益岡和朗から、めぐるさんへ #LGBTQA創作アンソロジー リレー日記

はじめまして。(G)の「最初の事件」を寄稿した益岡和朗と申します。

かつて西池袋の魔窟と呼ばれ、現在は大阪阿倍野に店舗を構える古書店「古書ますく堂」にて開催された読書会や座談会の記録を「ますく堂なまけもの叢書」という文芸同人誌として刊行する活動を主催しております。

また、文芸同人としての活動歴は長いのですが、よそ様の企画された御本に参加させていただくのは初めての経験でした。おかげさまでいつもとは少し違った作品が発表できたのではないかと思っております。主宰の柳ヶ瀬さんに感謝です!


1.近況

川瀬みちるさんからいただいたお題「最近はまっているコンテンツ」に絡めて考えると……うーん、やっぱり「百合」かなあ。

「ますく堂なまけもの叢書」で昨年、『平成の終わりに百合を読む 百合SFは吉屋信子の夢を見るか?』という本を出しました。これは、吉屋信子『屋根裏の二處女』(国書刊行会)と「SFマガジン 百合特集」をそれぞれ課題図書とした読書会レポート2本をメインにして「百合文化」を考える特集号だったのですが、これをつくってみて、「百合」というコンテンツの奥深さというか手ごわさを思い知ったわけです。

この経験で手にした「百合受容体」を使って、今まで何気なく目にしてきた小説やテレビドラマを振り返ると「あれもこれも百合じゃねえか!」と。本当、日々、新たな発見がある。

今は、この「百合受容体」を使って、今春完結したばかりのテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」(第6期)と向き合っております。


2.自作解説

百合の話をした後で恐縮ですが、今回書いた「最初の事件」は広義のBLということになると思います。

まず、テーマ競作アンソロジーに載せていただくにあたり、バリエーションを確保するということが大切なんじゃないかと考えました。

柳ヶ瀬さんから(G)成分が不足していることを伺っておりましたし、どちらかと言えば純文学的な作品が多くなるのではないかと勝手に予測しておりましたので、エンタメというか、ジャンル小説にしよう、と。

そして「BLミステリ」というのは意外にないんじゃないか。もともと、「ゲイ専用出会い系アプリ」のいくつかの機能を知った時、「これは犯罪に使えるんじゃないか」と考えていたんですね。なにかトリックとか、そういうものに使えるんじゃないか、と。で、このお話をいただいたときに、そのネタで書こうと思いつきました。

この犯罪に立ち向かう探偵側の人間としてまず僕が思い出したのが「沙粧妙子 最後の事件」という90年代のテレビドラマでした。猟奇殺人犯をプロファイリングで追い詰める女刑事が主人公のドラマでしたが、彼女が属する特命チームは犯罪者の心理に寄り添いすぎて崩壊してしまう。彼女自身も薬漬けになっていてかなり不安定な状態。色々とヤバイドラマでしたが、主演の浅野温子の存在感が素晴らしく、僕は大好きでした。

浅野温子が天海祐希の人気シリーズ『緊急取調室』のゲストとして久しぶりに刑事役を演じているのを観たとき、この沙粧妙子を思い出しました。沙粧妙子が今もまだ警察に籍を置いていたら、どんな事件を担当しているのだろうか。多分、邪魔者扱いされてるんだろうなあ。

実は、この小説の事件はちょっと、沙粧妙子には似合わないんじゃないだろうかと思っているのですが、現代は犯罪を犯す側にも、とかく余裕がないように思われるんです。手間のかかるトリックとか、洗脳とか、死体の見立てとか、そんなことを悠長にやってくれる犯罪者はこの国にはもういないのだろうなあ、と思うんですよね。だから、今ならこの程度の事件にも付き合ってくれるのじゃないかと、彼女をモデルにした「S室長」というキャラクターを置いてみることにしました。

ちなみに主人公のひとりでS室長唯一の部下である梅崎ハルオは、沙粧妙子の歴代パートナーの名前に「松」と「竹」が含まれていたことに起因します。次のパートナーは「梅」というわけ。さらに、その命名から作家「梅崎春生」も無視できなくなりまして、作中にはいくつか、梅崎作品にインスパイアされたネーミングが踊っております。(このあたりは、多分に遊びの部分ですが……)

もうひとつの重要モチーフは「六世中村歌右衛門」です。

もうひとりの主人公・蟹江シロウは地方の男子高校生です。彼はネット上の情報には繋がれるものの、実体としての「ゲイコミュニティ」に触れる機会はない。ネットで情報が得られるがゆえに、実体からは、肉体的にも心理的にも遠ざかってしまう。それが今、あらわになっているセクシュアルマイノリティにとっての地域格差なのではないかと個人的には考えています。

そんな彼が同類を見つけられる場所は、本の中にしかなかったんじゃないか。彼は青年団が代々演じる地歌舞伎の花形役者のひとりなのですが、憧れの先輩から渡された一冊の本に「同類」を認めます。それが「六世中村歌右衛門」というわけです。

参考文献としてもあげましたが、中川右介さんの『十一代目団十郎と六代目歌右衛門 悲劇の「神」と孤高の「女帝」』 (幻冬舎新書)は歌右衛門の恋愛遍歴を激しく追いかけた、BLファン的にも実に美味しい一冊となっております。この中の歌右衛門に焦がれた主人公が「同類」を激しく求めることで「最初の事件」は、幕を開けることになります。


3.作業環境

ここまで短い小説を書くのは僕にとっては珍しいことです。大体、100枚前後を基本として書いて、それを連作化していくというパターンが多いので、20~30枚程度で一本を仕上げるということ自体が珍しく、「ああ、このくらいの長さなら愉しく書けるんだな」と、なんか、感心してしまいました。

小説を書く際、大抵は第一稿は手書きで流し、キーボードで清書しながら第二稿をあげるというやり方をしていますが、この作品は最初からキーボードで書いたと思います。ちょっと気分を変えたかったのもあるけれど、単純に体力がなくなってきたのかもしれない(笑)

手で書くのは、エネルギーが要りますからね。文字を書くのは時間もかかるし。今後は段々、手書き率は下がっていくような気がしています。

BGM等も、最近は使わなくなりました。以前は音楽があった方が集中できるような気がして、椎名林檎や鬼束ちひろや小松未歩を延々と流し続けていたものですが、今、彼女たちの歌を聴きながら書いたら、彼女たちの世界観を強く感じすぎて、多分、書こうとしていた自分の物語の方を忘れてしまうと思う(笑)

ただ、もうすぐ魔法少女ものを書かなければならないので、これを書くときには何か、音楽が必要なんじゃないかとぼんやり考えております。


4.宣伝など

「ますく堂なまけもの叢書」は、今年、既に三冊、新刊を出しました。

■『インフラとしてのジャニーズ 令和の初めに「少年たち」を語る』

ジャニー喜多川氏の遺作となった映画「少年たち」をメインに、ジャニーズ黄金時代としての「平成」を振り返った一冊。

■『「おっさんずラブ」という未来予想図~革命の、その先へ~』

2016年の単発版から革命的な進化を遂げ続ける「おっさんずラブ」。その劇場版と2019年連続テレビドラマ版をテーマに語り合った一冊。

■『読書サロンにて、矢部嵩『〔少女庭国〕』を読む』

このリレー日記にもこれから登場するティーヌ氏が主催する、セクシュアルマイノリティが登場する小説を読む読書会「読書サロン」の体験版として、また、「平成の終わりに百合を読む」の続編としてもお愉しみいただける一冊。

本来ならば、LGBTQA創作アンソロジーと一緒に合同ブースで5月の文学フリマに並ぶ予定だった三冊です。気になるテーマがございましたら、BOOTHにて販売中ですのでご用命いただければ幸いです。(http://ichizan1.booth.pm)


先の皆様よりもだいぶ長くなってしまいました。大変申し訳ございません。

次は、めぐるさんです。めぐるさんへのお題は「コロナ禍が収まったら行きたい場所」にしようと思います。

ちなみに僕は、「ますく堂なまけもの叢書」の次回イベントとして考えていた『朝まで「さらざんまい」』(合宿形式でアニメ「さらざんまい」全話&舞台版『さらに「さらざんまい」~愛と欲望のステージ~』を鑑賞し、朝まで語り合うという企画)を達成するため、参加希望者の皆様とお泊り会に行きたいです。

実現はいつになるかわからないけど、楽しい予定を計画しつつ、毎日を乗り越えていきたいと思います。

というわけで、『朝まで「さらざんまい」』に興味のある方、参加表明お待ちしております!

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