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オリジナル算数©️
放課後等デイサービスという施設をご存知でしょうか。対象年齢は、小学校1年生〜高校3年生まで。利用する子どもたちは、大部分が小中学校の特別支援学級や特別支援学校に所属しています。職員は、保育士や教職免許、福祉関係の資格(社会福祉士、介護関係の免許)を持っている人たち。私は、教職免許と学校心理士の資格により、雇用されました。
教職免許が中学校と高校だというわけではないのですが、その年齢の子の担当でした。そこで、中学生の男の子とマンツーマンの時間、学習指導及び援助をしてみたことを、述べていこうと思います。「定年後の再就職」というブログでは、箸練習について書きましたが、今回は私オリジナルの算数指導法に限定します。
KE君が宿題として渡されてくる算数の宿題は、1桁の足し算と引き算のみでした。そのやり方をご紹介します。支援学校方式です
7+8=足し算は後の数字の上に小さな◯を
8個。そして7から順に8、9、10...
13、14、15で終了。=15
9-5=引き算は最初の数字の上に小さな◯を
9個。その中で引く数5個に斜線。
残った◯は4個。=4
下手な説明で申し訳ありません。私の論理力は、この程度です。実は九九も怪しいのです。
この方式だと、◯の数に限界があります。すなわち、1桁で限界だということです。数字の組み合わせにも、限界があります。本人は、プリントを書き終わる速度にこだわっていました。
これでは、ダメだと思いました。1桁を2桁にしようと、勝手に判断しました。しかし、筆算は無理です。手元に100マスの方眼紙風の紙があるのを見て、私の頭上の白熱電球が灯りました。アイディアが浮かんだのです。
まずは、1〜100までの数字を書かせる練習から始めました。縦横10マスの用紙を横書きにして書かせることにしました。これが、第一関門でした。用紙の左端には、縦に1、1121、31........71、81、91と並ぶはずですが、そう簡単にはいきませんでした。書き終わって「終わりました。見てください」と言うのは、学校での作業学習のおかげでした。
ハイ!と受け取って、無言で間違いの部分を消して、「49から始めよう。次は?」と促すと、50、51、52と進んでいきます。右端から左端への移動でミスをするわけです。かなり時間をかけて、やっと完成しました。
もう散歩の時間になっていることは、本人も気づいています。時間の約束は守り、「今日の勉強は、これで終わり!」と言って、散歩に出かけます。平日は、最短コースの神社往復になります。ちゃんとお参りします。毎日10円奢ります。二礼ニ拍一礼。
そして、横のロシアンルーレット式おみくじを回転させます。大吉だと満足するけれど、吉や末吉だと直そうとします。それをさせてあげないので、諦めた様子で入口方向に向かいますが、必ず回れ右をして全力疾走で直そうとします。彼は、捕まらないように、三角形の長辺を走ります。私は、あらかじめ一定の距離を確保しているので、直線をゆっくり歩いて戻りますが、わざとギリギリ間に合わなかったという残念がるシチュエーションにしてあげます。
これを5回繰り返すと、相当な運動量です。5回目終了後、入口方向に歩いているのを距離も取らずに、どんどん歩いて追い越します。ここで、チャンス到来となるのですが、そのまま立ち去って行かれないように、後から付いてきます。鳥居を出たら、回れ右して一礼します。
その時、午後5時を告げるメロディが流れます。あと1時間でお迎えです。部屋に戻ってからは、私用のMacBookでYouTubeを見て過ごします。私は、タブレットで今日の様子を保護者に知らせるメールを作成。400字ぐらいで収めるようにしています。6時にお迎え。彼は自分の家のクルマの音を感知できます。「また明日ね!」で、勤務終了となります。
平日のスケジュールに脱線しましたが、肝心の100マス算数に戻ります。1〜100まで方眼紙に書くのも、少しずつバリエーションを加えていきました。まずは反転して、100〜1を書かせるため、最初の3マスに100、99、98と書き、最後に1と書いて渡します。フリーズしたようなので、左端を縦に90、80、70....30、20、10と書いてあげると鉛筆が動き始めました。
前に書いた1〜100の紙と見比べて、数が増える(+)と減る(-)の違いを実感してもらいます。そして、いきなり例題50+12=を一緒に解いていきます。まずは50を丸で囲み、12増やすまで13、14、15と指差していきます。そして、62でゴール。引き算はこの逆に進むわけです。
曲がりなりにも、2桁の数字の足し算と引き算が、できました。しかし、世の中は全て直球勝負だけではありません。まずは、4問の問題を足し算2問、引き算2問にしてみました。パニック現象が、起きました。全問不正解。こんな変化球には、なかなかついていけません。
ここで一度立ちどまり、座右の銘の引き出しから、この言葉を出してみました。
やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ
まずは演示すること、そして演示の説明を丁寧にすること、チャレンジさせてみて、結果がどうであれ褒めること。結果が出なければ、再び演示からスタートすること。そして、教材を精選することなどを読み取りました。
また、あまりにも教師主導型だったという反省もありました。教員の世界では、生徒があたかも自分の力だけでできたと思うような学習指導を「名人芸」と言います。そのためには、さりげないヒントを与え、ひたすら待つことが必要となるのです。急ぎ過ぎたのです。
足し引き算混合問題の前にも、混乱がありました。100〜1を書かせて、足し算に取り組ませた時、紙を上下にひっくり返して、誤答を連発したのです。いくら説明しても「何で?」と言うばかりでした。その日の成果はゼロでした。降順は、混乱を招くだけのようでした。
そこで、1〜100のみをベースにしていくことに。ただし、最初の1マスを空けて1、終わりが99という変化をさせてみました。これも混乱しましたが、一緒に声を出して書いていくと、最後までたどり着きました。一度で全部できたので、大きな花丸をつけました。まんざらでもないという表情でした。
この練習は、延々と続きました。学校の宿題は、支援学校方式を使わず、すぐに答えがでるようになったのは、驚きでした。さっさと終わらせて、「これをやろう」と、100マス用紙を出してきます。どうやら自信がついたようでした。こちらも、わざと行を跨ぐ問題を出していきます。花丸のついた紙は「塵も積もれば山となる」で、高くなっていくのが励みになります。彼の表情は、生き生きとしていました。
しかし、国語の宿題が出た時、彼の表情は曇りました。例えば、4人の先生が好きなお菓子という内容の文章を読んで、Q:〜先生の好きなお菓子は何ですか?という問いに答えられません。画数の多い漢字を視写できません。マス目から字が大きくはみ出してしまいます。
こういう宿題が出たら、100マス算数と散歩の二択になり、迷わず散歩を選びます。私は元々国語教師でしたが、好きなお菓子にラインを引くしかできませんでした。まず、音読ができないので、句読点まで読み切る練習しかできませんでした。
100マス算数は、邪道かもしれません。答えが、1〜100の中に納まらないといけません。しかし、彼は1桁の数字の組み合わせから2桁へ脱出することができたのです。教える側としても、「原点」を再確認できたと思っています。「勉強」という言葉は、学習とは異なると考えます。勉強には、創意工夫する楽しさが必要だと思います。そして、教えられる側を如何にして満足させるかという点が肝要です。
現在、特別支援学校の中1の国語を担当しています。たった3人ですが、スリリングな音読を、楽しみに待っていてくれます。よく言うことは「勉強は、おもしろいんだ!」なのです。