風が秋にかたむいたから
風はいっきに秋にかたむき
ぼぉーっと過ぎていった夏を想う
夏の中にいるときは
夏という時間に守られるように
夏の暑さを言い訳にして
だらりだらりと毎日が過ぎていった
何かとても怠惰なことが
何かとても勤勉なことよりも
ずっとずっと偉いことのような
そんな気分でいたんだ。
夏という季節は
魔物がたくさん住んでいるからね
気をつけなきゃいけない。
そう知りながらも
昼寝を繰り返し
クーラーのスイッチを押し
そうめんを食べ続けた
僕の夏。
そして9月になり、
台風に秋が運ばれてくると
どうしてだろう
夏のことは
とても離れた場所に
透明なカプセルに閉じ込めるようにしておかないと
なぜだか
悲しくなってしまって
日常生活がうまく送れなくなるんだ。
とりわけ
海に行ったとか
バーベキューをしたとか
そんな夏らしい思い出なんて
ひとつもないんだけれど
それでも
夏の記憶は特別で
夏の記憶は輝いて見えるよ。
終わっていくときに
意識してさよならを言わなきゃならないそんな季節って、夏だけだ。
少なくとも、僕の中では。
春も、秋も、冬も、さよならなんて言わなくたって勝手に終わり、勝手に過ぎていく。
特別な季節だけど
とりわけなにもなかった
そんな夏から
風はいっきに秋にかたむき
僕はいっそう増したかなしさのなかで
明日の天気予報をなんとなしに見つめている。