街を歩く誰かになりたいっていつも思ってる
横断歩道で止まっているカップルがキスをしている。
イルミネーション輝く道を歩いて私は料理屋さんのアルバイトに向かう。寒くなってから案の定というか調子が悪く、寝込んでばっかりだった。ダウンを着て久しぶりに出た街は輝いていた。
同じ通りを少し南に下ったところで今、高校の同級生は婚約指輪を買っているらしい。
「あぁ、私も普通になりたい」
病気になってからこの台詞を何回頭の中で吐いては消しただろう。街行く皆が羨ましく思える。
実際は皆100%幸せなわけではなくて、仕事や家庭で問題を抱えてたりはするのだろうけれど、戦える土俵にいることが羨ましい。戦える身体があることが羨ましい。
何をしたら普通になれるんだろう。そんな曖昧な悩みを考えることすら最近は白々しい。
色んな経験をしたい。
ずっと病気に首輪をつけられていて、動ける小さな範囲で飼われている気分だ。私はもっと色んな人と関わりたいし、色んなところに行きたい。人並みに仕事で悩みたいし、デートだってしたい。
つまり、街行く人の架空の人生と自分の人生を比べずに街を歩きたい。