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佐津川愛美、デビュー20周年に“自分の名前”をつけた映画祭「映画館を好きになるきっかけになれば嬉しい」

2024年、俳優・佐津川愛美はデビュー20周年を迎えた。2005年の映画『蝉しぐれ』出演以降、出演してきた作品は映画、ドラマ、舞台はもはや数え切れないほどで、常に各フォーマットの“どこか”に現れる。いまや引く手あまたの実力派ともなった彼女だが、とりわけ映画への思いは強く、周年を記念して今年『佐津川愛美映画祭』が全国4箇所で開催中。その実施背景を聞くとともに、読者に知ってほしい「映画に携わる人たちの存在」を語ってくれた。

■誰一人、無謀なことだと思わず協力してくれた

「いつか愛ちゃんの映画祭をやりたい!」
 
佐津川愛美のデビュー20周年を記念して開かれた『佐津川愛美映画祭』。プロジェクトが動き出したのは、彼女が地元・静岡で新体操を習っていた時の後輩で、現在はイベントの企画運営を行っている「まおちゃん」の熱意が大きかった。
 
「前からずっと言ってくれていて、すごくありがたかったんですけど、私としては、あまり現実的には受け止めていませんでした。でも彼女を中心に、誰ひとり無謀なことと思わず、『いいねいいね!』って言ってくれて……。名古屋だったら松岡ひとみさん、東京だったら伊藤さとりさんが劇場と繋いでくださったり、いろんな方がご協力してくれました」
 
そもそも、そのプロジェクトが動き出す少し前のこと。佐津川はキャリア初とも言える長期休暇を取っていた。リフレッシュという意味合いではない。「この仕事を辞めようかな」と思うほど、“空白の時間”を必要としていた。
 
「そうそう、そうなんです。私、結構休んでたんです (笑)。『東京にいたくない!』って思っちゃって。京都には1ヶ月いたし、名古屋にもいて、そのときにまおちゃんとお茶して改めて映画祭のことを話してくれたんです」
 
自分の名を冠した大規模な映画祭。実施したいという意向を事務所に話した時、かなり驚かれたようだ。
 
「同時期に事務所に入った子は5周年とか10周年とかでイベントをやってたりしてたんですけど、私はそういう催し物をしてこなかったんです。そもそも節目を意識していなかったですし。でも、20周年の節目ならやってみてもいいかもしれないと。」
 
この世界に入ってから好きになった映画撮影の現場、そして映画館の雰囲気。「私」を広めるというよりは、映画への恩返しのために開いた側面が大きい。
 
「デビュー作の『蝉しぐれ』で映画の現場が好きになって、そこから自分でお金をある程度払えるようになってから映画館に行くようになりました。ただ、コロナがあって、劇場に来る人が少なくなってしまったので、また映画館で映画を見る人を増やしたい、諦めたくないって思ったんです。この映画祭を劇場に行くきっかけにしてほしかったんです。実際来てくれた人に『ありがとうございます』って直接言えて嬉しかったし、完売いただい劇場さん がすごく喜んでくれて本当によかったと思いました。」

■「俳優部は下の下だ!」忘れられない監督の言葉

 ドラマ、舞台ももちろん出演するが「映画が原点」という思いが彼女にはある。芸能界には「どこか軽い気持ちで入った」こともあり、様々なオーディションを受けながらも、他人事のように思っていた。だが、先ほど話題に上がった『蝉しぐれ』の出演で、すべての価値観が変わっていった。
 
「『とにかくすごいな』って思ったんです。予想をはるかに超える人が関わっていたし、完成したものをスクリーンで見たとき、本当に感動したんです。『あの山形での撮影がこんなふうになるんだ……』って。そのとき高校生で、そこまで映画をちゃんと見た体験もなかったので、エンタメの素晴らしさみたいなものも感じたんです」
 
またこの現場で、監督の黒土三男から忘れられない言葉をもらっている。
 
「『俳優部は下の下だ』って仰っていたんです。映画って、いろんな部署の方々がいて、みなさんが作ってくれた土台の上で俳優部は芝居をしているわけです。実際、映画にはどんな役割があると思いますか?撮影、照明、録音、メイク、衣装……それ以外の部署って、パッと浮かんでこない方も多いかなと思います。」
 
俳優、監督以外はいわゆる「裏方」として扱われることに積年の思いを持っていた彼女は、映画祭と並行して映画業界に携わるスタッフに、自らがインタビューした「本」を10月に発売する予定だ。
 
「映画にはいろんな部署があって、これだけの人数で映画を作ってるっていうことを知ってもらいたくて、これまでもポッドキャストで発信しようかなとか模索していたんです。数年前に自分が出演した映画が公開中止になったことがあって、なおさらその思いが強くなって……そんなとき、本を作るっていうことにたどり着いて。インタビューしていく中で、私も知らないことがいっぱいあったし、もしも若い世代の方たちが映画業界に興味を持って、映画業界を目指したいと思ってもらえたときに役に立つことがあればいいなと思っています。学校の図書館にも置いてもらえるように準備を進めています。」

■映画は「大きな船」みたいなもの

 映画祭、本……映画への感謝を還元する活動はそれだけではない。地元・静岡で、子ども向けに「映画制作の一日現場体験企画」を開催した。
 
「もともと、お子さん向けの撮影現場体験はいつかやりたいと思っていたんです。単純に映画好きな子に来てもらっても嬉しいですし、全然映画を見てない子にも来てもらって、仕事に触れてもらうことで、照明やってみたら面白かったとか、こんな仕事があるんだって、先の未来に繋がってくれたらいいなっていう気持ちでした」
 
連日撮影現場にいる俳優という仕事の特性上、一般の人たちと交流する機会は多くない。だからこそ、企画した2日間は感動的だったという。
 
「私が業務連絡とかもやってたんですけど、『こんな機会を作ってくださってありがとうございます』ってメール返信くださったりとか、親御さんも『貴重な機会をありがとうございます』って言ってくださって、ワークショップも、直接やり取りすることもやったことがなかったので、本当やって良かったなと思っています。いつもはやってもらっている作業を経験して、今まで『なんでメールアドレスと電話番号を両方登録しないといけないんだろう』とか思ってたんですけど、メールエラーのときに電話に連絡するんだなとか(笑)色々と自分にとっても勉強になることが多かったです」
 
この一連のイベントが終われば、また何か企画はするかもしれないが、撮影現場といういつもの場所に帰って、良い作品づくりにはげんでいく。その意気込みを語る彼女の目はきらきらと輝いているように思えた。
 
「本当、映画って『大きな船』みたいだなって思うんです。みんながみんな、自分のプロフェッショナルを持ち寄って、ひとつの作品のために力を尽くす。それって、改めて考えるとすごい素敵なことだなと思っていて。今回の経験を通して、映画の魅力を更に実感できて、とっても幸せな時間を過ごさせてもらっています」

【リーズンルッカ’s EYE】佐津川愛美を深く知るためのQ&A

Q. 佐津川さんがいまプライベートでハマっているこは?

A.家には結構観葉植物があるんですけど、その仲間を増やしたいと思って、この前撮影帰りに寄ったお花屋さんで、4つぐらい追加で買ってきたんです。店員のおじさんが『このパキラはね、最初はすごくちっちゃかったのに、こんなに大きくなったんだよ。すごい子だよこの子は』って言ってくれたのが愛らしくて、『絶対この子買おう!』と思って。いまは、鉢を可愛いのにしたくて、探している最中です。インスタで調べてるんですけど、あまりにも見すぎてるから私のおすすめがだいたい『鉢』になりました(笑)。4つ買ってきたうちの1個は洗面所に置いたんです。ちょうどお風呂に入るときに見えて、癒やされてます。最近、なるべく自分の好きなものに囲まれて暮らそうっていうのは意識していて、その気持ちがいま一番強いかもしれないです」

<編集後記>

2007年の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』以来、長年注目していた佐津川さん。何者でもなかった頃から、17年越しにこうやってインタビューする機会を得ることができて、万感の思いが去来した。その話を本人にもインタビュー前に伝えたところ「その頃から20年が経ってるんですよね。すごい、お互いそんな生きてるんだ!ってなりませんか」との率直な感想。理性的な部分と、屈託の無さ、どちらも垣間見えて「バランスの良い人だな」と新たな発見があった。映画祭のエピソードよろしく、愛される理由もわかった気がする。 

【プロフィール】
佐津川愛美(さつかわ あいみ)
1988 年生まれ、静岡県出身。 14 歳の時スカウトされ芸能界入り。2005 年『蝉しぐれ』で映画デビュー。主な出演作に映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『ヒメアノ~ル』ドラマ『がんばっていきまっしょい』『最後から二番目の恋』『おっさんずラブ-in the sky-』『ちむどんどん』など多数。
幻 冬 社 plus に て エ ッ セ イ 【 い つ ま で 自 分 で せ い い っ ぱ い ? 】
https://www.gentosha.jp/series/itsumadejibundeseiippai/ 連載中。
Instagram 
 
佐津川愛美映画祭
https://satsukawaaimi-filmfestival.com

 取材・文/東田俊介
写真/まくらあさみ


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