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終焉のパラベルム

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斬り捨てろ。敵を、過去を、弱い自分を。
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OVERVIEW

About the Story  本作〔終焉のパラベルム〕は、永元千尋 / LIBERTYWORKSによるオリジナルの小説作品です。    いわゆるハイファンタジー系の物語、剣と魔法の世界だと捉えていただいて差し支えありません。  ただし、厳密にはその真逆、SF的なポストアポカリプスに相当するのかもしれません。現代よりもはるか先、遠未来の物語として解釈することも可能ですし、作者自身もそう感じられる作品であるよう意識をしています。  とはいえ、ジャンル的なものはあまり気になさ

第1章 - A

 石造りの広い浴槽に身を沈め、両の手足を思い切り伸ばしてから、脱力。  こんなにもゆったり、のんびりとした気持ちで風呂に入るのは何時ぶりかと、シオンは目を細めて長い息を吐きながら戯れに考えた。オード軍の練兵場に入ったのがざっと一年前なので、その前に街道沿いの大きな宿屋へ寄って以来だろうか。 「練兵場の女風呂は酷かったな。混んでるし、狭いし、時間も決まってるし……」  軍隊なのだから当然だという言い方もできるが、シオン以外で近衛隊に志願して訓練を受けていた女性たちはおよそ僧

序 - B

  「……隊長、また読んでるんですか? それ」  揶揄するような言われ方をしたものだから、エリクはいささかムッとしながら手にした本を閉じ、声の主である一回り年下の部下を睨めつけた。 「悪いか。好きなんだよ」  傍らのスツールへ大事に置いた本の表紙には〔REPTALIAN WARS -The Record of O'GHUOS I-〕とある。エリクが生まれ育ったオード大公領、その祖にあたるオーガスⅠ世の若かりし日々を戦記仕立てに綴って大流行した大衆小説だった。 「こない

序 - A

   霧雨が煙る丘陵を、一千名弱の歩兵大隊が黙々と歩み続ける。  全ての兵が防水性の高い黒色の外套を纏いフードを目深に被っているために、それはさながら墓所へ向かう葬列だった。風を受け勇壮に翻るべき金獅子の隊旗も、今は湿り気を帯びて重く垂れ下がるのみ。 「……中佐。オーガス中佐」  騎馬の手綱を引く参謀の声に、オーガスは我知らず伏せていた顔を跳ね上げる。 「すまない、少し考え事をしていた」  拙い嘘で誤魔化す。この暗い雰囲気にすっかり呑まれていたなどとは口が裂けても言え

BACKGROUND

旧帝国期 Early era (and Fall of the old-empire)   ――はるか昔。    その頃の人類は、今とは似て非なるもの、百の姿と千の名を持つ完全無欠の存在〔イデルニ〕であった。  イデルニは、森羅万象を解き明かす叡智と、それを具体的な力に変える高度な技術をもって、世界を覆い尽くすほどの一大文明を築き上げる。    しかし、イデルニは神にあらず、人であった。    ゆえに、自らの力に酔いしれ、溺れ、この世界の禁忌に触れてしまった。結果、聖霊の加護

CHARACTERS

“表”の部隊 / Main Squad・シオン  扶桑流剣術の遣い手。戦局を先読みする能力に長けていて、司令塔として実質的な部隊長役を担う。  エルフのように見えるが血筋は人間で、いわゆる“取り替え子”だという。幼い頃から相当な苦労をしたらしく、それ以上は過去の話をしたがらない。そもそも彼女がどこで剣術を学んだのか、どうやって戦術指揮を身につけたのかも。   ・メレディナ  魔術と神術の両方を修めて賢者の資格を得た才女。  〔永き民(エルフの旧称)〕が担った氏族の使命に

INTRODUCTION

 斬術の遣い手であるシオンは、五人の仲間たちと共に軍の最終試練を突破した。実力において先任の近衛隊を凌駕し、あらゆる脅威に対処可能な精鋭部隊であるという証を立てたのだ。  民間あがりの促成栽培。どこの馬の骨とも知れぬ愚連隊。あんな兵隊もどきが使い物になるものか。シオンたちに向けられていたあらゆる悪評は一日にして覆った。文字通りの快挙である。    だが、後に設けられた祝いの宴席で。   「……魔人エイドゥの討伐?! まさか志願したってのか?!」 「奴の潜伏先は〔混沌の魔窟〕だ