画が終わった頃には考えられてきた。しかし最近では遺伝子もタンパク質に翻訳するmRNA を作るDNA部分を指すもの(protein-coding genes)と、タンパク質を翻訳しないノンコーディングRNA (non-coding RNA)を作るDNA部分を指すもの(non-coding genes)で分けるようになってきた。高度なDNA解析により、現在ではタンパク質をコードする遺伝子の数は約19,500個であると見積もられてきている。以前に書かれた私の他のnoteでは2万以上の数字が記述されていたのもあるが、上の数字が今では最も正確である。細胞の数も以前は60兆個と見積もられていたが、今は上述の通り37兆と言われており、このあたりの知見は更新・進歩していくのである。

そのため今後さらに更新されることもありえる。そしてnon-coding genesの数はさらに実体がよくわかっていないが、1.5万から2万くらいあるのではないかと見積もる研究者もいるという状況である(そのような表現が出てくるほどはしっかりした数字が出せていない)。

さて遺伝子の数について上で言及したが、これだけでイメージは出来たであろうか。遺伝子とは、人間を形成する上での道具やパーツを作る設計図であると考えてくれれば分かりやすい。そしてprotein-coding genesについてであれば、遺伝子産物(gene product)はタンパク質である。例えばMyoDという遺伝子はその産物は筋肉を作ることを指令するタンパク質として働く。またp53という遺伝子は、その産物のタンパク質が細胞をがんになるのを抑えたり、がんになってしまった細胞を老化させたりアポトーシス(プログラムされた細胞死の一つ)させたりする働きを持つ。KRT1は細胞表面タンパク質であるケラチンを作る遺伝子の一種である。

遺伝子についてのイメージ ある遺伝子産物は人間の部品そのものであり、ある別の遺伝子産物は道具のように働くのである。それらが総数でprotein-codingだけでも1.9万程度は存在している。
https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/bukkenmatome.nxin.jp/life/images/20220421005028/th_pixta_5396308_M.jpg


こちらはinduced pluripotent stem cell (iPS)細胞であるが、こちらは線維芽細胞などの細胞にOCT3/4, Klf-4, SOX2, そしてc-mycという4つの遺伝子を新たに導入することで作製される。iPS細胞は分化多能性(pluripotency)を有していることから、様々な組織の細胞に分化させることも可能であり、再生医療への応用に大いに期待されている。そして現時点でも創薬のスクリーニング実験や幹細胞や臓器に関する基礎研究では大いに役に立っており、大変な活躍をしている。私もiPS細胞を実験に用いたことがある。
https://www.japan.go.jp/tomodachi/_src/7933148/26_02.jpg?v=1582279944661

さて遺伝子についても詳しく話そうと思えばもちろんいくらでも話せる上に、専門的に厳密なことや細部まで議論していくと、それはその専門家でしかわからないような高度な領域に踏み込むことになってしまう。本稿では、遺伝子の概要について大方、このくらいのことがわかっていれば一般人向けとしては十分ではないかと思われるくらいには紹介・説明しているので、今後他の私のnoteで遺伝子などが登場してきた際には、適宜こちらのnoteを見直してもらって色々と語句や意味などを確認してもらえればと思う。

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