地域を子どもたちの学びと体験の場所にするために|永野仁也(いづる保育園京都四条園園長)
畳が一面に敷かれた園内。いづる保育園京都四条園は0~2歳の子どもたち9名が過ごす小規模保育園。大阪上本町に姉妹園を持つこの園では、子どもたちの興味を出発点にして、その興味や関心にまつわる本物に触れる体験を大切にしているという。今回は同園の園長、永野仁也さんにお話を聞いてきた。
本物に触れる体験を目指して地域での活動場所を増やしていく
地域での活動を意識しているといういづる保育園京都四条園、一体どんな活動をしているのだろうか?
「近くの警察署でパトカーを見せてもらったり、地域で植えているヒマワリの種を署長さんからいただいたりする機会がありました。そこから月に数回お散歩コースに警察署を含めていて、子どもたちはパトカーや事故処理車を間近で見せてもらい、目をキラキラと輝かせています」と語る永野さん。
「元々は昨年の秋に、子どもたちが乗り物に興味を持っていた姿から、お散歩がてら近くの警察署に見に行こうということになりました。勝手に見ているわけにもいかず、署内の受付の方にあいさつをし、許可をいただきました。パトカーを見ているうちに、署長さんが出てきて説明をしてくださるようになりました。その後署内の広報新聞で園児が遊びに来ている様子を取り上げていただいたり、園の防犯講習に来ていただいたり交流が続いています」
永野さんは保育園のすぐ近くに住み、地域に馴染むことを大切にしているという。それはどんな思いからなのだろうか。
「子どもたちの思い出や記憶に残る体験を一番に考えています。そのためには体験することが一番だと考えていて、興味を持っていることのリアルな現場に連れていき、それに触れる機会を作れればと考えています。図鑑や写真ももちろん大切ですが、本物に触れる機会や環境を子どもたちに届けたいと思っています。地域で暮らすことで顔なじみになり、様々な情報やお話、地域のつながりを聞くことができていると実感しています」
子どもたちが学び、過ごす環境は、園内はもちろん地域や町もその舞台である。そんな思いが地域の中で子どもたちが活動できる場所を増やしていく取り組みにつながっているようだ。ほかにはどんな場所が活動場所になるのだろうか。
「コロナ禍なので、あまり多く開拓できていませんが町内会長さんとはよくお話をしています。運動会の場所探しもご協力いただきました。2歳の子どもたちに限っては、おやつのフルーツを買いに近くの八百屋さんに一緒に行ったこともあります。これからは近くのお花屋さんや着物屋さんと交流をしたいと考えています。特に着物屋さんは『日本文化に触れる保育』をコンセプトにするいづる保育園らしい活動が一緒にできたら嬉しいですね」
八百屋さんでのお買い物
「やってみなければわからない!」体験することの大切さ保育士になった原体験から
地域での活動場所を増やす取り組みは、永野さんのどんな思いや願いが込められているのだろうか。
「『やってみなければわからないことがある』と私自身考えています。それは自分自身の経験として、高校生の時に先生の知り合いの園でボランティアとして保育士の体験をさせていただいた時に強く感じました。保育士に興味があったものの『保育士は給料が少ない上に大変』といった話を聞き、進路に悩んでいました。ですが実際に現場に入るとそれ以上に子どもの成長に触れる喜びや、子どもたちから学ぶことの多さに気づきました。自分自身の体験は、一般的なイメージ以上に自分の仕事へのイメージを具体化させてくれました。同じようにキャリアや将来につながるという意味だけではなく、子どもたちが体験を通じて、自分の感性を通じて感じること、考えることが大切だと思います。写真や映像では感じることのできない、自分なりの体験を活動場所を増やすことを通じて支援できたらと考えています」
いづる保育園の特徴のひとつの全面畳の保育室
照明は間接照明になるよう、手漉き和紙をフィルターに
園内で共通認識を持つことで、新しい活動が生まれやすい環境がつくれる
こうした活動は子どもたちが喜んでいるだけではなく、一緒に働く職員にもよい影響となっているようだ。
「警察署の例のような本物に触れる機会を増やしたいという思いは園内でも共有しています。そんなテーマに共感した職員からの提案で食育の活動があり、園としてその活動にも力を入れています。子どもたちは調理前の食材を見たり触れたり、皮むきなどもお手伝いといって楽しんでいます」
本物に触れる機会を増やしたい、という永野さんの思いや取り組みが職員にも伝播して、「だったらこれは?」といった提案やアイデアが生まれやすい職場環境につながっているようだ。
こうした取り組みをさらに進めるために、いづる保育園では行事づくりでも新しい取り組みを始めた。これまで行事当日までの準備や当日のタイムスケジュールが中心だった行事計画書を大幅に変更した。
「これまでは行事の活動内容ありきで行事を作っていましたが、子どもたちの普段の姿や行事のねらいから、それに見合った活動を考えるという手順に変えました。子どもたちが園の活動の主体であってほしいと考えていることと、行事の計画そのものが園の資源・記録として残すことを目指しています。それまでは活動内容を決めたプロセスがその場にいた職員や企画者の頭の中で暗黙知になっていました。計画書として見える形にすることで、子どもたちのどんな姿から着想し、どんな狙いを持っていたのかといった職員同士の共通認識を明確にしています。そうすることで、職員の意識が一つの方向に向き、普段の活動も一丸となって考える風土が生まれつつあります。」
第一弾として取り組んだ節分の様子
永野さんが自身の原体験から学んだ『体験の大切さ』から、地域での活動場所づくりの取り組みに広がり、そこから共通認識を持つことでのチームづくりのヒントを得た、同園。これからの展望についても聞いてみた。
「園としては、地域のつながりをさらに作っていって、いろいろな体験ができる保育園になっていきたいと考えています。個人的にはさらに2つ。ひとつ目は小学生の放課後学童をいつかしたいです。以前学童に勤めていたこともあり、園を卒園した子どもたちを継続して見られる場になったらと思っています。ふたつ目は近くの高校から保育士体験の受け入れをしたいと思っています。高校生当時の自分のように、子どもに触れる機会が少なく、この仕事の楽しさややりがい、喜びを知らない高校生に、保育士という道を考えるきっかけを与えて、現在の保育士不足の解消にすこしでも貢献したいと思っています」
園内のコミュニケーションを促進するためのコミュニケーションデザイン
いづる保育園で取り組んだ行事計画書の見直しプロジェクトは、園のコンセプトを職員がより使いこなせるように、といった願いからスタートしました。職員がコンセプトに沿って自由に自律的に考え、行動できることを目指して、企画の見える化による共通認識づくりと園のコンセプトをブリッジすることを計画書のフォーマットを通じて行っています。このプロジェクトは、私たちLiCでプロジェクトの設計・活動支援、その後の運用支援を行なっています。
「園のコンセプトが思ったように機能しない」「園内の意思疎通をもっとスムーズにしたい」など、園の中のコミュニケーションをさらに促進したいとお考えの方は、ぜひ下記の無料相談からお問い合わせください。
LiCの乳幼児教育施設の組織開発無料相談
メール:info@learning-in-context.com
電話:03-6663-8960
<Visited DATA>
訪問先:いづる保育園京都四条園
所在地:京都府京都市下京区本柳水町766
Webサイト:https://izuru-hoikuen.jp/access-kyoto/