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フランス大学院修士課程雑記⑦前期の成績振り返り・フランスの成績評価制度
2月中旬。「遅い!遅すぎる!!」と学生たちのクレームが多々噴出していたある日、突然1学期(前期)の成績が公表された。
前期の成績は、15.8/20。
目標の16/20(Mention TB)にはギリギリ届かず歯軋りした。
備考:フランスの成績評価
・日本のようにABCのようなランクではなく各科目20点満点で評価される。
・しかし実際はランク付けがあり、バカロレアではしっかりランク付けされる(Assez bien以上の場合)。
・大学・大学院の成績ランクもLinkedInや研究者のプロフィールサイトに書かれていることがある。
【成績ランク(※2022年のBacでの割合)】
Mention « Assez bien » (AB) 平均12~14点/20点(※30%)
Mention « Bien » (B) 平均14~16点/20点(※19%)
Mention « Très bien » (TB)平均16点以上/20点(※9%)
・20点中10点取れれば合格。仮に合格点未満でも、追試で救済されたり、ほかの科目とあわせた平均点が10点を超えればOKということもある(なお10~12点のことをMention Passableと呼ぶこともある)。
https://www.ephe.psl.eu/sites/default/files/2021-11/Echelle%20de%20notation.pdf
①手ごたえと必ずしも比例しない成績
今回成績が公表されてまず思ったことが、
一番難しかった授業で意外に良い成績が出た!
逆に、毎回一番前で発言したり教授が優しい!と思っていたりした授業で望まない成績が出た……。
要するに、日本の学部よりも試験や授業の感触と実際の点数に乖離があり、手ごたえが成績と比例しにくかったということだ。
今回もっとも悪かった成績(と言っても一般的には「ヨシ・Mention Bien」とされる)が14/20。
この成績が2つの科目についてしまったのだが、いずれの授業の教授も天使のように優しく面倒見がよかったのに、蓋を開けたらまさかの辛口評価。
そしてこのうち一つが全体のECTS(日本で言うところの単位)に占める比重が大きかったため、全体平均を大きく下げてしまったというわけだ。
この二科目に共通したこととして、エクスポゼ(プレゼン)が評価に占める割合が高く、半分以上を占めたことが挙げられる。内訳を見てみると
①社会学:エクスポゼ2回、サンテーズ1本(つまりエクスポゼが6割近く)
②修士論文の準備講座 (Méthodologie de la recherche):エクスポゼ50%、出席・課題50%
ここから導かれる結論はただひとつ、口から生まれたと言っても過言ではない弁の達者なフランス人にエクスポゼで勝つことは非常に難しいということだ……。
エクスポゼについては「DST(Devoir sur table いわゆるペーパー試験)よりはマシだ!!」と思っていたが、そこは偏差値至上主義ペーパーテスト大国ジャポンで生まれ育った自分。
結果だけ見ればDST(とくに期末一発ではなく、中間2回期末1回のような複数回チャンスがある試験)の方がマシだったという予想外の結果に終わってしまった。
また、ひとつ年の功というか社会人経験が大きく生き、手ごたえより大きく点が伸びた授業がMéthodologie à l'insertion professionnelle。CV(履歴書)の書き方、求職時に目を引くLinkedInページの作り方などを学ぶ、就職を見据えた大変実践的な授業だ。
当初クラス唯一の非ネイティブということでマトモにCVも書けず、みんなの前で「資格試験のダメな例!DELFとDALFを並列して書くな!DALFだけでいい!!(※)」などとつるし上げを食らってしまった授業なのだが……笑
そこは学業というより半分仕事と割り切り、教授の指示を反映しながら粛々と多くの課題を期限内にこなし、しっかり積み上げたらエクスポゼも込みで17点近くが出た。
(※個人情報の部分は黒塗りで伏せられたが外国人向け試験であるDALFを持っているのなんて私だけなので、CVの主は自明である。)
単純平均点は16点を超えているけど……?
実は各科目の点数を科目数で単純に割ると16点を余裕で超えている。
また公式の点数発表より前に点数を教えてもらえた科目は総じて点が良く、平均点を計算し、これはMention TBも狙えるぞ~と油断しまくっていた。
しかし、そこは単位数(ECTS:ヨーロッパ単位互換制度)のマジックがある。14点(6ECTS)と18点(2ECTS)の平均は16点ではない。15点なのだ。
今回FLE(外国人向けフランス語・18/20という大満足の成績)が色々とあって前期の点数として組み入れられなかったのも失策だった。
そして14点の科目はいずれも成績発表前に点数を教えてもらうことができず、ひとつは前期の全単位30ECTS中6ECTSを占める大変重要な科目だったのである。こうした要素が手ごたえと実際の成績の乖離を生んでしまった。
②外国の文系大学院をなめてはいけなかった
私の通う大学は総合大学で、理系の子たちも多い。
先日理系の授業資料を見る機会があったのだが、数学が数ⅡBで止まっている私には数式はちんぷんかんぷん。
しかし数式と数式を結ぶフランス語は理系らしくロジカル・シンプルで、そこだけは理解に支障がなかった(授業でこれを口頭で説明されたときに理解できるかはまた別の問題だが)。
これこそが語学力として理系の院試にDELF B2が、文系の院試にDALF C1が求められる理由であろう。
理系の方々は私にはない専門知識を多々持って留学に臨める。その分のご苦労も多いと察するが、これは素晴らしいことだ。
また、帰国子女の方から「最初は現地語がわからなかったが、算数/数学は日本の方が進んでいたので大丈夫だった」という話を聞いたのも一度や二度ではない。(個人的には、日本の理系教育は総じてレベルが高いと思っている)
翻って、理系の方々の輝かしい知識の代わりに私が持つささやかな武器はDALF C2レベルのフランス語。C2とはいえネイティブのフランス人と同じ土俵で戦えるわけではまったくない。
そして私は「日仏のジャーナリズム比較研究がしたいです」とのたまって大学院に入り、ネイティブより弱々なフランス語でフランスの新聞の言説分析をしながらの論文執筆に涙を飲む日々を送っている。
実際、学部からストレートでフランスに院進(文系)して修士号を取得し、現在は素晴らしいフランス語力を活かしてこちらで稼得している日本人の方も「修士時代は10点取るのでも大変だった」とおっしゃっていた(その方は学部時代フランス語学や仏文専攻ではないので、なおのこと素晴らしいと思っている)。
こうした点の意識が甘かったことを踏まえ、16点までの「0.2点」を後期どう埋めるか。TBを狙うには戦略的に考え、動かなければならないことを痛感させられた。
③おわりに:周りの人たちに成績の印象を聞いてみた
交換留学時代は10点取れれば単位が互換できた(かつ互換単位は特殊評価でABCのランク付けがなかった)ので、あまりMentionについて考えてこない人生を歩んできた。
そのため今回初めてフランス式成績を突き付けられ、「これはどう受け止めれば?」と困惑してしまったので、周りの方たちに率直な意見を伺ってみた。
フランス人A:同じ院の2年生。相当優秀。学部はスパルタ式教育で知られるパリ市内の別のところで修了(私の交換留学先である)。
・フランスでは17点以上はほぼ存在しないに等しい。
・第二外国語で評価されるのも踏まえると、かなりトップに近い成績だと思う。
・私自身は今回19点だった試験もあって平均16も超えたけど(これを聞いたとき、マジか~と心の声が漏れてしまった)学部時代は厳しいと有名なところだったから、今より成績は悪かったよ。
フランス人B:別の大学院2年生。学部は私が現在通う機関で修了。
・フランスでは一般的に14点以上なら良いっていう印象だよ。
フランスで子育てを終えた日本人の方:
・15.8でも素晴らしい!
・Mention TBは正直に言うと、かなり難しい挑戦だと思う。
総評すると「成績は悪くはない、むしろ外国人としてはとてもいい」し、Mention TBを外国人が狙うのは難しいのも承知した。
しかしAさんは実際に16点以上が出ているわけだし、研究者のホームページなんかを見るとバカロレアから並ぶ数々の輝かしいMention TBが誇らしげに鎮座しているのである。
幸いなことに学業に集中できる環境にいるわけだし、「惜しい」ところまで来ているので、無謀な挑戦とはいえど引き続きMention TBを目指していこう。
次回書きたいこと:私の思い違いでなければ、フランス留学経験があり、フランス語もハイレベルな相互フォロワーさんが私の歩みに言及した記事を書いてくださった。嬉しすぎて嬉しすぎて、何度も読み返しました。本当にありがとうございます(人違いだったらあまりに申し訳ないので、その記事に直接コメントするのは控えました)。
この方の記事はもちろん、大学院で毎日頑張っている中でも「言われて嬉しかった」ことがあったので、この休み中にそれを記事にできたらいいな。