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トイレと経営戦略

 我が家近辺にあるスーパーマーケット、ホームセンター、ドラッグストア、大型デンキ店などのトイレを制覇済みです。買い物に行くと、いつも催してしまうのは、若い頃からの習性です。「これからお金を使うぞ」という貧乏性による緊張感が、尿意や便意をもたらす主たる原因ではないかと考えるところです。

 人には「トイレを見れば、その店の経営が見える」などと偉そうなことを言っていますが、あながち誤ってはいないと思います。「トイレには客を歓迎する心を込めよ」と、学生時代のバイト先のお好み焼き屋で教えられました。かつては、店によってトイレの清潔度格差が大きく、特に食品を扱う店は、トイレがきれいかどうかで買うかどうか判断していたくらいです。

 最近は、その格差も縮まり、どこに行っても快適なトイレ・タイムを過ごすことができるようになりました。しかし、オートマチック照明に辟易したことがあります。当然のことながら入った瞬間、照明及び換気扇が作動します。しかし、設定時間のミスなのか、個室に入ってまもなく真っ暗闇になってしまうのです。

 人感センサーが個室にいる人間を感知しないのでしょうか。お尻を便座に固定されつつ、手を振ってみたり、声をかけてみたりしても、反応はありません。暗闇の中で全ての用を済ませるのは意外に難しいことです。被害者意識から店に設置された意見箱に、その事実を書いて入れました。しかし改善は成されませんでした。そのドラッグストアには、もう行かなくなりました。その店は、常連客を1人失いました。

 どこかで聞いた話。客がトイレを詰まらせたり汚したりして、その対応策を命じられた優秀な人物が行ったこと。「いつも当店のトイレをきれいに使っていただき、ありがとうございます」という張り紙1枚攻撃です。そして「備え付けのトイレットペーパーをお使いください」という「お願い」を添えます。発想の転換によるアイディアは、効果抜群だったそうです。

 この「性善説」に基づく施策は、大発明として、トイレに限らず顧客対応に幅広く応用されています。こうした発想こそ、商いの原点であり、売る側の人間らしさを発揮できる点だと思います。これは自動化された人感センサーにはできないこととして、大切にすべきことだと考えます。商取引に関する顧客対応力の要は、やはり「感謝の心」だと思うからです。

 さて、我が街の一画に、大型店が集まっている場所があり、いつも賑わっています。デンキ屋さん、ドラッグストア、靴屋さん、ホームセンター、本屋さん、スーパーマーケットが並び駐車場を共用しています。その中には、トイレが設置されていない店もあります。そういう態度の店は、顧客対応としては論外です。

 昔の話になりますが、某ホームセンターのトイレの便座は、座ると思わずお尻を離してしまう物でした。当時の常識の「ウォームレット」と称する便座暖房が付いてなかったのです。思わず舌打ちをして、間に合わない状態のため座り直して、仕方なく用を足しました。

 会計をするためレジに行くと、店員さんの無愛想な感じが際立ちました。その時、私の固定観念に、無愛想な店というキーワードがインプットされました。大げさに言うならば、企業イメージの問題だと、考えてもいいと思います。商売繁盛の秘訣は、トイレにありなんて、格言めいたことを言いたくなります。

 時代の流れか、どの店のトイレも便座暖房付きのシャワートイレになりました。例のホームセンターも同様でした。しかし、レジの店員は無愛想なままでした。逆に、この場所のチャンピオンは、デンキ屋さんです。ここでは、客用トイレに推奨製品を設置しています。

 お店のトイレで用を足す時、まさか読書をしている人はいないでしょう。正面のドアには、この新製品の優れた点を紹介する広告が、常に貼られています。そして、特価が明記されています。実体験で、直接購買欲を刺激されます。

 また、トイレット・ペーパーの上には、衛生面の豆知識。例えば、コロナ禍の最中、便座の蓋を閉めて水を流す確かな効果内容が掲示されていました。また、1日2回のクリーンアップ記録用紙に、毎日2名のシャチハタが押印されていました。やはり、ここが一番です。

 さて、男性用の小便器ですが、命中していない例をよく見ます。ある人物は、ポリシーとしているのか、まるで小便器を抱え込むかのように用を足します。命中しないのは、距離の問題です。お店側としても維持管理が大変で、便器の上には何らかのメッセージがあります。

 だいたいが「一歩前にお願いします」というストレートな言い方が多いようです。しかし、個人経営のお店などでは、こうした風流メッセージを見かけることもあります。

急ぐとも 心静かに 手を添えて 
外にこぼすな 松茸の露

 有名どころを挙げてみました。しかし、もっとさりげない実に小粋な句を見たことがあります。確か「朝顔」という言葉が入っていたような、ぼやけた記憶があります。与えるインパクトが小さく、爽やかな後味だったので、その時感銘を受けてサラリと消え去る句だったはずです。いつか思い出したら、ご紹介しますね。

 私は、厚労省から委任された東京商業会議所の「健康経営アドバイザー」の認定を受けています。厳めしい名称ですが、講習をオンラインで受け、簡易な試験に合格すれば良い、気軽なライセンスです。

 健康経営とは、従業員の健康をコストとは捉えず、「投資」と位置付ける考え方です。従業員の心身の健康維持は、結果的に業績アップにつながります。いわゆるWin-Winの関係が成立して、職場に笑顔が生まれる経営戦略です。

 健康は、衛生環境によって維持されます。ここで、経営者の皆さんに提言させていただきます。特に接客を主とする業務の場合、来客及び従業員が使うトイレの様子を見ていただきたいのです。特にトイレが頻繁に使われる、コンビニエンス・ストアなどの小規模小売店などにおいては、必須事項だと思います。

 かつて我が街には、コンビニが過当競争状態にありました。マーケティングにおいては、基本的には立地条件を最優先すると思われます。しかし、閉業した店舗には、必ずどこかに「荒れ」が存在していました。私が知っている範囲では、その要因はトイレにありました。更には少々雑な陳列や従業員の態度にもありました。

 私がオーナーなら、お客様が使われたトイレを随時点検して、まるで最初の利用者と勘違いされるほど磨き上げます。当然、ペーパー先は銀座のマダム発明の三角にします。手洗い場の水の飛び散りも拭き上げます。効果テキメンだと考えます。裏を返せば、不快な経験があるからです。店先に「ご利用ください。キレイなお手洗い!」と幟旗を出すのは、やり過ぎと叱られるでしょうか?

 もし、自分の家に大切なお客様がいらっしゃる場合、どうしますか?接客は、まず一個人として考えることが基本だと考えます。いらっしゃったらVIP的人物が、玄関で「トイレを貸してください」と言われたら、「どうぞ、こちらです」と笑顔で案内できるようにしておくことでしょう。極めて常識的発想です。

 最近、「店舗経営維持10年」というキーワードを目にしました。長期経営存続のためにはまずは10年を何とか乗り切る精一杯の努力が絶対に必要だそうです。努力とは、マニュアルどおりの運営+アルファです。同じ業種はで成されていないことを、敢えて課すのです。

 市内の各種店舗を経営する皆さん、そして店長を任されていらっしゃる皆さん。ご活躍により、商売繁盛とともに、このさびれた街の活性化をよろしくお願い申し上げます。

 

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