髙田祥聖の、かたむ句!⑧【金曜日記事】

褞袍着て人生ゲームでも未婚/北大路翼

YouTubeに、株式会社よそ見が運営している「ゲームさんぽ」というチャンネルがある。様々な分野の専門家と一緒にゲームをプレイして、専門家独自の視点からゲームの世界を楽しもう‼︎という趣旨の動画企画である。

今年の九月下旬に投稿されたゲームさんぽでは、わたしが所属している俳句結社「楽園」の堀田季何主宰がゲストの一人としてゲーム吟行をしている。吟行先は、「Fallout4」というゲーム。核戦争によって荒廃し、放射能によって変異した人間が食人鬼(グール)となって襲ってくる世界。
……吟行してる場合じゃなくない?

俳人かグールか秋を彷徨へる
夏季五輪グールになれば10秒切る

堀田季何

えっ……、ちょっ、せんせい、なに詠んでるんすか……!!
めっちゃおもろ……!!

同じくゲストである関悦史氏、阪西敦子氏もばんばん嘱目で俳句を詠んでいく。それがまた上手く、面白い。
初めて見る変異した生物。食料や資源が枯渇した状況下での人間模様。荒廃した未来世界を舞台に季語を探し、彷徨う俳人たち。クレイジーというべきか、それとも俳人の性いや業というべきか。

約三十分ほどの動画であったが、「わたしもやってみたい……!!」 と思うには十分すぎるものであった。
(ちなみに本記事の各章のタイトルにさせていただいている句の作者、北大路翼さんも他のゲームさんぽ動画に出演していらっしゃいます。そちらも面白いのでぜひ‼︎)

うららかやビフィズス菌が腸で死ぬ/北大路翼

とはいえ、わたしはゲームにはあまり明るくない。
クリアしたことのあるRPGといえば、ポケットモンスターブラック、だけである。ポケットモンスターシールド(最新作ですらない……)は持っているのだが、ダイマックスしたイワークが倒せなくて投げてしまった。
頼みの綱のNintendo Switchも リングフィットアドベンチャー専用機となり、あまつさえそれは実家で埃を被ってしまっている。

俳句とは関係のない友人に「ゲームさんぽ」のことを話したところ、ゲーム機ごとゲームを貸してくれることになった。持つべきものは、Nintendo Switchを複数台所持している友人である。

「古いゲームのリメイクだけど、たぶん好きだと思うよ」

そう言って、友人が貸してくれたゲームのタイトルは「かまいたちの夜」。おお、タイトルに季語があるじゃん!!
しかも、「かまいたち」は詠んだことがない!!
ゲーム経験値の少ないわたしは、ポケモンのように「かまいたち」をゲットするゲームなのだろうと勝手に想像してわくわくしていた。
これから起こる惨劇のことなどまったく想像せずに……。

神様をブルーシートで包む冬/北大路翼

俳句を始めてから、余暇の時間のほとんどを俳句に費やしてしまっている気がする。学生時代は本の虫だったのだが、最近は小説よりも句集や歌集を読んでいることが多い。ゲームやテレビからもなんどなく離れてしまっていて、にも関わらず、だらだらとYoutubeを流し見して時間を溶かしてしまったりもする。

新しいゲームをプレイするなんて、いつぶりだろう。
なんだかわくわくする。
Switch Liteもほんとに嘘にみたいに軽い……!!

ぼわわわわ~(SE音)。
雪を思わせる白地に、ばっと鮮血のようなものが散り、赤字で「かまいたちの夜」というタイトルが浮き上がる。
え、なんかすごく怖そうなんですけど……。
わたしはいま東京のはしっこで一人暮らしをしているのだが、一人暮らしをするうえで、怖いものとは距離を置いて付き合わなくてはならない。でなければ、カーテンの隙間とか洗面所の鏡とかいろんなものにびくびくすることになってしまう……!!

まあいい。大切なのは俳句を詠むことだ。
タイトル画面のあとに、梟の栞が映る。ロード画面なのだろう。
梟は季語だ!!
梟の栞やよみがへるための
実物の梟ではないから季語の鮮度は落ちる。
まあ、詠んでいくことに意味があるのだ。

ペンション「シュプール」へようこそ。
お客様のお名前は 透 様。
おつれ様は 真理 様ですね。

→そのまま始める
 名前を変える

「かまいたちの夜」

え、名前? 主人公の名前を変えられるの? ここは「祥聖」にしておくべき?
お連れ様って、相棒的な? とりあえず「俳句」って入れられるのかしら。

ペンション「シュプール」へようこそ。
お客様のお名前は 祥聖 様。
おつれ様は 俳句 様ですね。

「かまいたちの夜」(髙田祥聖によるネーミング入力時)

……できちゃった。
とはいえ、やっぱり最初のプレイはきちんとしよう。お話が台無しになっちゃいけないもんね。
改名を迫りくるなり雪の宿

二句詠めたけど、もうすでにつっこみどころが満載である……。

先が思いやられる、と思ったのも束の間。

ようやく覚えたボーゲンでなんとか麓のレストハウスまでたどり着き、ぼくは一息ついていた。
真理はそんなぼくの目の前で、雪をけたてて鮮やかに止まった。
ゴーグルが粉雪まみれになって、何も見えない。

「かまいたちの夜」

このゲーム、字ばっかりじゃん!!

そうなのである。
「かまいたちの夜」はグラフィック上に直接文字が表示され、任意の選択肢を選ぶことで物語が展開するサウンドノベルと呼ばれる形式のゲームなのである。登場するキャラクターたちもシルエットで表示される仕様となっており、その表情を窺うことはできない。
吾も汝も雪まみれ文字まみれかな

観察できないじゃん!!

……いや、こうして記事にするには ある意味 都合がいい。
わたしには動画を編集するスキルはないけれども、サウンドノベルならば、場面を「引用」というかたちで紹介することができる。未プレイの読者のかたもいらっしゃるだろうから、ネタバレを極力避けて記事にすることができるかもしれない。

「かまいたちの夜」の冒頭は、小説らしく、登場人物の紹介に費やされる。
主人公の透。透のガールフレンドである真理。
いちゃいちゃしている。長野にスキー旅行に来てまで、いちゃいちゃしている。主人公の名前を「祥聖」、おつれ様の名前を「俳句」にしていなくてほんとうによかったと思う。
「無意識に手に触れる」てふ選択肢
好きかと問はれ雪の速さで頷けり

気付けば、外は猛吹雪。
それもこのペンションからしばらく出られなくなってしまうレベルの。
嫌な予感しかしない。

フロントのあたりで、女の子達三人が小林さん(ペンションのオーナー)に向かって何かを喚いている。
「ちょっと、ちょっと。落ち着いて話して下さい。一体何があったんです?」
「だから! 今部屋に戻ったら、床にこんな……こんな物が……!」
女の子達が震えながら、小林さんに小さな紙切れを差し出した。
横からのぞきこむと、赤いマジックのようなもので、字が書きなぐってある。

『こんや、12じ、だれかがしぬ』

「かまいたちの夜」

ほら~~~~~。
だから、俺 もう帰ろうよって言ったじゃーん(言ってない)。
液晶画面に『しぬ』が表示された直後、Switchから疑心暗鬼を増長させるような電子音が鳴り始める。やだよー、こわいよー。
ひらがなにひらかれてゐるしのよこく
一句詠んじゃったじゃん!!

冷静になろう。
どうして「こんや、12じ、だれかがしぬ」は平仮名なのだろう。
脅迫状によくある新聞の切り抜きならば漢字のはずだし、筆跡を知られたくないのならカタカナのはずだ。
これはゲームだから、たぶんこの後ほんとうに犠牲者が出るはず。こうした違和感は大事にしておいたほうがいい。
違和感は「気付き」だから俳句になるかもしれない……!!
殺人の手がかりが俳句になるかもと思っている探偵役。いやすぎる……!!(自分だよ)

こうしてわたしの初めてのゲーム吟行は、吹雪に閉じ込められたという意味でも、殺人事件が起きるかもしれないという意味でも、吟行どころではなくなってしまったのであった。

どぶろくやこんやじゆうにじだれかが死ぬ

【まさかの】

まさかの、ここまでで約三千文字。
さすがにこれ以上長くするのは……と思うので、今回はこのへんで。このへんで、って まだ第一の惨劇も起こってない!!
続編を書くかは未定です。

【御礼と宣伝】

第九回リブラ句会にご参加くださった皆さま、鱗さま、ありがとうございます‼︎
第十回リブラ句会は10/19 19時からを予定しております。参加のお申し込みはXのリブラ公式アカウントまで。
みなさまのご参加を心よりお待ちしております。


今回もお読みいただき、ありがとうございました!!
みんなありがとう、だいすきです。

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