保育者の想いと環境をつなぐ|くらき永田保育園の実践(園長鈴木八朗)
前回「楽しい大人」というテーマでお話を伺ったくらき永田保育園園長の鈴木八朗さん。園舎内は心地よい自然光が入り、職員が作った麦らのヒンメリや身近な自然物と様々な素材を組み合わせたオリジナルモビール、子ども達がお庭や散歩で出逢った自然物、多種多様なグリーンで彩られ、その場に居るとほっと何だか心が癒されていく。誰しもが自然体で居られるような空気感は、私がフィンランドの保育園で感じた感覚に似ていた。
異年齢で過ごしている幼児クラスの子ども達。各コーナーがありながらもそれそれのイメージで繋がり合いながら遊びの空間を次々とつくりだし、熱気が感じられるほど遊び込んでいて何とも楽しげ。保育者は子ども達へ言葉を手渡ししているような丁寧な向き合い方だった。
「ここには、こんな想いがってね…!」と園内環境についてお話してくださる鈴木園長。その姿は情熱的であたたかく、場に愛着が感じられた。子どもの育ちを真ん中に置き、園づくりを楽しむくらき永田保育園の大切にしている問いや実践について今回はお伝えします。(▼前回の記事はこちら)
鈴木園長が環境をつくるときに大切にしている2つの問い
①どんな保育がしたいか
保育環境を考えるとき、まず大切にしている問いが「どんな保育がしたいか」だ。園の理念を交えながらどんな保育がしたいか話し合う場をもつことが大切な第一歩。改めて目的を共有し合うというプロセスの中で、一人ひとりの想いが繋がっていき、自分の大切にしたいことから、私たちの大切にしたいことへと広がっていく。このような意識の共有に意味があるという。実際、鈴木園長からは「子どもの主体性を育むために○○をしています」「関わり合いながら育ちゆくために○○な環境をつくりました」と環境からどんな保育がしたいか、大切にしたいことが随所で感じられた。
②なぜこの環境にしたのか、一人ひとりの保育者が語れるかどうか
「環境は保育者の育ちへの願い、想いを目に見えるカタチにしたものです。なぜこの環境にしたのか語れるかどうかを1つの軸として、職員の皆さんと向き合っています」。そう語る鈴木園長自身も園環境について、溢れでる熱い想いを私たちへ語ってくださった。そんな姿からは、語れないといけないというプレッシャーやある種の義務感よりも、想いがあれば人は自然と語りたくなる主体的で楽しい姿が感じられた。まさに、楽しい大人の背中だ。
保育者の想いを感じる園環境7つの実践紹介
①大前提は「見通し」と「安心感」
「まず、子ども達が主体的であるために欠かせない2つの環境要素があります。それは『安心』と『見通し』です。自分らしく居ていいんだなと子どもたち自身が感じられることや、ここには何があるのか、この場は自由に使っていいんだなとか。そんな風に遊びのメニューが見えることで、子ども達は自分から遊び始め、遊びを創り出していくんです。さらに、次に何があるのか、自分で考えられるような見通しのきっかっけになる、そんな意味のあるサインを保育者側のしぐさとしてつくることが大切です」。
幼児クラスでは、保育者がイスへ絵本を置くと朝のサークルタイムが始まるよという合図であり、次に何があるのか見通しを感じられるきっかけなのだ。子ども達は「今日はこれなんだね!」と朝の物語りを楽しみしながら、気づいた子から自分で考えて片付け始め、その輪が広がっていく。「朝の会するから、お片付けするよ~!」と大きな声で指示を出す保育者の姿はなく、ネックになりがちな片付けが主体的な姿勢の育みに繋がっていた。
②相手との関係の中で問題を解決する対話的な文化づくりを
「社会の中で生きていくには、他者と関わり合いながら共に生きていくことが大切ですよね。園を立ち上げる前は暴力から逃れてきた方を保護する施設で働いていた経験もあり、子ども達には自己主張しながらも、少しずつ相手の意見にも心を向けて、話し合いで解決する姿勢を体験的に学んで欲しいと感じていました」。そんな対話的な話し合いの場をつくっているのがぴーすたいむ。
③空間のタテとヨコ
園庭で、異年齢の子ども達が虫かごを囲んで自然と集まり、楽しそうに語り合っているところを見かけると…?!「あそこはね、みんなで顔を見合せて語り合えるように芝生を敷き、集えるスペースにしたんです。空間には、タテとヨコがあってね。タテは分ける、ヨコ(平面)は繋がる・集うという意味をその場にもたらします。子ども達の姿をよく見ていると、戸外でも寝転びながら語り合える場所を欲しているように感じて、そこからこの場をつくりました。『ここは寝転んで話しちゃダメだよ』と大人目線で禁止したり、注意することも無くなって。結果的に子ども/大人お互いにとって、よりよい場となりましたね」。メッセージを感じる場づくりは奥深い。
④カラダの使い方を体験的に学べる園庭
子ども達が自分のカラダを一生懸命動かしながら、ダイナミックに遊び込んでいる園庭。中には2m50cmの高さからジャンプする姿も!ヨーロッパの遊具の安全基準も参考にしながら園庭づくりへ取り組まれたそう。「園庭では、登りたいからのせてあげるということはしていません。危険管理能力を育むためにも、今の自分の範囲を体験的に知り、その幅を自分の力で広げていこうとする試行錯誤のプロセスが身になる学びであり、その子の力になりますからね。卒園後もここでの原体験を胸に、心身共に健やかに育って欲しいなと思います」。
⑤心が動く!0歳児から野遊びを
「所感覚が敏感な乳児期から、本物に触れ心が動く体験を大切にしていきたいと思いました。日本の四季を感じたり、五感をフルに働かせたり。自園は比較的都市部の園ですが、そこでも0歳児から野遊びできる環境をつくれるよ!という楽しいモデルをつくりたいとも考えていて。あと、ハーブガーデンや生き物の森など各場所には必ずネーミングして、この環境の意図がより伝わるようにしています」。
⑥させるから身に付くへ~暮らしの中で必要なスキルを育む乳児期~
「食事、排泄、着脱など毎日の暮らしの中で必要なスキルを遊びや生活の中で獲得することが、乳児期の主体性に繋がっています。そのためには、させる→身に付く/自分でできるというような意識の変化が必要です」。
このエプロンも子どもの主体性を育むもの。成長と共に大人が何も言わなくても自然と子どもが自分で頭を下げてくるようになる、このような同意している姿(協力動作)がポイント。また、ゴムエプロンの着脱は、衣類の着脱の動きにも繋がってくる。何百回、何千回とくり返す暮らしの中で、どのような経験を積むか。そんな日々の積み重ねの重要性を改めて感じた。
⑦アクティブタッチ!自ら選び、やりたくなるような遊びの環境を
「子どもの遊びは大きく分けて4つ。粗大遊び、微細遊び、社会的・情緒遊び、感覚統合遊びです。これらの遊びを満遍なく経験できよう、各クラスの遊びの環境をつくっています」。
楽しい大人と子どもの発達の拡張
音楽家、画家、絵本作家、エンジニア、地域の農家さんなど様々な異業種の方と保育者が関わり合う場をつくり、保育の課題を解決したり、子どもの興味関心を深めたりしている鈴木園長。「園だけで育もうとせず、保護者も含めて、多様な人たちが関わり合って子ども達を育んでいけたら、もっと楽しくなるだろうなと思って、積極的に場づくりを行っています」。
①アイディアマンの保育者×モノづくりのプロ!新たな玩具づくり
「保育者のみなさんは常に子どもと向き合っていて、実態をよく知っています。何に興味があるのか、そこをキャッチして展開していくことが本当に上手だなと感じています。そんな素敵なアイディアを活かしていきたいと思って、モノづくりのプロとコラボレーションしてオリジナル玩具をつくりました」。
この取り組みは子ども達の遊びを深め発達を促すと共に、保育者の働き甲斐もアップする素敵な取り組みだ。
答えが1つじゃないからこそ、試行錯誤で保育をアップデート!
「環境づくりでは上手くいかないなと感じることや、やってみたら当初の意図とは異なる意外なところで繋がった!なんて気づきが沢山ありましたよ。まさに、保育は試行錯誤です。育みたい姿や想いに対して答えはたくさんあるからこそ、常に子どもの姿と向き合い、職員間で話し合ってつくっていくしかないんですよね。そのプロセスが自分達の保育のアップデートに繋がってくはずです」。
私たちが運営するひばりヶ丘のアフタースクールcommonでも大切にしていることの1つに試行錯誤というキーワードがある。長年に渡り試行錯誤を積み重ね、よりよい育ちの場を育んでこられた鈴木園長をはじめとするくらき永田保育園の現場のように、想いと環境をつなぐ場づくりを行っていきたいと感じた。
文・context planner宮田
<Visited DATA>
訪問先:くらき永田保育園
所在地:神奈川県横浜市南区永田東2-5-8
Webサイト:https://kurakids.ed.jp/